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「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.38 ラトビアの伝統的な「立秋祭」

バルト海に面した緑豊かな国、ラトビアに伝わる手仕事の数々。今も昔も変わらない、素朴でやさしい温もりのある伝統的な技、そしてそれらを残し伝えていくベテラン職人、伝統を受け継ぎ新たな形を築く若手作家の作品など。雑貨屋「SUBARU」の店主・溝口明子さんが出会った、ラトビアの手仕事の現在(いま)を現地の写真と共にお届けします。
Text,photo:Akiko Mizoguchi

まもなく秋分の日ですが、先月ラトビアで立秋のお祭りに参加してきたのでレポートしたいと思います。
8月中旬のラトビアは、まだまだ日は長く、たわわに実る野菜や果実、色とりどりの花々であふれています。子どもも大人も夏休みシーズンを満喫する明るいムードで国土全体が満ちつつも、日ごとに早くなる日の入りや、朝晩のひんやりとした空気に秋の気配も感じます。

8月中旬の日没は21時頃。これは日の入り一時間前の草原の様子。

大地の恵みに感謝する立秋の祭り「Māras diena(マーラス・ディエナ)」

緯度が高いため、夏と冬で日照時間が大きく異なるラトビアでは、古来から太陽の動きが重要視されてきました。太陽の軌道に合わせて一年を立春、春分、立夏、夏至、立秋、秋分、立冬、冬至の8つに分け、その節目に祭祀を行い、農作業の目安にしてきました。夏至と秋分のちょうど間にあるのが、日本でいうところの「立秋」のお祭り、「Māras diena(マーラス・ディエナ)」です。実際には、天文学的な立秋の日よりも数日遅れの8月15日にお祝いされます。

この「Māra(マーラ)」とは、ラトビアに伝わる神話や民謡における女神のことで、別名「大地の母」とも呼ばれます。作物や家畜、家、そして人生までも庇護する存在で、特に女性や子供の守護者とされています。
マーラの日は、夏が終わり、本格的な秋に向けて作物の収穫が始まることを祝い、大地の恵みに感謝する年中行事です。昔の人々は、マーラが農地や家々を巡り、収穫や営みを祝福すると信じていました。

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お祭りの準備が進む会場。女性はライ麦の冠をかぶっている。

私が参加したお祭りでは、会場の支度を整えたあと、まず麦畑へ向かい、一面に広がる麦のなかからラトビアの神話における「Jumis(ユミス)」を探しました。ユミスは、穂先が二股に分かれた形状をした穀物で表され、豊穣を司るといわれています。

歌いながら麦畑へ向かう一行。
広大な燕麦の麦畑!

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その後、会場へ戻り、焚火を囲んで儀式が続きます。特に、収穫した野菜やハーブ、穀物、とれたてのライ麦で焼いた黒パン、しぼりたての牛乳は、ライマへ豊穣の感謝を示すうえで欠かせません。

ラトビア独特の文様「マーラの十字」が刻まれた祝祭の黒パン。 ©Biedrība Atceries Latviju
祭祀は円形になって焚き火を囲み、途中民謡を歌いながら進む。

一連の祭祀が終われば宴の始まりです。収穫したての食材を中心にしたご馳走を食べながら、歌ったり、フォークダンスを踊ったり、歌遊びをしたりと、楽しい時間が続きました。かつては、立秋から秋分にかけて婚約、結婚へと進むのが一般的でした。そのため、このマーラの日は男女の出会いの場であったといいます。 このマーラの日は、これまで私が参加してきた年中行事のなかで一番女性の役割を感じたお祭りでした。母なる存在「マーラ」が司る日だからだと思われます。

ご馳走が並ぶ宴のテーブル。 ©Biedrība Atceries Latviju
日が暮れても祝祭は続いた。

以上が、ラトビア古来の「マーラの日」のお祝いの仕方です。おもしろいのが、「冬至祭」や「春分祭」でも紹介した通り、このようなラトビアの伝統的な祭祀が、キリスト教とも関連しているところです。実際「マーラの日」である8月15日は、キリスト教における「聖母マリアの被昇天の祝日」と一致します。特にラトビア東部ラトガレ地方にあるAglona(アグルアナ)はカトリックの聖地で、例年数万人もの巡礼者が訪れます。

アグルアナの大聖堂ではほぼ夜通し祈りが捧げられる。

天文学的に8月初旬であるはずの立秋のお祭りが8月15日に行われるのは、13世紀初頭から始まったキリスト教化の影響で、ラトビア古来の農耕的な民俗信仰(大地の母マーラ)とキリスト教(聖母マリア)の祭日が重なり合って形成されたからだと考えられます。

「マーラの日」にあたっては、天気にまつわるこんな言い伝えがあります。
・空に積雲が出ていたら、温かく穏やかな晩夏になるでしょう。
・雨が降れば、秋は雨がちになるでしょう。
どちらかといえば前者だった今年のマーラの日。実際、滞在していた8月末まで穏やかな天候のなかで過ごすことができました。

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PROFILE

溝口明子 Akiko Mizoguchi

ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。

http://www.subaru-zakka.com/

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