「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.37 ラトビアの伝統的な暮らしに根差す「Folkloras kopa(フォルクロラス・クアパ)」

ラトビア人の暮らしには必ず歌があり、音楽があります。その中核をなす、民謡「Dainas(ダイナス)」や民族楽器「Kokle(クアクレ)」については、これまで紹介してきましたが、今回は音楽の担い手ともいえる「Folkloras kopa(フォルクロラス・クアパ)」について紹介したいと思います。
ラトビアでは、クラッシック、ジャズ、ポップスやロックなど実に多彩な音楽を楽しむことができます。国の規模から考えると、これらの音楽を楽しめる施設も充実していると感じます。多様な音楽が溢れているラトビアのなかでも、他国と比べたときにその音楽シーンを独特にしているジャンルがあります。それが、合唱と伝統音楽で、「音楽」という枠を超越した、ラトビアの文化や伝統を象徴する存在です。


ラトビアの民謡、生活に息づく音楽を歌い繋ぐ存在
合唱についてはまた別の機会に紹介するとして、この伝統音楽を現在も正確に伝えているのが冒頭に書いた「フォルクロラス・クアパ」。直訳すると“フォークロア・グループ”になりますが、その活動内容には言葉の響き以上の深い意義があります。
フォルクロラス・クアパは、伝統文化を守る地域ごとのコミュニティのような存在で、民謡を歌い、古くから伝わるフォークダンスや歌遊びを楽しみ、夏至祭や冬至祭などの季節の祭祀を行う団体です。お祭りを執り行うからといって敷居が高いわけではなく、フランクなサークルのように老若男女が定期的に集って活動しています。民謡も、プロのミュージシャンが聴衆に聴かせるために歌うのではなく、参加者みんなでシンプルな旋律のダイナを歌います。かつて、農作業をしながら歌ったり、冠婚葬祭の場で歌ったり、お祭りで男女で掛け合いを楽しんだり…、そんなラトビアの伝統的な暮らしがギュッと凝縮された民謡、それらを歌い繋いでいる場であり、生活やしきたりと歌が一体化していることをありのままに示しています。
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「音楽を作ったのは作曲家ではなく、普通の農民の暮らしのなかで生まれてきた。」
これはとある有名な音楽家が言っていた言葉です。フォルクロラス・クアパは、現代においてもなおそのことを体現しているかのようです。ラトビアの伝統音楽は、素朴なのに心に残るのですが、それは興行性など関係なく日々の営みのなかで自然に生まれ、人から人へと口承で伝わってきたメロディだからなのかもしれません。正確な数字は集計されていないので分からないのですが、こうしたフォルクロラス・クアパは、ラトビア全土で150団体以上はあると推定されます。


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私はラトビアに滞在する際には、「GRAUDI(グラウディ)」というフォルクロラス・クアパに参加させてもらっています。2012年に設立されたグラウディは、Ogre(ウアグレ)県Tome(トゥアメ)地区においてラトビアの伝統を守り続けている団体で、年中行事の祭祀を祝い、地域の歴史や伝統を探求しています。
グラウディに顔を出すようになって、ラトビアにおいて歌は芸術というより生活の一部なのだということがあらためてよくわかるようになりました。練習会では、軽食を口にしながら、「次の夏至祭では何を歌おうか」などと真面目に話し合いながらも、陽気に歌って、踊る。真剣でありながらも、和やかで心温まる空気で満ちていました。夏至祭本番は、グラウディのコアメンバーだけでなく、たくさんの地域の皆さんも一緒になって祝祭のひとときを楽しんでいました。





ラトビアの伝統音楽を独自に発展させたもう一つのジャンル
実は、ラトビアの音楽シーンを独特にしているジャンルがもう一つあります。それは、「Postfolklora(ポストフォルクロラ)」という、ラトビア特有の言い回しの音楽です。
民謡や伝統音楽をルーツにしながら、それぞれのバンドが独自に再構築して現代的に発展させたもので、古くから伝わってきたラトビアの民謡を、ジャズやロック、ポップス、電子音楽といった現代的な要素と融合させています。
エレキギターやドラムなどはもちろん、エレキ・クアクレまでもが使用されています。これらの音楽は、素朴な旋律をエンタテイメントに昇華させながらも、根底に流れる伝統音楽のエキスが効いていて、やはり胸に響きます。


ラトビアの伝統音楽シーンを眺めていると、フォルクロラス・クアパといったグループが伝統を守り、後世へ伝えている一方で、ポストフォルクロラのように新しい形態を自分たちのアイデンティティに取り入れながら発展させていく一面もあり、伝統と現代がうまく共存していると感じます。時代が進んでも、これからも伝統音楽はラトビア人の暮らしともにありつづけるのだと思います。
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PROFILE

溝口明子 Akiko Mizoguchi
ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。