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第13回 モロッコの手織りのラグ -姉妹が行く! 世界てくてく手仕事の旅

2024年春、姉妹で世界一周の旅に出た手仕事ライターの毛塚美希さんと、酒場文化が大好きな妹の瑛子さんの連載がスタート! 姉妹旅のテーマは①手仕事、②食文化と酒場、そして③囲碁交流…!? 地域に根ざした手仕事と食文化、ときどき囲碁にまつわる旅エッセイをお届けします。第13回は、モロッコの手織りのラグの現地のお話。
photo & text: Miki Kezuka & shimaitabi, edit: Hinako Ishioka

モロッコの手織りラグ

連載13回目はモロッコの手織りのラグについて。
モロッコは北アフリカにあり、スペインからジブラルタル海峡を挟んで向かい側に位置し、古くから交易の中心として栄え、アフリカとヨーロッパ、アラブやアジア、少数民族やイスラム教、キリスト教といったさまざまな文化や宗教の混ざり合う国です。
今回モロッコでは、空港のある南の都市アガディールにある小さな村アンザ、港町のエッサウィラ、モロッコの真珠と呼ばれる旧市街の広がるマラケシュ、砂漠の村タゴウニート、織物の村タズナフト、草木染めを見せてもらった小さな村アンザル、映画のロケ地として有名な村アイベンハッドゥ、砂漠で有名なメルズーカ、古都メクネス、革なめしの有名なフェズ、と、たっぷり時間をかけて合計6週間ほど旅をしました。

モロッコの都市のマーケットには、ラグがずらりと並ぶ。
メディナは、地元の人も世界中からの商人も旅行客も、さまざまな人と物が混ざり合い、活気に満ちている。
フェズの革なめし工房の様子。
古都メクネスの街は、町工場のような雰囲気が広がり、みな店番の傍らで制作している。
イスラムらしい模様の木工細工や石工、タイル屋さんと職人も並ぶ。

街の中心の市場であり旧市街のメディナは活気があり、まさに文化の交流地点。地元の人も旅行客も商人もごったがえし、不思議とそれらが分裂せずに馴染み関わり合いながら、それぞれが大切な要素として街を作り上げていました。それは遥か昔からいろんな国や地域から人々や物が集まり、珍しいものや特産品、ビジネスチャンスを求めてやってきた血がこの地に根付いているからかもしれません。

マラケシュのメディナ。さまざまな人や物、文化が混ざり合う。

モロッコでは革製品や陶器などさまざまな手仕事が今も受け継がれています。中でもアマジール(後述)の人々の作る伝統的な手織りのラグを見た時、その多様さとひとつひとつに込められた織り手の想いや背景の物語を知った時、あまりの美しさに感動したのを今でも覚えています。
今回はそんなモロッコのラグのお話です。前編ではラグ作りの発展や文化の背景や、ラグの首都と呼ばれる村や民家を訪ねた様子を、後編では作り方とラグや織り方の種類、模様の意味や毛糸を染める草木染めについてご紹介します。

約100年前に作られたという手織りのラグ。
単なる装飾ではなく色や形は意味を持つシンボル的な模様が中心。
多くのシンボルが配置されたカラフルなデザインや、下の写真の部族を表すモノクロのひし形のデザインなど、モロッコのラグは多様性や民族性がある。
部族によってひし形の模様が異なる。
さまざまな模様を組み合わせたデザイン。

ラグの発展の歴史と背景

砂漠のイメージの強いモロッコですが、実は山も多い地形です。山には農業と羊の放牧を組み合わせた半定住と半遊牧の生活様式を持つ“アマジール”と呼ばれる人々がいます。古くからこの土地はアマジールの民族の村がたくさんあります(”ベルベル人”の呼称でよく知られていますが、外部の人々が“野蛮な人”という意味でベルベル人と呼んでおり、彼らは自分たちのことをアマジールと呼ぶため、この記事ではアマジールと呼びます)。
山岳地域では冬の寒さや日中の寒暖の差が激しいため、羊毛のラグで寒さから身を守る必要があります。また、羊は限られた自然環境の生活の中で、羊毛だけでなく、肉や乳、革製品など様々な用途で活躍してくれます。

羊が放牧されている様子。街から街へ移動するときの風景に。

ここで、1つの疑問が沸きました。同じ山岳文化のキルギスでも同じように羊の遊牧が盛んで、羊毛を利用したカーペットが発展したのに、なぜモロッコでは”織りのラグ”が、キルギスでは”フェルトのカーペット”が発展したのか。世界一周をして横断的に世界の手仕事を見たからこそ感じた疑問でした。

調べてみると、フェルトのカーペットをつくるキルギスではステップ気候と呼ばれる大草原が広がりっています。険しい山がちの地形のため、用水路が整備された灌漑(かんがい)農業は難しく、羊の食糧源となる牧草地は夏の高原と冬の低地に広がり、季節によって牧草地が大きく離れるため、大移動をする遊牧の生活が定着しました。第10回で紹介したユルタのような移動式テントには、羊毛フェルトが床だけでなく、壁や屋根にも使われています。冬はマイナス20度やそれ以上の厳しい寒さに耐えるため、断熱性が高く、また移動が多い中でも大判での制作が可能で織機などを必要としない、制作時間も短く軽いフェルトが発展しました。

「第8回 キルギスの地方の良さを活かしたフェルト人形」はこちら
「第9回 キルギスの温かみが詰まったシルダック」はこちら
「第10回 キルギスの遊牧民が暮らすユルタ」はこちら

一方で、織りのラグが発展したモロッコでは、谷合やオアシスでは灌漑による耕作も可能な気候と地形かつ、夏と冬の牧草地の距離がキルギスほど大きくないため大規模な移動が必要なく、小規模農業+放牧という半定住の生活様式が発展することが可能でした。そのため、比較的重く、織機が必要でかつ時間もかかるラグの制作が可能になり、装飾性も高まりました。

モロッコのラグは装飾性が高く、さまざまな意味のある模様がたくさん描かれている。
砂漠の山とオアシスの近くに街が広がる。

ラグの首都”タズナフト”を訪ねて

旅の途中で訪れた市場で「モロッコのラグ作りをしている村を訪ねたい」とラグ商人や宿の人、いろんな人に聞きましたが、「山の方」とか「色んな村」と言われるけれど、具体的にどこを訪ねたらいいのか分かりませんでした。偶然ホームステイをすることになったタゴウニートという村のアマジールの宿のお兄さんが、「それならタズナフトがいいよ」と教えてくれました。後から知ったのですが、タズナフトはモロッコのラグの首都と呼ばれているそうで、アマジールの村であり、ラグ作りに必要な水資源に比較的恵まれた土地です。
タズナフトを訪ねると、小さな村にはたくさんのラグ屋さんが並んでいます。軒先に大きなラグがかかり、店内にはたくさんのラグが積まれており、お客が来ると店主がここぞとばかりに慣れた手付きで1つ1つラグを広げて見せてくれ、宝探しをするような気持ちになりました。

タズナフトではオーナーの奥様が日本人の宿、Hôtel Taghadouteに宿泊し、オーナーのアジズさんにラグについて詳しく知りたいと相談すると、Cooperative Timdoukaleというアソシエーションを紹介いただいたり、近くの村で作っている知り合いのお宅を特別に訪問させていただいたり、たくさんお世話になりました。

宿の屋上からの景色。街にはラグ屋さんが並ぶのが見える。
小さな村らしい市場の風景。
地方では、ワンピースのようなゆったりとしたデザインのジェラバと呼ばれる伝統的なガウンを日常的に着ている男性が多い。

ラグ屋さんを訪ねて

タズナフトには、ラグ屋さんだけでなく、伝統的なラグの手仕事を守りながら地元の女性の地位向上や収入向上を目指すアソシエーションが複数あり、Cooperative Timdoukale(以降、コーポレティブ)はその1つです。
コーポレティブは、現在のオーナーのモハメッドさんのお父様が約45年ほど前に、村の女性を助けるために作ったと言います。このアソシエーションはいろいろな部族や家族が協力して、伝統を守ったクオリティの高い手仕事のラグを生産販売するところで、政府に認定されています。コーポレティブでないところでは、店主の家族や知り合いが作ったものが並べられていることも多く、値段やクオリティはバラバラです。こちらのコーポレティブでは、周辺の村の633の家族が織り手や染めや毛糸の制作などと関わっており、どの家もラグ作りを通して経済を回しているそうです。

Cooperative Timdoukaleの店頭の様子。

とある方にお聞きしたのは、モロッコでは男性がカフェでダラダラと過ごし、女性が働いてカーペットづくりで収入を得て家計を支える、頑張り屋さんの妻という定番の演劇があるほど女性が家庭で手仕事をするのが身近な光景なんだとか。
イスラムやアラブの文化では、妻や家族の女性は守るものという意識が強く、夫は妻が外に出るのを嫌がったり、モロッコの地方では子沢山の家庭が多く、常に妻は妊娠していることも多かったりします。そのため、ラグ作りは家でできる仕事として、また、模様のシンボルを通して女性の内なるエネルギーを表現したり癒しの効果もあるというのも定着した理由だと思うと話してくださいました。

モロッコではどこのカフェやレストランでも男性がコーヒーや紅茶、タバコを片手におしゃべりを楽しんでいる風景が定番だった。

Cooperative Timdoukaleでは、織る前の簡単な流れも説明していただきました。のちほど実際に民家を訪ねて作っているところを見させていただいたので、後編で詳しく、この記事では簡単に紹介します。

まず、羊毛を準備する。
次にコームのようなもので羊毛を挟んで撫でて柔らかくしながら扱いやすく均一にしていく。
次に回しながら巻きつけて毛糸にしていく。
毛糸にしたあとに、ザクロの皮(黄色)などの植物を使って草木染めしていく。
ザクロの皮などその土地ならではの染料が見られる。

小さな村の織り手の女性の家を訪ねて

宿泊したホテルのオーナーのアジズさんの知り合いにカーペットを織っている女性がいるとのことで、特別にそちらのお宅を訪ねさせていただきました。

ご自宅でラグを作る様子。

こちらの女性は、デザインにもよりますが1人だと15日ほどで1枚のラグを作り終えるそうです。7歳からお母さんに教えてもらいながらラグ作りを始め、現在39歳で、娘にもラグ作りを教えていると言います。「ひし形が繋がっているのが古いデザインだよ」と教えてくれ、模様の意味を訊ねると、「模様の意味は知らないが、お母さんからデザインを受け継いでいる」と話してくれました。一般の家ではだんだんと模様や色の意味や背景の継承は薄れながらも、シンボルや模様の民族の伝統が続いている様子がとてもリアルに感じました。

模様になる横糸を編んでいく様子。さまざまな織り方を組み合わせている。
最後に毛糸の表面をカットして厚みを揃える。

図面はなく、頭の中にあるお母さんから受け継いだデザインや模様をその時に頭に浮かんだ場所に織っていくそうです。そのため、家族や女性によっても違うし、同じ女性でも同じものは1つもありません。「その時その時の、女性の内側から湧き出てくる特別なものがある」と教えてくれました。ここの自宅だけでなく、どのコーポレティブでもラグ作りの話を聞く時、通訳をしたり店頭の男性はみな、どこでも織り手の女性への大きな尊敬と敬意を感じる話し方をしてくれたのが印象的でした。
伝統的な部族や家族に伝わる手仕事を紡ぐことは、模様やデザインを通して自分の文化を理解し、知恵の結晶や人生観を次世代に伝えることにもなると実感しました。

自宅の静けさの中で、自分の内側と向き合いながら行われるラグの制作風景は神秘的なものがあった。

(後編へ続く!)

PROFILE

世界一周 姉妹旅 毛塚美希・瑛子 Miki, Akiko Kezuka

その土地の暮らしと文化に触れるのが好きで、世界一周の旅に出た20代の姉妹。手仕事を中心にライティング、買い付けを行う。姉は元インテリアメーカー勤務、妹は元食品メーカー勤務。手仕事、食と酒場、囲碁をテーマに、自由きままに各地を巡る。

小さな村でホームステイ、工房巡りに、そのまま地元の人達と乾杯! そんな日々の暮らしに溶け込むその土地らしさを感じたままの温度でお届けします。

HP: https://sites.google.com/view/shimaitabi?usp=sharing

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