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第10回 キルギスの遊牧民が暮らすユルタ(前編)-姉妹が行く! 世界てくてく手仕事の旅

2024年春、姉妹で世界一周の旅に出た手仕事ライターの毛塚美希さんと、酒場文化が大好きな妹の瑛子さんの連載がスタート! 姉妹旅のテーマは①手仕事、②食文化と酒場、そして③囲碁交流…!? 地域に根ざした手仕事と食文化、ときどき囲碁にまつわる旅エッセイをお届けします。第10回は、8、9回に続いて3本目のキルギス。遊牧民の暮らしに欠かせない、手仕事の賜物のユルタについて。内容たっぷりのため前後編に分けてお届けします!
photo & text: Miki Kezuka & shimaitabi, edit: Hinako Ishioka

キルギスのユルタ

連載第10回目はキルギスの遊牧民の暮らしと彼らの移動式住居ユルタについて。

連載第8回第9回で紹介したように、山々に囲まれたキルギスでは今でも遊牧民が暮らしています。長距離バスでの移動中や山のふもとの村を訪ねた時、遊牧の風景や羊を飼っている様子が日常のそばに見られました。

まずはキルギスの遊牧民の暮らしについて。旅の途中、イシククル湖南岸の村の近くにある、バコンバエバというユルタ泊ができる村で一泊しました。そこでは馬のミルクからつくる馬乳酒を飲んだりと、現地の遊牧民の暮らしを体験しました。

宿泊したユルタ。

キルギスの遊牧民とユルタ

ユルタとは、遊牧民の伝統的な移動式住居のことで、モンゴルのゲルに似ています。遊牧民はエサとなる草と家畜にとって適切な気温の場所を求めて数ヶ月に一度移動しながら生活するため、軽くて組み立てやすく、身近な素材で作られるユルタが発展しました。 

キルギス人の遊牧の歴史は長いですが、キルギスがロシア帝国とソ連の占領下にあった時代に、半定住生活や遊牧が強制的に廃止され、遊牧生活をする人は減少しました。1991年のソ連からの独立以降、伝統的な遊牧民の生活を取り戻そうとする動きがあり、ユルタを作る伝統的な知識と技術は2014年にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。

ジャイチを訪ねて

キルギスではユルタでの宿泊体験ができる場所がいくつかありますが、今回はバコンバエバ村の近くにある”ユルトチニ・ラゲリ・ジャイチ(以下ジャイチ)”というキャンプで一泊させていただきました。

ジャイチを運営する家族のお父さんであるバートリベックさんは50年前にこの土地で生まれ、遊牧生活を送っていたそう。ユルタ泊のできるこのキャンプ場を始めてから息子のアマントゥルタシュタンビエコフさんがメインで運営され、彼の奥さまと子どもたち家族は約10年間ほど遊牧に行っておらず、隣に住む兄弟のご家族が羊たちを遊牧に連れて行っているそうです。

こちらにあるユルタは彼のおじいさんが購入し、お母さんとおばあさんが内装の一部を作ったとか。

ユルタの内装。シルダックが美しい。夜は凍えそうになったが、山の寒さの厳しさを知れたいい体験に。

幸運なことに宿泊した日の昼間、ちょうどキルギスの音楽とダンスのコンサートがありました。到着した時には既に演奏は終了していましたが「おいでおいで」と呼ばれて彼らのユルタの中に入るとコンサートの打ち上げをされており、混ぜていただきました。

打ち上げの音楽。

キルギスのお祝いで欠かせない羊の頭を初め、伝統的な料理や馬のミルクから作る馬乳酒をいただいたり、歌や音楽を聴かせてくださいました。

ご飯の後はダンサーの高校生の女の子たちがキルギスの伝統的な踊りを見せてくれたり、一緒に踊ったり。キルギスの人のウェルカムな温かさを体感し、幸せな時間になりました。

キルギスの伝統的な踊りを踊ってくれた様子。
キルギスの伝統的な踊りを踊ってくれた。伝統的な衣装も美しい。
「日本の伝統的な踊りも教えて」と言われ、みんなでソーラン節を踊ったのも楽しい思い出。

こちらでは乗馬体験もでき、4時間かけてゆっくりと山に登りました。道中では遊牧民と羊の群れとたくさんすれ違い、フェルトの素材と暮らしのつながりを実感しました。

バートリベックさんのご兄弟であり隣にすむヌルスルタンさんが乗馬体験に連れて行ってくれた。帰ってくると息子さんのデオロベックさんがひょいっと後ろに乗る。
大自然の山の中を馬に乗りながらゆっくりと進む時間は、別世界にきたような美しさと穏やかさがあった。
山を進む途中、何回か遊牧とすれ違った。
帰ってきた後、ヌルスルタンさんが遊牧している羊の群れを移動させたり。

遊牧民とキルギスの人々の暮らし

普段山で生活をしているお父さんのバートリベックさんに遊牧民の暮らしについても教えていただきました。夏は遊牧民が全員山に移動し、冬はジャイチのキャンプ周辺の家に帰ってきているといいます。私たちが訪ねた際は10月、冬の始まりで、こちらに帰ってきている遊牧民を見かけました。寒さを好むヤクを飼っている人は冬も山で過ごすそうで、バートリベックさんもヤクを飼っており、山に家を建ててお孫さんと一緒にそちらで暮らしているそう。

バートリベックさんより。孫のヌライムさんとヤクの赤ちゃん。

山は寒さが厳しいため、現在はユルタではなく家を建てる人が増えてきており、完全な遊牧のスタイルから、半定住型へとライフスタイルが変わってきているそうです。

バートリベックさんより。奥には家が見え、雪の残る風景からは冬の寒さが伝わってくる。

前回の連載第9回で紹介したキルギスハンドメイドの工房にも、ユルタや遊牧の暮らしで使われていた食器収納や馬の鞍にかけて使う収納をアレンジした手仕事の品々があり、興味深かったです。ユルタの生活には特別な食器収納スタイルがあり、吊るせるようになっているので食器棚などの家具は必要なく、軽くてコンパクトになるのは遊牧民のユルタならではのアイデアです。

食器収納。

クルジュンと呼ばれるこちらのカバンは、元々は馬の鞍にかけてお肉などを入れて山に登るもので、現在キルギスでは結婚のご挨拶で家に行く際にこのクルジュンにフルーツを入れていく文化があるんだとか。

クルジュン。

キルギスハンドメイドの代表のディルデさんは子どもの靴にもフェルトで作ったソールを使用しており、通気性と暖かさがいいそうで、キルギスでは日常の身近なところにフェルトや遊牧民の暮らしがあります。

フェルトのソール。

後編に続く…。

PROFILE

世界一周 姉妹旅 毛塚美希・瑛子 Miki, Akiko Kezuka

その土地の暮らしと文化に触れるのが好きで、世界一周の旅に出た20代の姉妹。手仕事を中心にライティング、買い付けを行う。姉は元インテリアメーカー勤務、妹は元食品メーカー勤務。手仕事、食と酒場、囲碁をテーマに、自由きままに各地を巡る。

小さな村でホームステイ、工房巡りに、そのまま地元の人達と乾杯! そんな日々の暮らしに溶け込むその土地らしさを感じたままの温度でお届けします。

HP: https://sites.google.com/view/shimaitabi?usp=sharing

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