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第10回 キルギスの遊牧民が暮らすユルタ(後編)-姉妹が行く! 世界てくてく手仕事の旅

2024年春、姉妹で世界一周の旅に出た手仕事ライターの毛塚美希さんと、酒場文化が大好きな妹の瑛子さんの連載がスタート! 姉妹旅のテーマは①手仕事、②食文化と酒場、そして③囲碁交流…!? 地域に根ざした手仕事と食文化、ときどき囲碁にまつわる旅エッセイをお届けします。第10回は、8、9回に続いて3本目のキルギス。遊牧民の暮らしに欠かせない、移動式住居ユルタの作り方について!
photo & text: Miki Kezuka & shimaitabi, edit: Hinako Ishioka

第10回の前編はこちら

ユルタ作りの村を訪ねて

それから、連載第8回で紹介したOVOP+1の地元の方にユルタ作りで有名な村があると教えていただきキジルツー村を訪ねてみました。到着してすぐ村の雰囲気が気に入り、アットホームな空気でユルタ作りを見せてもらえるとのことで ”Araya guesthouse” で一泊ホームステイをさせていただくことに。

“Kyrgyz Friends homestay”というユルタの工房を訪ねてユルタ作りの流れを聞いたり、Araya guesthouseの裏庭や軒先でユルタのさまざまなパーツを作っている様子を見せていただきました。

Araya guesthouseより。ゲルの組み立て体験の様子。
Kyrgyz Friends homestayの工房の様子。

Kyrgyz Friends homestayによるとキジルツー村では、キルギスにおける約80%のユルタが作られており、現在この村のほとんどの家がユルタに関わる仕事をしているそう。家の工房の規模によってユルタ全体を作っているところもあれば、ある部品に特化して作っていたりと分業もされています。
なぜキジルツー村がユルタ作りが盛んなのか伺うと、「明確ではないけれど、もともと遊牧民は自分たちでゲルを作っていたが、数十年前にとある家がユルタを作り販売を始めると需要があったので、村全体でやるようになったのではないか」とKyrgyz Friends homestayのお母さんが教えてくれました。

屋根の骨組みになる木の支柱が束ねられた様子。

Kyrgyz Friends homestayのお母さんは現在47歳で、15歳からシルダックを作っています。ユルタ作りを案内してくれた兄弟のひとりは、現在15歳で10歳からお父さんのユルタ作りを手伝っており、もうひとりの息子さんは木の枠をメインで作っていたりと、家族みんなで協力してユルタのさまざまなパーツを作っています。
こちらでは年に約10個ほどのユルタを作成しており、現在はユルタの宿泊体験ができるホテルやキャンプに加えて、ロシアや日本、ドイツやスイスなど海外からのオーダーもあるそう。
また、キルギスの人も夏に自分の家の庭にゲルを立ててキャンプを楽しんだりする文化もあるそうです。

ユルタの作り方

Kyrgyz Friends homestayとAraya guesthouse でユルタ作りを詳しく教えていただきました。ユルタを作るのには、小さいものでは1〜2ヶ月、大きいものでは3〜4ヶ月ほどかかるそうです。

まずは屋根の骨組みになる部分を作ります。成長が早く簡単に手に入り、丈夫で細く真っ直ぐなヤナギの木を使います。伐り取ってから15〜20日ほど乾燥させた後にクルトゥという刃物で皮を剥ぎます。

Kyrgyz Friends homestayにてヤナギの皮を剥ぐ様子。
Araya guesthouseにて同じくヤナギの皮を剥ぐ様子。

ユルタのサイズは特大、大、中、小と複数あり、直径が9mの特大には骨組みを120本、6.5mの大には75本、2mの中には35本、1.5mの小には20〜25本ほど使うそう。

ユルタには複数のサイズがある。

次にヤナギの木を蒸して柔らかくし、曲げていきます。

ヤナギの木を蒸す道具。中に皮を剥いだ木を入れて蒸す。
ヤナギの木を曲げる様子。

形をキープするために2〜3日ほど下の写真の状態で置いておくそう。

ヤナギの木に線を入れる様子。機械を使ったり、刃物で削ったりと工房によって様々。
ヤナギの木を真っ直ぐにする機械。工房によって機械を導入しているところもある。

同じ要領で壁になる木枠や天井の真ん中になる部分も作っていきます。

また、パーツを結ぶのに使うのはヤギの革。ロープはすぐに劣化してしまいますが、ヤギの革は強くて耐久性があり、10〜15年ほど持つそう。

こちらの茶色の大きなフェルトは床用、グレーのものは壁を囲って防寒に使います。

左の茶色が床用、右のグレーは壁用。

また、なぜシルダックや木枠を赤に染めるのか聞いてみると、おそらく昔身近にあった染色できる植物が赤だったからだといわれ調べてみました。伝統的にはアカネで染められていたといわれています。
アカネは中央アジアに自生し防虫や防腐効果がある植物です。その実用的な効果から使用され、装飾や染色が発展したという背景も先人の知恵が詰まっていて興味深いです。

床や壁に使うシルダックは、家の中でつくります。連載第9回で紹介した以外にも”守る”を意味するヤギの角の模様や、カエルの模様もあるそう。また、屋根にもフェルトが使われていますが、羊毛に含まれる油分で雨を弾く効果があるんだとか。

壁の内側 は”チー”と呼ばれるススキの簾で囲みます。ススキの簾は空気を多く含むため断熱の効果があり、室内を夏は涼しく冬は温かく快適に保ちます。また、吸湿性や通気性もいいので、冬場の結露の対策になります。

簾作りの様子。

最後に毛糸を編んで作った装飾品で彩り完成です。簾作りや飾りを編む部分は、時々お子さんたちも手伝いながらやっているそうで、小さな子どもたちが「わたしも、わたしも!」と手伝って見せてくれました。

装飾品を編む様子。

こちらの工房の親戚家族は羊を100匹ほど飼っており、フェルト作りもしているとか。ちょうど遊びに来ていた親戚のお母さんがフェルト作りの動画と写真を見せてくださいました。
夏に毛刈りをした後、太陽の下で羊毛を広げて、何人もでふわふわの羊毛にお湯をかけたり処理をする様子はとても面白かったです。

知恵の詰まった素材と暮らしの繋がり

キルギスには温かいエジェと美しい遊牧の風景と共に、フェルトやユルタなど知恵の詰まった自然素材の使い方や染色、模様や家族への想いの込められた”暮らしと手仕事の原点”のようなものがありました。3回に渡ってご紹介したキルギスは、多くのことを学び、体験し、実感し、大好きになった国の一つです。
ぜひみなさんも、キルギスを訪ねて素材と暮らしの繋がり、エジェと手仕事の温かさを味わってみてはいかがでしょうか?

shimaitabi の食コラム ~キルギス編~


2024年10月4日 @バコンバエバ

キルギスの遊牧民が馬の乳から作る伝統的な馬乳酒”クムス” 。馬の乳に前回作ったクムスを少量混ぜて木の棒でかき混ぜて発酵させるだけとシンプルなクムスは、新鮮なものが1番美味しいとされ、どんどん発酵が進むため作って数日以内しか本来の風味は味わえません。ビタミンや乳酸菌が豊富なため健康にもよく、遊牧民の大切な伝統的なお酒です。「馬乳酒を入手!」とダジャレを合言葉に、遊牧民を訪ねて新鮮な手作りのクムスを飲むことがわたしたちの旅の密かな目標でした。ユルタに宿泊しお祝いの席でペットボトルに詰められ白い液体を見た時、思わず「クムス?!」と歓喜。獣の香りが強く、微炭酸で少し酸味がありマイルドで独特な味わい。地元の人とクムスで乾杯できたのは特別で幸せな経験なのでした。


次回もお楽しみに!

PROFILE

世界一周 姉妹旅 毛塚美希・瑛子 Miki, Akiko Kezuka

その土地の暮らしと文化に触れるのが好きで、世界一周の旅に出た20代の姉妹。手仕事を中心にライティング、買い付けを行う。姉は元インテリアメーカー勤務、妹は元食品メーカー勤務。手仕事、食と酒場、囲碁をテーマに、自由きままに各地を巡る。

小さな村でホームステイ、工房巡りに、そのまま地元の人達と乾杯! そんな日々の暮らしに溶け込むその土地らしさを感じたままの温度でお届けします。

HP: https://sites.google.com/view/shimaitabi?usp=sharing

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