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フォトグラファー在本彌生さんのおすすめ『CALICOのインド手仕事布案内』

photo, text: Yayoi Arimoto, Illustration: pan-to-tamanegi

写真家の在本彌生(ありもとやよい)と申します。国内外の暮らしや、衣食住に関心を寄せ、被写体を求めて旅しております。身の回りに起こる奇妙なこと、不思議の中に美を発見するとうれしくなります。手工芸は私にとって、そんな魅力を最も感じることのできる、人のいとなみのひとつです。自然の力を生かしながら、人の手がつくりだすものにはエネルギーが宿ります。そんな目に見えない勢いや気配を感じる写真が撮れたら素敵です。

Q

在本さんのおすすめの本について聞かせてください。

『CALICOのインド手仕事布案内』(著・小林史恵、写真・在本彌生/小学館/2021年3月)

インドの手工芸品である布(カディ)、服などを日本に紹介しているブランド『CALICO』を主宰する小林史恵さんと、約1年半をかけインド各地の布にまつわる職人の現場を取材して作成した本『CALICOのインド手仕事布案内』です。小林さんはデリーと奈良に拠点を構え、長きに渡りインドの手工芸に関わる仕事をされています。この本では糸の紡ぎ手、織り手、染色に携わる人、原種の綿花を復興させ育てている人などを取材撮影しています。インドの布文化を詳しく紹介しているテキストブックのような一冊です。小林さんとの出会いは吉祥寺の『OUTBOUND』で行われていた『CALICO』の展示会でした。そこで「インドの手仕事に関心があり、布にまつわる仕事の現場を撮影したい」と小林さんに相談したところ、インドの仕事の現場に同行させていただけることになり、撮影が叶いました。

Q

この本のどんなところが心に残ったのでしょうか。

人が身体を動かし手を動かして何かを作り上げる現場を目の当たりにすると、その「もの」への敬意を改めて感じます。自然の恵みである綿花を収穫し、紡ぎ、それが縦糸、横糸となって機を織る。ひとつひとつの積み重なりが布になり、生活に欠かせないものになる。その一連の作業すべてに人の手がかかっています。ベンガル地方の織り職人の住む村を尋ねた際に見た光景が忘れられません。親類で中庭を囲むように家々を構え住んでいて、機織り工房の小屋は共同で使われています。作業工程で湿気を必要とする繊細な番手が美しいカディ、それを織る職人の背中を流れる汗を見ました。機が動く軽快な音とともに、汗しながらも軽やかに全身で布を織る職人の姿は大層清々しく、ここで織られた布はなんとありがたいものだろうと感じました。

Q

現在のお仕事・ご活動、ものづくりにはどう繋がっていますか。

人が働いているところや手を動かしているところに惹かれて、インドの手仕事を撮ってみたいという思いで小林さんにアプローチをして同行させてもらったわけですが、そもそも写真は現場に行かないと撮れないもの。インドの手仕事のリアルを体感すると、それまでに知り得なかったことが山ほどありました。幾度となく訪れているインドですが、手工芸に対して更に興味が深まりました。また、改めて人の手で作られている物の凄みや美しさに魅了されました。私の仕事は対象を撮影することでその背後にいる自分の記憶の記録にもなり、それが時には作品にもなっていくので、私のものづくりと言ってもよいのかもしれません。

Q

最後に、手芸・手仕事・ものづくりの魅力はなんだと思いますか。

インドだけでなくどこの国でも、もちろん日本でも、手仕事にはそれに携わる人がいて、何世紀も続いているような歴史があります。そのバックグラウンドを知っていくと、世界の繋がりが見えるようになってとても面白いです。人が手を動かして、ものが生まれていく…。それを見ることは、人が根本的に惹かれる行為だと思います。例えば、小さい頃に台所で母親が料理をしている様子を隣で見ることは楽しかったですよね。目に見えて新たなものが生まれる過程を目の当たりにしたり、何かを作りあげるということは、根源的にいきもののバイタリティを活性化するのだと思います。気持ちを奮い立たせる力を感じます。

PROFILE

在本彌生 Yayoi Arimoto

東京生まれ。フォトグラファー。外資系航空会社で乗務員として勤務するなかで写真と出会い、2003年に初個展「綯い交ぜ」開催。2006年にフリーランスフォトグラファーとして本格的に活動を開始。世界各地であるがままのものや人のうちに潜む美しさを浮き彫りにする“旅する写真家”として知られ、雑誌や書籍・ファッション・広告など幅広いジャンルで活躍している。著書に写真集「MAGICAL TRANSIT DAYS」(アートビートパブリッシャーズ)、「わたしの獣たち」(青幻舎)、「熊を彫る人」(小学館)などがある。

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