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「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.30 千紫万紅、ラトビアの民族衣装(その2)

バルト海に面した緑豊かな国、ラトビアに伝わる手仕事の数々。今も昔も変わらない、素朴でやさしい温もりのある伝統的な技、そしてそれらを残し伝えていくベテラン職人、伝統を受け継ぎ新たな形を築く若手作家の作品など。雑貨屋「SUBARU」の店主・溝口明子さんが出会った、ラトビアの手仕事の現在(いま)を現地の写真と共にお届けします。
Text,photo:Akiko Mizoguchi

>>前ページ 千紫万紅、ラトビアの民族衣装(その1)

大きく4つの地方に分けられる現在のラトビア。地域ごとに民族衣装が異なります。

ヴィゼメ地方(北東部)

まず首都リガを含むラトビア北東部のヴィゼメ地方。都市部の影響を受け、常に新しいデザインが取り入れられてきました。刺繍が美しい大判の白いウールのショール、色鮮やかに織られた縞模様や格子柄のスカート、そして、立体的に仕立てられたベストやジャケットは身体にフィットします。

一番左の女性が着用しているのがヴィゼメ地方の民族衣装。ショールの長さがよくわかる。
刺繍がひと際美しいKrustpils(クルストゥピルス ※地名)のショール。
ヴィゼメ地方のベストやジャケットは、背面の腰のあたりに大きなひだがあってかわいい。
私の民族衣装はヴィゼメ地方のVilzēni(ヴィルゼーニ ※地名)のデザイン。まだ訪問したことがないので、いつか衣装を着て訪ねてみたい!
Lielvārde(リエルワールデ ※地名)の民族衣装はその帯でラトビアでも特別な存在。ラトビア古来の神様の文様が無数に織り込まれており、儀式でも使用されてきた。

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ラトガレ地方(東部)

ラトビア東部のラトガレ地方はロシアと国境を接しており、カトリックの影響も受けています。白を基調としたチュニック風のブラウスにスカートを合わせます。ほかの地域で見られるようなカラーのベストやジャケットはほぼ見られず、織り柄も落ち着いた色合いが多い印象です。既婚女性が頭に着用する頭巾が、タオルのように長いのも特徴です。

「歌と踊りの祭典」にてラトガレ地方の衣装を着用する女性。
白地の使用が多いラトガレ地方の民族衣装。
ラトビア野外民族博物館で特別に見せてもらったAbrene(アブレネ ※地名)の衣装。アブレネはソ連時代に併合され、そのままロシア領となってしまった失われた地。白で統一した洗練された衣装でしたが、美しさの反面、何だか心が痛くなりました。

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ゼムガレ地方(南部)

ラトビア南部ゼムガレ地方は、彩り豊かで豪華な柄のスカートが特徴的で、この織り柄は比較的新しく完成したスタイルだと考えられています。垂直方向のリボンがプリーツ状に継ぎ合わされたかのように並んだデザインは華やかそのもの。腰紐は幅広いものが多く、繊細な織り柄が浮き上がっています。

一見するとリボンが並んでいるかのように織られたスカート。幅広の腰紐も素敵。
腰紐は小さな機織り機で織られている。
腰紐を縫い合わせた、伝統的で特別な織物Jostu sega(ユアストゥ・セガ)。直訳すると「腰紐の織物」。

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クルゼメ地方(西部)

ラトビア西部クルゼメ地方は、北側と西側は海、南側はリトアニアに接するという少し特殊な地域。この地理的状況により、交易の影響を強く受けてきたクルゼメ地方の衣装は、ほかの地域とは一線を画し、目立つ存在です。ビーズやスパンコール、シルクやビロードといった外来の材料も多く使用されています。特にクルゼメ地方最西南端のBārta、Nīca、Rucava(バールタ、ニーツァ、ルツァヴァ ※いずれも地名)の衣装は、より一層華やかで荘厳です。ウールで織られたスカート生地には刺繍が施されていたり、大きなサクタは重ねられ、ほかの地域のように首元、胸元といった身体の中心線ではなく、肩や腕の位置で使われるのも特徴です。

その独特の文化でユネスコ無形文化遺産に登録されているAlsunga(アルスンガ ※地名)の民族衣装。
クルゼメ地方南部のスカート生地には刺繍が。
重ねて使用される大きなサクタは抜群の存在感を放つ。
バールタの民族衣装をまとう女性とその子どもたち。
右がニーツァの民族衣装で、左はKuldīga(クルディーガ ※地名)の衣装。
ルツァヴァの民族衣装。
ルツァヴァでは3枚のショールを重ね、それらを腕の位置あたりで大きなサクタで留めるのが正式な着用法。

このように、とても手の込んだ「織る」「編む」「縫う」「刺す」が詰まったラトビアの民族衣装は、手工芸好きさんにはたまらない存在といえます。
ちなみに、近年ラトビアでよく目にし、人気を博しているのが考古学的見地から復元された中世の衣装。バルト系民族や、フィン・ウゴル系民族のリーブ人が7世紀から13世紀頃に着用していた衣服です。現代の民族衣装とは趣がまったく異なるのですぐにわかるのですが、シンブルな作りながら、プリミティブな存在感が際立つ衣装なのです。

12世紀頃の中世ラトガリア人の衣装。
ブロンズで装飾されたストールは雰囲気満点で格好いい。
両端の女性たちの衣装がリーブ人の民族衣装。

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PROFILE

溝口明子 Akiko Mizoguchi

ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。

http://www.subaru-zakka.com/

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