「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.30 千紫万紅、ラトビアの民族衣装(その1)

ラトビアでお祭りに行ったなら、誰もが目を奪われるのが民族衣装の美しさ。ラトビア語では「Tautastērps(タウタステールプス)」といい、織り柄や色彩、パーツの細やかさ、またその種類に圧倒されることと思います。19世紀に起こったラトビア民族啓蒙運動や、同時期に確立し、多様化した機織りやの染色の技術により、ラトビアの民族衣装は19世紀には「ハレ」の服としてほぼ現在の形と同様に完成していたと考えられています。
ラトビア全土からラトビア人が集結する5年に一度の「歌と踊りの祭典」では、何万人もの出演者全員が民族衣装を身にまとっています。その絢爛豪華たるや!


そんなラトビアの民族衣装、どのように着用するのでしょうか。
細部まで美しいラトビアの民族衣装
まず、刺繍の入ったリネンのブラウス「Krekls(クレクルス)」を着て、ウールで織られたスカート「Brunči(ブルンチ)」を履き、前開きのベスト「Veste(ヴェステ)」やジャケット「Jaka(ヤカ)」を着用します。町によっては腰紐や帯「Josta(ユアスタ)」を巻きます。ウールのショール「Villaine(ヴィウライネ)」を羽織り、頭には冠「Vainags(ヴァイナグス)」などをかぶり、ブラウスの胸元やショールをブローチ「Sakta(サクタ)」で留め、足元は手編みの靴下「Zeķes(ゼキェス)」に、なめし革の編み上げの靴「Pastalas(パスタラス)」か、黒い革靴「Kurpes(クルペス)」をあわせたら完成です。


一見すると真っ白なリネンのブラウスでも、実は袖口や襟元には繊細な刺繍が施されています。また、首元と袖口のボタンもいわゆる「ボタン」ではなく、糸をぐるぐる巻いて作られたボタンが使用されています。

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頭上に輝く冠にも目を奪われます。地方によって装飾方法が違うのですが、三つ編みに結われた髪の毛が垂れる頭頂部を飾る、ビーズや真鍮があしらわれた冠の美しさったら!
適齢期が近付いている未婚女性は頭部が開放されている筒状の冠を、既婚女性は頭部がふさがった頭巾や帽子をかぶるのが習わしです。かつては結婚した際に「Mičošana(ミチュアシャナ)」という儀式が行われ、頭飾りを冠から頭巾に付け替えることで、未婚から既婚へと変わるさまが象徴的に祝われました。



ブラウスの胸元やショールを留めるブローチ、サクタは地方によってデザインも大きさも異なります。特にクルゼメ地方の一部のサクタは豪華で、大きな金、銀メッキの土台に宝石が並んでいます。また、クルゼメ地方が面するバルト海は琥珀の産地だったので、装飾品に琥珀が用いられることもありました。


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ラトビアの民族衣装は、スカートの織り柄、小物のデザインや合わせ方などが、すべての町や村で全部異なるデザインとなっています。まさに千紫万紅!詳しい人なら、民族衣装のいでたちを見ただけで出身地がわかるほどなのです。
現在のラトビアは大きく4つの地方に分けられます。次ページにて簡単に、地域ごとの特徴に触れてみたいと思います。
>>次ページ vol.30 千紫万紅、ラトビアの民族衣装(その2)
PROFILE

溝口明子 Akiko Mizoguchi
ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。