ブティック社 編集者 浜口健太さんのおすすめ『魔法のタワシ (総集編) プチブティックシリーズ no.294』
むちゅうで毛糸をあんでいる小学生のわたしへ
あなたは、ママがかった毛糸とかぎばりを手にとって、あみものをはじめたころでしょうか?わたしはいま、あなたがよんでいるその本をつくったブティック社というかいしゃではたらいています。ママはあみものができないし、あみものができるともだちもいなかったから、その本はたいせつなきょうかしょでしたね。そんなきょうかしょとあなたのエピソードを、きょうはいろいろな人にしょうかいさせてください。
Q
浜口さんのおすすめの本について聞かせてください。
『魔法のタワシ (総集編) プチブティックシリーズ no.294』(ブティック社編/ブティック社刊/2002年)
当時流行していて今も根強い人気がある、アクリル毛糸で編む洗剤不要のタワシ「魔法のタワシ」の編み方を掲載した本。細編みだけで編めるシンプルな作品がある一方、油断をしていると引き上げ編みやパプコーン編みなどが登場して、小学生の私を困らせたものです(笑)それでも本を読み込んで試行錯誤する中で、いろいろな技法を身につけることができたので、私にとっては原点でもあり、教科書でもありました。
Q
この本のどんなところが心に残ったのでしょうか。
洋裁は得意だったけれど、編み物とは水が合わなかった母。この本は、そんな編み物セットと一緒に置かれていました。幼い頃から折り紙など何かを作ることが好きだった私が、それに興味を持ったのは必然だったのかもしれません。飾りとしての用途だけでなく、実用性がある魔法のタワシは、作れば作るほど母や大好きな祖母が喜んで使ってくれるのもうれしかったのでしょう。周囲に編み物にくわしい人もいなかったのでこの本をひたすら読み込み、独学でいろいろな編み方を覚えたものです。そして作れる作品の幅が広がると、さらに楽しくなり、そこからみるみる間に「手芸」という世界の魅力にはまっていったのでした。
Q
現在のお仕事・ご活動、ものづくりにはどう繋がっていますか。
面接でいかに手芸が好きかを力説して面接官を当惑させた末に、ブティック社の編集者となった私が思わぬ形でこの本と再会したのは、それから20年後のこと。2022年、絶版になっている魔法のタワシの本を1冊にまとめて復刊しようという企画が持ち上がりました。編集担当に志願し、完成したのがプロフィール欄でご紹介する『毎日のお掃除をラクに、楽しく!魔法のタワシ88』です。久しぶりに再会したタワシを、校正と称して夢中で編んでいるときの高揚感と言ったら!完成したタワシを最終的に祖母にプレゼントしたところまで含め、当時とまったく同じで、私が手芸と出会った原点を思い出すきっかけになりました。
Q
最後に、手芸・手仕事・ものづくりの魅力はなんだと思いますか。
「世界を広げてくれる扉」だと思います。手芸サークルの立ち上げを通していろいろな大学の人たちと出会った学生時代、手作りの推し活アイテムをきっかけに交流が始まった年齢の離れた趣味仲間、手芸という共通の話題で盛り上がった妻。そして、手芸がきっかけで出会えた今のお仕事と、そんなお仕事を通して出会えた手芸業界の方々、先生方。手芸がなければ、その方たちと出会うことはきっとなかったでしょう。「それ自分で作ったの?」という一言は手芸界隈ではよく聞かれる言葉ですが、そこから始まったご縁は、私の世界を何倍にも広げてくれました。話題のきっかけとなり、自分の知らなかった世界・人脈へと誘ってくれる入り口。量産品にはない、そんな力を秘めているのが手芸ではないでしょうか?
PROFILE
浜口健太 Kenta Hamaguchi
編集者。2016年、新卒でブティック社に入社。折り紙、ビーズ、編み物、洋裁などとにかく手芸が大好き。学生時代には大学の垣根を越えた手芸サークルを立ち上げ、折り紙のサークルにも所属。主な編集担当本に『いしばしなおこの季節の折り紙』(2021年)、『毎日のお掃除をラクに、楽しく!魔法のタワシ88』(2022年)『パーラービーズで楽しむ新幹線&電車』(2023年)など。何より私自身が手芸が大好きなので、手芸の楽しみが少しでも読者に伝わればという思いを込めて編集をしています。プライベートでも夫婦揃って手芸が好きで、自宅にはミシン7台と手芸本800冊以上と、無数の布や毛糸などの材料が…。効率的な収納方法をご存知でしたら、ぜひ教えてください!