ニット作家・サイチカさんのおすすめ『ケルト 装飾的思考』
はじめまして。『さいちか』と申します。編み物を仕事にしていますが、もし私が踊ることで表現できたら踊っていたと思います。歌うことで伝えられたなら歌いたかった。不思議と編むことが一番伝えられるみたい。赤い糸がご縁を結ぶように、こうして輪が広がり分かち合う人たちに出会いました。今では私の人生の旅は編み物と共にあります。ご縁に心から感謝いたします。
Q
サイチカさんのおすすめの本について聞かせてください。
『ケルト 装飾的思考』(鶴岡真弓/ちくま学芸文庫/1989年)
この本を手にしたのは、27歳の時。表紙の美しさに一目惚れしたのを覚えています。この本は美術史学の学術書でパターン集ではありませんが、美しい表紙もさることながら、収録図録も多く紋様を眺めているだけでもイマジネーションが湧いてくる一冊です。読みだすと学術的な研究の奥深さにさらに引き込まれてしまいます。ヨーロッパの歴史、宗教史や神話、そしてなによりアイルランドのケルトの神秘に触れられます。
Q
この本のどんなところが心に残ったのでしょうか。
蔦のような柔らかい曲線が互いに交差しながら描かれた(または刻まれた)複雑で途切れない美しい紋様。渦巻きやエッシャーの絵のような、終わりない反復の紋様にいつも心が惹かれてしまう。そして、これらを生んだ当時の人の狂気さえ感じる熱量にたまらなく興味を惹かれてしまいます。
Q
現在のお仕事・ご活動、ものづくりにはどう繋がっていますか。
私のニットのデザインのインスピレーションは、この本や博物館や図鑑だったり、日常の風景だったりします。このももオリジナルのセーターを編み出す前には必ず手に取ってしまう1冊です。
Q
最後に、手芸・手仕事・ものづくりの魅力はなんだと思いますか。
人間らしい、とても根源的な喜び楽しみの一つだと思う。自分の力で、無から何かを生み出す作業は、なんて楽しいのだろうか! 時間を忘れて無心になる、思い描いたものを形にする。筋トレのような反復の先に、無心の境地が広がっている。最後には、みんなと分かち合う最大級の喜びと愛着のある一枚と出会えることも魅力だと思います。