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漫画家・猫田ゆかりさんのおすすめ『裏も楽しい手編みのマフラー』

雑誌『コンプティーク』で『ニッタ―ズハイ!』を連載中の漫画家、猫田ゆかりさん。編み物を題材にしたストーリーを描く上で、どのような本を読んできたのでしょうか。お話を伺いました。
photo: Satoru Nakagaki, Illustration: pan-to-tamanegi, text: Ayaka Kawai

猫田さんは、漫画も編み物も技法書を読み込み、手元の動きや針先の細かな動作がわからない時は動画を活用するなど、独学で学び編んでいったそう。


「ニッターズハイ」は、ランナーズハイやクライマーズハイのように編み物に集中している際にハイになる状況のこと。漫画では、これまで陸上一筋だった主人公の健斗が怪我で走れなくなり、手芸部に入って新たな世界に飛び込んでいく様子が描かれています。そんな猫田さんの印象に残っている本は、編み物の本としてはじめて購入した『裏も楽しい手編みのマフラー』(著・嶋田俊之/文化出版局/2010年10月)。

この本には、裏側も見せたくなるようなアラン模様やビーズニッティング、編込み模様の棒針のテクニックが掲載されています。中面に載っているアラン模様のマフラーがあまりに素敵で、編んでみたい! と思い購入したまではよかったけれど、当時、編み物初心者だった猫田さんにとっては、表地と裏地の異なる柄を編むのは至難の業でした。

「難しすぎる本を買ってしまった」と一度は挫折。しかし、「根性だけはあるんです」と、そこで諦めないのが猫田さんです。次に風工房の『まきものいろいろ』風工房/文化出版局/2017年9月)を購入。それも簡単ではなかったそうですが、試行錯誤の末に無事フューシャパープル色のカシミヤストールを編み上げました。

1冊目に選んだ本で惹かれたのはアラン模様というイギリスの伝統的な模様。2冊目の著書もイギリスやシェットランドにインスピレーションを受けているのをみて「やっぱりイギリス系が好きなんだと思います」とのこと。その言葉通り、『ニッターズハイ!』では転校生の類がイギリスにルーツを持っています。イギリスでは男性のニッターも珍しくなく、ジェンダーバイアスにとらわれない職業であることが描かれています。

『ニッタ―ズハイ!』は雑誌『コンプティーク』で連載中。最新刊は4刊!

『ニッターズハイ!』には、けがで陸上を挫折したり、編み物でも多くの挫折が描写されています。猫田さんも特に思い入れの深いというシーンは第17話(コミックス3巻収録)。健斗が作っていたベストの前見頃と後ろ見頃を異なる号数の棒針で編んでしまった場面は、猫田さんが経験した間違いとその悔しさを建斗にも味わってもらったそう。

「私のように、1冊目の本を買って初めて編んだ時に編めなくても、2〜3年後に再びチャレンジしてみると編めるようになっていることもあるかもしれません。編み物に限らず、一度つまづくと物事をやめてしまう人は多くいますが、人生に失敗は付きもの。自分が経験してきたからこそ伝えられることがあると思い、相手に寄り添うストーリーを心がけています。その時の落ち込んだ気持ちを乗り越えた先の世界を知ってもらえるきっかけになったら」と話してくれました。

猫田さんが編み物をする理由を伺うと、「自分で作ったものは買ったものとは違う感情が湧きます」と教えてくださいました。自分が編み物にかけた製作時間と手間を知っているからこそ、より一層その編み物に愛着が湧くのだそうです。「どんな仕組みになっているのか、その構造を理解しているからこそ、ほつれた時もそのまま捨てるのではなく直すことができる。これは編み物ならではの魅力ですよね」と猫田さん。撮影の日にもご自分で編んだ素敵なニットのセーターがとても印象的でした。

バッグも一番最近編んだ作品。セーターも手作り。


漫画を描く上で何度も繰り返し読んだのは『荒木飛呂彦の漫画術』(著・荒木飛呂彦/集英社/2015年4月)。
描き始めた当初、ストーリーを考えるのは好きだけど、キャラクターに息を吹き込むのが苦手だったそう。そんな時にはこの本を読んで勉強したんだとか。この本には、人物像を作りこむためにキャラクターの生い立ちや口癖、好きな食べ物など細かい設定のつくり方が書かれています。
人物の背景を決めていくうちに、キャラクターの人となりが完成し、このキャラはこういう人間だから、こんなことがあった時にこのセリフは言わない、というような、細かいことが見えてくるそうです。

編むことが好きな猫田さんが愛情込めて描く『ニッターズハイ!』のキャラクターはみんなとても生き生きとしています。お話を聞いて、そこには猫田さんの経験を通しての創意工夫やこだわりが隠されていたんだとわかりました。
そんな作りこまれた『ニッターズハイ!』を読んだ読者からは「ひさしぶりに編み物を再開してみました!」とのメッセージが届くことも。
「ゆくゆくは漫画で海外ロケにも行ってみたくて、アイスランドや、ラトビアのミトンも気になっています」と、猫田さんの編み物の世界への探求心は一向に尽きることはありません!

猫田さんのインタビュー記事はこちら

PROFILE

猫田ゆかり Yukari Nekota

第62回ちばてつや賞入選作、『黒い紋章』にてデビュー。代表作に『SAKURA TABOO』、『天空の蜂』(原作:東野圭吾)。現在、月刊『コンプティーク』にて、『ニッターズハイ!』を連載中。愛知県在住、猫好き。

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