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「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 【番外編】「大阪・関西万博」バルトの日 その2

バルト海に面した緑豊かな国、ラトビアに伝わる手仕事の数々。今も昔も変わらない、素朴でやさしい温もりのある伝統的な技、そしてそれらを残し伝えていくベテラン職人、伝統を受け継ぎ新たな形を築く若手作家の作品など。雑貨屋「SUBARU」の店主・溝口明子さんが出会った、ラトビアの手仕事の現在(いま)を現地の写真と共にお届けします。
Text,photo:Akiko Mizoguchi

>>前ページ 【番外編】「大阪・関西万博」バルトの日 その1

さて、「バルトの日」が開催された8月23日というのはバルト三国にとって特に大切な日。
36年前の1989年8月23日、バルト三国の人々はソビエト連邦からの独立を願った抗議活動「Baltijas ceļš/バルトの道」を決行しました。今のようなインターネットなどの便利な連絡手段がない時代に、また、当局の監視の目を逃れるために、ほぼ言伝だけで、人間の鎖を形成するために人々は立ち上がり、集まりました。しかも、バルト三国の各首都(エストニア/タリン、ラトビア/リガ、リトアニア/ヴィリニュス)を結ぶ600kmを、200万人を超える人々が歌いながら手を取り合って繋ぐという、世界史上でも最大規模のスケールのものでした。それは、小さな暴動もなにもない平和裡な抗議活動だったそうです。しかし、その規模たるや……! 人々が結束して、自由と独立を願うとてつもないエネルギー! この人間の鎖を見たソビエト連邦の時の指導者は、これ以上バルト三国を支配下に置くことはできないと悟ったといいます。

1989年8月23日「バルトの道」の実際の写真。 ©Aivars Liepiņš
「両親に連れられて出かけたものの、集まるというのは噂に過ぎないと半信半疑で現地に向かったら、すでに大勢の人が詰めかけいてとても驚いた」と友人談。 ©Vitālijs Stipnieks
三国のそれぞれの首都の実際のルート上には、現在も「BALTIJAS CEĻŠ」のプレートが埋まっている。

「バルトの道」30周年の際にラトビアテレビ(Latvijas Televizija)がまとめた動画で、当時の様子をご覧いただけます。

前回の記事で紹介したとおり、「バルトの日」イベント当日は、ワークショップやステージパフォーマンスなどもりだくさんの内容でしたが、もっとも象徴的な催しだったのが、「シンボリックな人間の輪」、すなわちこの「バルトの道」の再現でした。自由と独立、そして平和を今も変わらず願い続けるこの特別な瞬間に参加できて、心が震えました。

バルトらしく、まずは歌でセレモニーがスタート。 ©Jānis Spurdziņš
「バルトの道」の日本での再現に奔走したLīga Gablika(リーガ・ガブリカ)さんによる趣旨説明。
ラトビア共和国文化省、Dace Vilsone(ダツェ・ヴィルソネ)事務次官による式辞。 ©Jānis Spurdziņš
いよいよ手を繋いで「バルトの道」の再現です。もちろんVIPの皆さんも。一番左は、大阪・関西万博ラトビア コミッショナージェネラル、Lāsma Līdaka(ラースマ・リーダカ)さん。 ©Jānis Spurdziņš
パビリオンに入りきれないほどの皆さんが手を繋いで参加してくださいました! ©Jānis Spurdziņš

当日の「バルトの道」の様子はこちらからご覧いただけます。

私は館内にいたので、こんなにも多くの方が、しかも見知らぬ人同士が手を繋いで参加してくださっていただなんて知りませんでした。動画を見て身震いしました。終了後にお話しを聞いた男性は、「ここに来るまで独立運動のことはよく知りませんでしたが、こんな特別な瞬間にタイミングよく立ち会えて本当によかったです」と仰っていました。多くの方にラトビアとリトアニアの想いが伝わっているようで、嬉しくなりました。
またこの日は、パビリオン前に特別なフォトスポットも登場していました。一日中、「バルトの道」に参加できるよう工夫されていました。

女性と女性の間に立って手を繋ぐと「バルトの道」の一員に。

大きなイベントの日ということもあり、バルトパビリオンの公式マスコット「バラビちゃん」も登場し、会場はさらに盛り上がりをみせていました!

大勢の人に囲まれる大人気のバラビちゃん。 ©Jānis Spurdziņš
動く姿もとっても可愛い♪

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私は、万博開幕の半年ほど前からバルトパビリオンのお手伝いをしているのですが、この日、すべての伏線が見事に回収されていく様子を見て、深く感動しました。バルトパビリオンの鍵括弧のようなロゴは、ラトビアのLとリトアニアのLをが合わさったもの。また、パビリオンのコンセプトは「WE ARE ONE」。ラトビアとリトアニアはもちろん別々の国ではありますが、世界が集う万博の場で力を合わせ、そのことを示すことで、二国間のみならず、より大きな一つの輪になれるということが、会期終盤のこの「バルトの日」に鮮明に伝わってきたのです。

夜間に見るバルトパビリオンのファザード。ロゴのLとLに注目。

5月のラトビアナショナルデー、それから3カ月たった今回のバルトの日。パビリオンに一日中張り付いて気が付いた発見は、ほかにもありました。それは、パビリオンにたくさんのファンの皆さんがついているということ。なかには、毎日毎日来場してくださる人もいるそう!
展示に趣向を凝らしてはいますが、それでもやはりパビリオンの空気を作っているのはラトビア人とリトアニア人のガイドの皆さんです。その空気感が心地よいとファンの皆さんは口を揃えます。これだけ大きな博覧会でも、やはりつまるところは、人と人との絆なのだと強く感じました。

ちょうど「バルトの日」に開催されていた「Japan Fireworks Expo」。特別な日が彩り豊かに終わりました。

「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げる大阪・関西万博。どのパビリオンでも、人間と自然、テクノロジーの共存の可能性を感じることができます。また、それぞれの国や民族が大切にしてきた伝統を、ただ守り、次世代へ引き継ぐだけではなく、新しい時代へ柔軟に適応させていこうという取り組みも伝わってきます。
万博そのものは10月13日に閉幕しますが、私を含め、多くの方の心にそのレガシーが残るのではないかと思っています。

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INFORMATION

大阪・関西万博 バルトパビリオン(ラトビア、リトアニア)
セービングゾーンS6

PROFILE

溝口明子 Akiko Mizoguchi

ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。

http://www.subaru-zakka.com/

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