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「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 【番外編】「大阪・関西万博」バルトパビリオン&ラトビアナショナルデー その1

バルト海に面した緑豊かな国、ラトビアに伝わる手仕事の数々。今も昔も変わらない、素朴でやさしい温もりのある伝統的な技、そしてそれらを残し伝えていくベテラン職人、伝統を受け継ぎ新たな形を築く若手作家の作品など。雑貨屋「SUBARU」の店主・溝口明子さんが出会った、ラトビアの手仕事の現在(いま)を現地の写真と共にお届けします。
Text,photo:Akiko Mizoguchi
大屋根リングとミャクミャク。

世界最大規模のイベント「大阪・関西万博」が連日大きな話題を呼んでいます。私はお手伝いを含めて何度か訪問しましたので、ラトビア情報に特化してレポートしたいと思います。

ゲート前に並ぶ万国旗。入場前から期待で胸が躍る。
実際に見て初めてわかる、大屋根リングの迫力と存在感!

「バルトパビリオン」はリトアニアとの共同出展

今回の万博では、ラトビアは南隣のリトアニアと一緒に「バルトパビリオン」として参加しています。
パビリオンはタイプB。万博側が用意した建物を、数か国で分けたうちの約300㎡の内外装を独自で施工して使用しています。
「バルトパビリオン」のコンセプトは『WE ARE ONE』。パビリオンを通して、一人一人誰もが国際社会にとって必要不可欠な存在であり、みんなが一つになって次世代のために地球を守り、ともに未来を築いていくことを呼び掛けています。

大屋根リングの上から見える「バルトパビリオン」。グリーンを基調としている。

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外壁の格子状の白い部分には「ラトビア」「リトアニア」「共創」「自由」といったキーワードが、ラトビア語、リトアニア語、英語、日本語で点滅しながら浮かび上がる。

入り口から入ってすぐ目の前に広がるのが「天然の薬局」。バルトの草原や森で自生する約300種もの植物の実物の標本が、美しく展示されています。いずれの植物も、飲食用としてだけではなく、太古の昔からラトビアやリトアニアの暮らしでその薬効が活用されてきました。各パネルには、植物の名称はもちろん、特徴や活用方法についても解説されていますので、植物が好きな方にはたまらない展示になっています。

バルトパビリオンの公式マスコット「バラビちゃん」にも目が釘付けになります。

すでにファンを獲得している「バラビちゃん」。

ラトビアとリトアニアの人々はキノコ狩りが大好きで、特に人気のキノコがポルチーニ茸なのです。「バラビちゃん」は、ラトビア語とリトアニア語で“ポルチーニ茸”を示す単語にちなんで名付けられました。
そのユニークな姿のモチーフになっているのは、バルト三国でよく見かけるキノコ型のクルミ割り。お腹には両国で採れるヘーゼルナッツが入っています。キノコが、バルト地域の森や自然の恵みを象徴するとともに、幸運のシンボルとされてきたことも採用された理由だそう。また、キノコの菌糸(いわゆる「ウッド・ワイド・ウェブ」)が土壌の下で森全体の生態系をつなぐ役割を果たしているように、地球にいる人々すべてがつながっていることを想起させる役割をも担っています。

展示室の奥にあるのが、パビリオンの目玉となる「KIZUNAの壁」です。
壁いっぱいに湾曲に広がる緑色のガラスの壁は、特別な技術で結露していて、誰もがメッセージを記すことができるインタラクティブなインスタレーションとなっています。書き込まれたメッセージは数分で消えていくようになっており、一瞬で過ぎていく時の流れや、普遍的な壁においても常に変化が起きる様子を表現していて、個人個人の行動とそれが地球に与える影響について、来場者に深く考えるよう促しています。

大阪・関西万博開幕日(2025年4月13日)のバルトパビリオンのテープカットセレモニーは「KIZUNAの壁」の前で行われた。両端のパビリオンスタッフが着用しているリネン製の制服にも注目したい。©Reinis Strautins
結露した壁に、思い思いのメッセージやイラストを描くことができる。

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パビリオンの中央には小部屋があり、「バラビちゃんが大好きなもの」が各壁に木工品の形ではめ込まれて展示されています。ラトビアとリトアニアが大切に紡いできた伝統や、世界に誇る最先端のテクノロジーが、木の温もりとバラビちゃんの愛らしさを通して表現されています。

「バラビちゃんが大好きなもの」正面の壁。

この小部屋では時折り、バルトらしさ全開のイベントが開催されますので、パビリオンの公式SNSで発信される情報のチェックが欠かせません。

「ピルツ」と「ピルティス」を紹介するイベントの様子。©Andri Magdych

パビリオンの各所には、パネルやモニター、タッチパネルがあり、ラトビアとリトアニアの概要をはじめとし、自然、アート、ハンドクラフト、さらには最新のテクノロジーのことを学べるようになっています。

タッチパネルには、ゲーム感覚でパビリオンのビジョンを共有できるものや、現地の企業や製品のカタログを閲覧できるものなどもある。

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タッチパネルのなかでもイチ押しなのが、バーチャルでの「植樹」です。画面をタップすると、トウヒ、白樺、松の木をラトビアやリトアニアの森に植えることができるのですが、なんと後日、実際にその木がラトビアやリトアニアの森に植えられるのです!
「植樹」したあとにQRコードを読みこむと、メールでデジタル証明書が届き、木の位置情報がわかります。遠く離れた日本から現地の森を育てるという、なんとも夢のある企画です。

タッチパネルに触れるだけで「植樹」ができる!
ラトビアとリトアニアではすでに大阪・関西万博「KIZUNAの森」が造成されており、苗木の植樹が始まっている。©Janis Abizars

ちなみに、パビリオンに入るとまず感じるのがバルトの森の香りです。木々が放つ匂い、土や苔からわき立つ匂い、そんな空気感を来場者に感じてもらおうと、今回の万博のバルトパビリオンのためだけにラトビアのコスメブランドMadaraが特別に調合した香りで館内が満ちています。
また、耳に入ってくるBGMには、リトアニアの偉大な作曲家、M.K.チュルリョーニスの作品にインスピレーションを受けて、バルトの森や海辺の音をイメージして作られた音楽が流れています。視覚や触覚だけでなく、嗅覚や聴覚からもバルトを感じてもらおうとする気概を感じます。

次回は万博の一大イベントの一つ、「ナショナルデー」についてレポートします。

INFORMATION

大阪・関西万博 バルトパビリオン(ラトビア、リトアニア)

開催期間:2025年4月13日(日)~10月13日(月)
開催場所:大阪・夢洲(ゆめしま)
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バルト館(ラトビア&リトアニア)
セービングゾーンS6
https://baltics2025expo.com/jp/
※7月6日リトアニアナショナルデー
※8月23日バルトの日

PROFILE

溝口明子 Akiko Mizoguchi

ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。

http://www.subaru-zakka.com/

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