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「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 【番外編】「大阪・関西万博」バルトパビリオン&ラトビアナショナルデー その2

バルト海に面した緑豊かな国、ラトビアに伝わる手仕事の数々。今も昔も変わらない、素朴でやさしい温もりのある伝統的な技、そしてそれらを残し伝えていくベテラン職人、伝統を受け継ぎ新たな形を築く若手作家の作品など。雑貨屋「SUBARU」の店主・溝口明子さんが出会った、ラトビアの手仕事の現在(いま)を現地の写真と共にお届けします。
Text,photo:Akiko Mizoguchi

>>前ページ【番外編】「大阪・関西万博」バルトパビリオン&ラトビアナショナルデー その1

さて、今回の万博の一大イベントの一つが「ナショナルデー」です。万博期間中、ほぼ毎日どこかの国や機関に「ナショナルデー」が振り分けられていて、その日は式典や特別な文化イベントが行われます。ラトビアのナショナルデーは5月20日でした。その一連の様子を綴っておきたいと思います。

ウォームアップ・アクティビティはプズリ作りとフォークダンス

まず、ナショナルデーに先駆けて、「いのちの遊び場 クラゲ館」にて、5月18日と19日の2日間、ウォームアップ・アクティビティがありました。コンテンツはラトビアの伝統的なオーナメント「プズリ」作りのワークショップとフォークダンスでした。
※「プズリ」についてはvol.8をご参照ください。

クラゲ館は「“五感”で感じる新しい遊びと学び、創造の空間」を提供するパビリオンで、さまざまなパビリオンとコラボイベントを開催している。

私は「プズリ」作りの講師役を務めました。クラゲ館はお子さまの来場が多く、うまく作れるのか気が気ではなかったのですが、お父さまやお母さまと一緒に一生懸命完成させてくれました。どのお子さまも真剣に、そして時には「絶対にあきらめたくない」と口にしながら作る姿に感銘を受け、私も精一杯のことをしようと奮闘しました。苦労して製作したプズリが、皆さまのお家でゆらゆら飾られていることを願うばかりです。

自然素材である麦わらは、その特性上裂けやすいのですが、皆さん悪戦苦闘しながらも素敵な作品を作られていました。©Reinis Olins

フォークダンスは、65年以上の歴史を誇る舞踊団「Vektors」がラトビアから来日して、公演やワークショップを行っていました。ラトビアの有名な民謡をBGMに、凛とした美しくも楽しいフォークダンスを披露していました。

民族衣装を着てフォークダンスを披露する「Vektors」。©Reinis Olins
観客の皆さんも一緒にダンス!私も参加したかった!

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ラトビアナショナルデーのテーマは『VOICE and ECHO』

こうして2日間のウォームアップ・アクティビティで充分に温まったあと、いよいよナショナルデー当日5月20日を迎えました。ナショナルデーの公式式典やメインイベントは『EXPOナショナルデーホール「レイガーデン」』で開催されます。ラトビアのナショナルデーは『VOICE and ECHO』というタイトルで行われました。このテーマには、ラトビアが発する物語と創造性が世界と響き合うようにとの願いが込められています。

いよいよ公式式典の始まり!

ラトビアと日本の国旗掲揚に続いて、エドガルス・リンケービッチ・ラトビア共和国大統領と日本の藤井比早之外務副大臣によるスピーチが行われました。
ラトビア大統領の演説では、各関係者への感謝が述べられたほか、今回の万博がラトビアにとって1925年パリ万博への参加から100周年となる特別な意味をもつことや、ラトビアと日本は国家樹立以来100年以上友好関係を構築しており、今や政治・経済において最も重要なパートナーの一国になっていることなどが紹介されました。また、「かつて海外旅行が珍しかった時代には、万博は国境を越えた世界への最初の扉だったが、現代ではグローバルな課題を解決するという目的でつながるものへと役割は変わった。イノベーションを築き、インクルーシブな世界を推進し、技術が進歩するなかで人類の価値観をともに守り続けていきたい」という、力強いメッセージも述べられていました。スピーチを拝聴し、ラトビアにとって特別な万博のセレモニーに参加できたことを改めて誇らしく感じました

続いて約40分間のメインパフォーマンス『ECHO』が始まりました。万博の、このナショナルデーのためだけの、特別なプログラムです。
公式SNSで「春(朝)、夏(昼)、秋(夕)、冬(夜)、四つの詩的なサイクルを通したラトビアの物語が、音楽と舞踊、映像によって紡がれます」と紹介されていたとおり、一年を8つに区切って行われてきたラトビアの年中行事や一日の時の流れ、そして人生のサイクルをも包括して表現された最高のステージでした。
めぐる季節とともに夏至祭や冬至祭といった祭祀の要素が散りばめられ、結婚などの人生の出来事も織りこまれたストーリー展開。それを舞踊団『Vektors』が見事なフォークダンスとパフォーマンスで魅せ、Instrumenti、Raxtu Raxti、Auļi、Tautumeitas(元)、Sinfonietta Rīgaといったラトビアを代表する音楽チームが支えていました。また、日本との共鳴を示すため、日本人アーティストも参加し、「さくら」のメロディーも取り入れられていました。
「感動」という言葉がチープになるほど圧倒されました。途中で、ラトビアの民族が5年に一度集結する壮大な「歌と踊りの祭典」の演出もあり、鳥肌が立ち、気が付けば嗚咽するほど号泣してしまいました。今回のラトビアの万博出展を裏方として手伝っていることもあり、15年かけて膨らみに膨らんだ私のラトビアへの愛や、いろいろな想いがこみ上げました。

とにもかくにも魂を揺さぶるようなステージは、バルトパビリオンの公式Facebook上にライブ配信のアーカイブが残っていますので、ぜひご覧ください! できれば大音量、大画面で見てください!
Latvian National Day: VOICE and ECHO Official Ceremony and Cultural performance “ECHO”

メインパフォーマンスのあとは、パレード、ビジネスフォーラム、「プズリ」作りのワークショップが行われました。私はこの日もワークショップの講師を務めたので、パレードもビジネスフォーラムも参加できなかったのですが、いずれも大盛況だったそうです。文化的側面、経済的側面の両方からラトビアへの理解が深まり、ラトビアと日本の両国の結びつきがより深くなったのではないかと思います。

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民族衣装を着用した状態で、涙を拭いつつ文字通りダッシュでバルトパビリオンに戻ると、すでにワークショップをご希望される皆さまがお待ちでした。クラゲ館と違って大人の方のご参加が多く、またラトビアやバルト、プズリのことをご存知のうえでの挑戦も多く、嬉しい発見となりました。

…と、ここでスペシャルな出来事がありました。
パビリオンをご視察にお越しになっていた大統領に、ご挨拶を申し上げ、厚かましくも『持ち帰りたいラトビア』をお渡しする光栄にあずかったのです! 大統領は目を細めてぱらぱらと本を見てくださいました。ラトビア語を勉強していて本当によかったと思った瞬間でした。

大統領と記念写真を撮っていただきました。

こうして夢のような3日間が終わりました。3日とも長時間のワークショップを行ったので身体は極限まで疲れましたが、私の人生史に残る日々になりました。
この記事では、バルトパビリオンとラトビアナショナルデーに限定して紹介しましたが、海外のパビリオンや最先端技術を披露する企業のパビリオンなど、どのパビリオンにもそれぞれのストーリーや強い想いがあります。半年限りの世界最高峰の祭典。会期末までこれからも幾度も訪問し、我が子にも広い世界や未来を感じてもらいたいと思っています。

圧倒的な存在感を放つ夜の大屋根リング。

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INFORMATION

大阪・関西万博 バルトパビリオン(ラトビア、リトアニア)

開催期間:2025年4月13日(日)~10月13日(月)
開催場所:大阪・夢洲(ゆめしま)
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バルト館(ラトビア&リトアニア)
セービングゾーンS6
https://baltics2025expo.com/jp/
※8月23日バルトの日

PROFILE

溝口明子 Akiko Mizoguchi

ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。

http://www.subaru-zakka.com/

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