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今の暮らしに取り入れたい amkm(アムクム)の竹細工。つくり手・大鍛治来未さんインタビュー

amkm(アムクム)の屋号で活動する大鍛治来未さん。“隙間から果物が見える”フルーツボウルや、“ちょうど2斤の食パンが入る”パンかごなど、思いつきそうだけどこれまでなかったアイデアが生みだす商品が人気の職人さんです。豊後高田市にあるアトリエでお話を伺いました!
photo: Nono Tomota, text: Hinako Ishioka

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Q.大鍛治さんが竹細工と出会ったきっかけはなんですか?

母からの薦めです。もともと大分県の北部にある豊後高田市出身で、大学で建築を学ぶために18歳で千葉県へ出ました。卒業して東京の小さなインテリア事務所に勤めたり、CADオペレーターの仕事をしていましたが、地元を出てちょうど18年経った時に、ふと豊後高田に帰ろうと考えるようになりました。
その時、母が訓練校(大分県立竹工芸訓練センター)をずっと薦めてくれていたことを思い出したんです。話を聞いてみると、母の友人が訓練校に通っていたそうで。地元に帰るんだったら竹の道もありかもと思いました。
それでも一度やってみないとわからないと考え、東京にある竹細工の教室に行ってみることにしました。
通い始めてすぐに自分に合っていると思いました。地元に帰ることは決めていたし、訓練校には年齢制限(入校時に40歳未満)があったので、会社を辞める決断をして訓練校を受験しました。

Q.どんなところが合っていたのでしょうか。

何だったんでしょう。比較的、少ない道具でつくれるところはいいなと思いました。もちろんできることが増えていくと、いろいろな道具も必要になっていくんですけどね。
編む工程も自分に向いていましたね。あとは、前職の図面を書く仕事も好きだったので、頭の中で構造を想像することが得意だったことも理由のひとつかもしれないです。2019年に訓練校へ入校して、修了後は独立して「amkm」を立ち上げました。

屋号の「amkm」の看板。由来はシンプルに「編む組む」から。

Q.いきなり独立されたんですね!

私の修了年が、工房や職人作家の採用募集が少なかったんですよね。最近は弟子をとる方も少なくなってきているみたいです。
もともと大分県に帰ってきたのも、別府からは少し離れた豊後高田市に帰ることが目的だったこともあって、そのまま独立しました。
現在はSNSのダイレクトメールなどでお仕事の依頼がきたりします。個人で仕事を受けやすい時代になってきていることも独立の大きな理由のひとつですね。

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そうはいっても、別府の竹業界はオープンな繋がりがあるのでみんなで協力してやっています。
最近は、材料の竹がなかなか手に入りにくくなってきているので、職人仲間で山に竹を伐(き)りにいくところから協力して行っているんです。
別府の竹は、油抜きをした白竹を使うのが特徴で、その複数人で油抜きの作業も手分けして行います。
自分たちで油抜きをする時は、たて半分にカットしたドラム缶の釜にソーダ灰を入れてアルカリ性にしたお湯でぐつぐつと油を煮出します。なので長い竹の油抜きは難しく、材料に長い竹が必要な時は製竹屋さんから仕入れます。
1年のうち10月~12月の間に10回ほど油抜きをして、私は1年間で使用する竹を基本的にここで仕入れています。私がつくりたいのは「クラフト」という白竹を使った商品なので、毎年40束(1束:円周を75cmの紐で縛れるくらいの量。8寸{直径約8cm}の竹で5本程度)くらいをこの時に仕入れています。素材としての良い竹は、傷がなくて、節間が長くて、まっすぐなことが条件なのですが、そもそも良い竹が育つ竹林が少なくなってきている問題もあります。

職人仲間と油抜きをした白竹のストック。

Q.つくり手が竹を伐るところから!作業工程の果てしなさに圧倒されます。ちなみに大鍛治さんはどのような商品をつくっていますか。

仕事としてはクラフト製品をつくりたいと思っています。別府の竹業界でクラフトといえば生活の中で使える日用品や道具にあたります。
私はもともと建築やインテリア関係の仕事をしていたので、日常にあったらいいなと思うものを考えるのが好きなんです。
別府竹細工には200通り以上の編み方があるんです。その伝統的な編み方に少しデザインを加えると現代の生活に馴染む形になるのではないかなと考えています。
自分の暮らしのなかで「こういうのがあったらいいかも!」と思いつくこともあります。「取っ手が片方だけあるかごがあったらいいかも」とか、「フルーツがかごの側面から見えたらいいかも」とか。日常にあったらいいなと思える、素っ気ないよりはアクセントがある商品をつくっていきたいと思っています。

フルーツボウル。上部の隙間からフルーツが見える。(photo: Hinako Ishioka)

先日クラフトフェアに出店した時に、手仕事好きな若者世代が増えているように感じました。年齢は問いませんが、インテリアとしても置けるような、かわいいデザインのものをつくっていきたいですね。
さらにクラフトをつくる時に心掛けていることは、できるだけ頑丈で長く使い続けられるものをつくることです。竹細工の特徴は丈夫で軽いところ。竹ひごは薄い方が編みやすいですが、別府ではできる限り厚みを残して編むので頑丈さが生まれます。さらに、竹ひごをつくる工程で面取りをしているので、海外製にはない滑らかな手触りがあります。

花かご。曲線と影が美しい。

Q.異業種から竹のものづくりの世界へ飛び込んで、心境の変化や考えたことはありますか。

竹のつくり手としての仕事は、ゼロからすべての工程に自分が関われることが魅力かなと思います。建築だと、設計者と実際に手を動かしてつくる人は違いますよね。竹のものづくりは、デザインからつくるところまで、すべて自分の中で完結できるのがおもしろいです。
竹を伐って、割って、竹ひごをつくって、編んで、出荷するまで、自分の手の届く範囲で商品ができます。何かがあっても、自分で対応できるって他ではあまりできませんよね。竹のつくり手は、道具を自作する人も多いです。

お金を稼ぐという面では、会社員の方が楽です。でも、満員電車に乗らなくてよくなったり、自分のペースで進められるのは好きなところですね。注文の数によって、休むも休まないも自分で決められます。すべて自分次第なのでプレッシャーはありますが、マイペースに、皆と協力してやっていきたいです。大分の竹業界の人たちは、皆心にゆとりがある人が多いような気がします。
あとは、別府竹細工のブランド力がもう少し上がればいいなと思います。どうしても他の工芸品と比べると知名度が低いような気がするんです。もともと別府温泉のお土産品として全国に広まった歴史があるからでしょうか、価格が高いイメージが一般的にないように感じています。私自身も、竹細工に興味を持つまでは、大分県の伝統的工芸品に竹細工があることを知りませんでした。竹細工のことを知らない人にとっては、価格帯が高く感じるかもしれませんが、つくる工程や、触った時の質感を知ると印象が変わると思います。竹細工の日用品は、長く使えば使うほど、色が変化して味がでてきますし、職人に依頼すれば修理もできます。もっとたくさんの人に竹細工の魅力を知ってほしいですね。

―end―
実は大鍛治さん、日用品だけでなく、アートの領域でも制作を行っています。全国規模の工芸美術の公募展である日本新工芸展にも出品し入選するほどの実力の持ち主。「自分のことは職人だと思っています。作家と自分でいうのは、洒落た感じがして少し恥ずかしいです」と話す大鍛治さんですが、工芸、美術界からも着実に評価を得ています。
仕事の基盤としてつくり続けているクラフトの商品には、生活になじむアイデアと、形のオリジナリティ、そして場所や人を選ばないセンスを感じさせるものばかりです。
独立して2024年で4年目、洗練された個性がある商品を生み出している大注目の大鍛治来未さん。暮らしの中にあるだけで、少し楽しくなってくるようなデザインの「amkm」の商品とぜひ出会ってください。

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PROFILE

大鍛治来未 Kumi Okaji

大分県豊後高田市出身。日本大学生産工学部建築学科卒。インテリア会社などを経て、Uターン移住を機に2019年大分県立竹工芸訓練センター入校。2021年に「amkm」として独立。
第45回日本新工芸展 日本新工芸奨励賞、第43回九州新工芸展 大分県知事賞 ほか受賞。

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