竹工芸職人に転職の未来もあり? 大分県立竹工芸訓練センターって?
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今回お話を伺ったのはこの人
寒竹愼一さん
1963(昭和38)年生。竹工芸職人「寒竹工芸」の三代目として別府市で生まれ育つ。福岡県の大学を卒業後、民間企業で5年間仕事に従事。後に家業である竹工芸を始めるため帰郷。
1991年に大分県立別府高等技術専門校竹工芸科を修了した後、竹工芸自営を開始。その後、別府産業工芸試験所で製品開発、中堅技術者の養成指導、竹工芸訓練センターで職業訓練指導員として訓練生の育成指導に従事。2022年からは同センターの所長を務め、60歳定年を機に指導員に復帰。
資格:一級竹工芸技能士、職業訓練指導員
趣味:週3回の極真空手(三段)
国内唯一、公立の竹工芸が学べる学校
竹工芸職人になりたい人にとっては、夢のような場所が大分県別府市にあります。その名も大分県立竹工芸訓練センター(以降、訓練センター)。竹工芸を専門に学べる国内唯一の公立校で、授業料はなんと無料です。
別府でつくられる竹製品は、ざるやかごなどの日用品に始まり、歴史の中で花かごなどの工芸品、そして現在はアートにまで発展した日本有数の手仕事産業のひとつ。
これまでに数々の職人や作家が多方面で活躍してきました。そのつくり手のほとんどが、実はこの訓練センターの修了生です。1952(昭和27)年以降、約1600人の修了生を輩出し、全国からの入校志願者は後を絶ちません。その入校倍率は現在も2~3倍を推移しています。
大分県では古くから公立校で竹工芸を教えてきた歴史があります。
1902(明治35)年に開校した「別府工業徒弟学校(現 大分県立大分工業高校)」に竹籃科が設置されたことが始まりで、訓練センターの直接の前身は1939(昭和14)年設立の「大分県傷い軍人職業再教育所」でした。実は訓練センターは、昭和初期の戦争で負傷した軍人が社会復帰するために「手に職を」を目的として開校された場所でした。
かつての訓練センターでは、時代に合わせて県民の就職を支えるために機械電子科、縫製科、介護サービス科なども設けられ同じ校舎で教えられていました。時代の変化の中で他科目の教育は民間事業者に移行され、現在は竹工芸ただひとつが残ったという経緯があります。その名残がある訓練センター、現在は大分県の地域産業である竹工芸のつくり手を育てるために職業能力開発校として県が運営しています。
授業料は無料
募集要項は以下の通り(2024(令和6)年度の募集要項から一部抜粋)。
● 応募条件:入校時点の年齢が、18~39歳以下で、下の(1)~(3)いずれかに該当する人
(1)離転職者、一般求職者
(2)入校年の3月に大学・短期大学・専門学校を卒業見込みの者
(3)入校年の3月に高等学校を卒業見込みの者
● 募集定員:12名
● 選考方法:適性検査、数学、面接の結果及び入校願書等を、総合的に判定し合否を決定します。
● 特典:①授業料は無料 ②受講手当、通所手当等を支給(公共職業安定所の受講指示を受けた方のみ) ③通校には学割運用 ④技能者育成資金融資制度 ⑤災害見舞金支給制度 ⑥就職のあっせん
● 必要経費:授業料は無料ですが、教科書及び実習服等の実費(5万円程度/入校時)が必要です。
驚くのは「授業料が無料」なこと。全国には公営、民営のさまざまな職業技能を教える学校がありますが、伝統的な日本の工芸品を無料で学べる学校はそうはありません。
入校志願者のほとんどが離転職者で、公共職業安定所(通称ハローワーク)が応募の窓口になります。公的な手続きを踏み、前職で雇用保険に入っていると保険が訓練期間の2年間支給される場合があります。最近は、そのシステムを利用して「ものづくりの転職」に挑戦したい人や、竹細工を仕事にしたい人が門を叩きます。ただし、前述の通り入校倍率は高く、生半可な気持ちでその門をくぐることはできません。
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「竹工芸を学べる公立校はここしかないということで、全国からたくさんの募集をいただきます。面接の時には、趣味の世界ではなくプロとしてやっていくための学校だと必ず伝えます」。さらに寒竹さんはこう続けます。
「要は意気込みですよね。確かに器用、不器用な人はいらっしゃいますけど、不器用だから生き残れないという話ではなくて、やはり“ものづくりが好き、竹が好きだ”という想いがあれば関係ないです。努力は必要ですよ。だけど根本の気持ちがあれば努力はできますからね。そこが大切ですよね」。
ここは未来の別府竹工芸の職人・作家を育てる訓練校。基本の技術や知識は学ぶことができますが、修了後の進路は決して平たんとはいえません。人生の大きな転機として、ビジネスとして竹工芸で生計を立てていくという決心が必要です。
プロとして自活するために
その“生計を立てていく”という部分が修了生にとって現実的な課題となります。約10年前まで、訓練期間は1年制でした。限られた時間で「竹工芸をつくる」技術を学び、つくり手として実際に生活をしていくために必要な「商品をつくって売る」スキルは就職先の職人のもとで学んでいました。しかし、その販売方法は、昭和時代は問屋に卸すことが一般的でしたが、近年はSNSで直接顧客と取引をする方法も出てきました。社会の流れによって販売方法が大きく変化する中で、つくり手は自分で商品を売る力をつけていく必要がでてきたのです。
そこで、2013年に大きな改革が行われました。それは訓練期間を2年制にしたことです。
2年制の訓練目標とカリキュラムは下記の通りです。
● 訓練目標「竹工芸品の製作に関する、竹材の材料加工・各種編組技術・染色・塗装技術を習得し、現代社会のニーズに対応した商品の開発及びアート作品の制作を行える技術及び販売まで行える知識の習得。」
●1年目のカリキュラム
〇実習
・基礎的な材料加工(割り、剥ぎ、幅取り、面取り、裏スキ、編組)
・基本課題作品8点の製作(六つ目盛かご、鉄鉢盛かご、網代小物入れ、菊底バスケット、亀甲盛皿、掛け花かご、炭斗(すみとり)かご、買い物かご)
・竹林伐採実習
〇座学
・竹材について
・刃物について
・工芸史
・デザインについて
●2年目のカリキュラム
〇実習
・テーマ別オリジナル作品(八つ目編みバスケット、アクセサリー商品政策、実店舗に対する商品提案、商品開発、美術系公募展出品制作など)
・インターンシップ
・修了作品展
〇座学
・外部講師による座学(企業経営、会計経理、マーケティング、商品開発など)
このように、1年目に基礎的な技術をじっくり学び、2年目にはつくり手として商売して生きていくための課題に取り組みます。2年目は職人や作家として商売することを想定した実践的な内容となっています。さらに、日用品だけでなく茶道や華道で使用する工芸品やアート性の高い作品を制作する課題もあるなど、幅広い考え方が学べるのも特徴です。
「ここは職業能力開発校なので、訓練生ひとりひとりがどの道に進んでも対応できるようにカリキュラムを組むようにしています。実際にはアートだけで生計を立てられる人はほとんどいないので、“商品を売る”ということが修了生のベースになりますね」。
別府竹工芸のつくり手は、商品をつくる職人としての仕事がベースにあり、プラスアルファでアートギャラリーや公募展に出品する作家活動の二足のわらじを履いている人がほとんどだそうです。
訓練センターで竹工芸のいろはを教える指導員たちは、みんな別府竹細工産業の現場を知る職人たちです。現場を経験した人たちだからこそわかる、竹工芸のおもしろさ、竹工芸で生活していくことの厳しさを日々訓練生たちに伝えます。
授業風景を覗かせていただくと、指導員が訓練生たちの目を見て、ていねいに教えている様子が見て取れました。大人になって目と目を合わせながら手ほどきを受けられる機会なんてあるでしょうか。
「別府の竹の業界は、ものすごくフレンドリーなんですよ。新しい人もウェルカムで、職人たちは自分の技術をオープンにするんです」。別府竹工芸関係者は口をみんなそろえてこう言います。
竹工芸職人を目指そうと決心し、条件を満たしていれば誰でも挑戦できる環境が別府にはあります。別府に来て、訓練センターに通い、毎日温泉に入って、おいしいものを食べ、経験も人柄も豊かな別府竹工芸に関わる人たちと出会う。転職を考えているあなた、セカンドライフの選択肢のひとつにいかがでしょうか。
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INFORMATION
大分県立竹工芸訓練センター
住所:〒874-0836 大分県別府市東荘園3-4-3
電話番号:管理訓練課 0977-23-3609
https://www.pref.oita.jp/site/280/