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修繕はエンパワーメントだ!見せるメンディングの活動家、ハフマン恵真さんインタビュー vol.3

オランダの首都、アムステルダムで暮らし、見せるメンディングのワークショップを開いている日本人がいます。ハフマン恵真さんにお話を伺いました。「自分たちでものをつくることそのものがかっこいい」。手仕事の広がる価値を探ります。
photo: Emma Huffman, text & illustration: Hinako Ishioka, interview: Migrateur editor team

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ハフマン恵真さんインタビューvol.1はこちらハフマン恵真さんインタビューvol.2はこちら

編集部

ワークショップ参加者のお話で、何か印象に残っているものはありますか?

そうですね。印象的な会話はたくさんあるんですけど、オランダでのワークショップに参加してくれたオランダ出身の50代くらいの女性の話をよく覚えています。
その方のひいおばあさんがすごく修繕のできる人だったそうなんです。そのひいおばあさんは孤児だったそうで、当時、女の子の孤児が里親にもらわれるためには修繕ができなければいけなかったそうです。修繕ができないと価値がないと見なされるような、そんな強迫観念で修繕のスキルを身に着ける人がいた時代があったという話を聞いて、忘れられません。
私は、修繕をエンパワーメント(empowerment)※1、つまり“自分でできる”という感覚こそが自分に力を与えてくれる、という気持ちで修繕の活動をしています。
そのひいおばあさんの世代には、主に女性の役割とされていた家庭内労働のひとつに裁縫や修繕がありました。女性には、やるべき役割や、いるべき場所があるとされて、それらを押し付けられてきた歴史があります。そのような女性の抑圧と、裁縫や修繕が切ってもきれない時代があったんですよね。
だからこそ、エンパワーメントとして修繕を取り返していることを全面に押し出す見せる修繕が、私は好きなんです。

編集部

課せられるのではなく、自分たちがやりたいという気持ちがエンパワーメントに繋がるんですよね。

そうですね。そのひいおばあさんの次の世代になると、女性が社会に参画する時代がきます。ワークショップでお話ししてくれた彼女のお母さんの時代は、手仕事なんてしない、自分で働いて自分で欲しいものを買うんだという、強い女性像を証明しようとする考えになったようです。そして、家庭内の女性というイメージと結びつく裁縫や修繕はかっこ悪いこと、やりたくないことになっていきました。手仕事に対して、やらされてる感覚があったんだと思います。手仕事は女性がやるものだという考えを押し付けられることも嫌だった。
とはいえ、裁縫はいつの時代もさまざまな人にとってエンパワーメントとしてあったことは多くの研究者が指摘しています。裁縫や手仕事は、女性を抑圧する手段とされながらも、クィアコミュニティーや女性、有色人種などのさまざまな抑圧されたコミュニティーが、権利を主張するツールとしてきました。「自分でつくる、表現する」ことのパワーだと思います。

私の世代だと、自分たちをエンパワーメントする手段の手仕事として「#metoo」※2のムーブメントでピンクの耳がついたニット帽「プッシーハット(pussyhat)」を編んでみんなでかぶったという例が有名でしょうか。さらに、ヨーロッパにはクィア裁縫クラブも多く存在します。東京オリンピックの会場でクロッシェをするイギリスの水泳選手がいたり、SNS上には自分で縫ったり編んだりするものづくりを発信しているアカウントがたくさんありますよね。自分たちでものをつくることそのものがかっこいいじゃんっていうムーブメントが、私たちの世代にもあると思います。

←プッシーハットのイメージ。

「見せる修繕」もそんなエンパワーメントのひとつです。「自分で服を直した」、「捨てなかった!」ということを明らかに修繕された服を着て発信するんです。

そして、今私たちが日本やオランダで手仕事や修繕はエンパワーメントだ!と言っている瞬間にも、劣悪な環境と低すぎる報酬で、服を生産している多くの人がいることを忘れてはいけないと強く思います。修繕をしてその服を着ることは、環境汚染や労働搾取をすすめるファスト・ファッションのシステムに加担しないことの表明ですが、一部の人だけがエンパワーメントされることを助長しないためにも、自分の活動を批判的に見る姿勢は保っていたいと思います。

今、国内外の大学では修繕、修理、リペア、ケアといった概念が注目されています。例えば、「喫緊な社会問題や環境問題は、社会の仕組みやシステムが壊れているから」と捉えるなら、それを修理・修繕する必要がある。今の社会には、ものを一からつくることの方が修理や修繕よりも優れているといったヒエラルキーがあると思います。だけど、壊れてしまった仕組みと向き合い、つまりケアし、その状態を改善していくために修理することは必要で、それはとてもクリエイティブな活動だと思います。

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編集部

「ケア」とはどういう意味ですか。また恵真さんの活動と「ケア」はどう繋がっていると考えていますか。

ケアは、その後に続く言葉次第でいろいろな意味を持つ言葉になりますよね。例えば「care about」は興味関心を持つという意味になります。その対象が衣類だと、自分の服がどこから来たのか、誰がつくったのか、誰が犠牲を払って、ここに服があるのかに対して、care aboutすることになります。さらに、修繕が力や可能性を秘めていることに興味を持ってもらうことが大切だと思っていて、私はワークショップを通して、そのきっかけづくりをしています。
あとは、「care for」だと、手入れする、気に掛けるといった意味になります。ワークショップでは「care for your clothes」、「care for society」、「care for the earth」で、服や社会、そして地球のことを気に掛ける活動として修繕をしたい。私はそういう風に捉えています。

編集部

「見せる修繕」に対して「見せない修繕」もありますよね。ミグラテールの今回の特集では、日本で昭和初期に販売されていた婦人誌の、「見せない修繕」を再現している記事もありますが、その違いについてはどう考えていますか。

昭和初期の婦人誌を参考にした記事『編み物のお繕い その1〜編み目の構造と用意するもの〜』

「見せる修繕」、「見せない修繕」、どちらも同じだけ重要で、そのなかでも「見せる修繕」は、誰でもできる方法で、ちょっといびつだったり、新品のような見た目ではないけれど、自分の手で修繕したことが自信に繋がる、その流れが魅力だと思います。細かい作業が好きな人は、精巧な技術の「見せない修繕」を学んで、ざっくりでも手を動かしたい人は「見せる修繕」にトライして、どちらも共存するといいですよね。
何かが繕われている、ぼろぼろであることが恥ずかしいと考える時代があったように、今もそういう考えの人もいると思います。なるべく新品同様に直す技術も大事で、それができることもすごく重要ですよね。新しいものを買うよりは絶対にそっちの方がいい。なので修繕をしていく姿勢や、「見せない修繕」の技術や方法が守られていくといいなと思います。
私が取り組んでいる「見せる修繕」は、「自分で修繕する」ことが大きなポイントです。自分で修繕すると、熟練の技術をもった人がほどこす「見せない修繕」のように元通りにはならないけれど、自分で繕った衣服を自信をもって着ることが、とても素敵な動きだと思うんです。

2022年7月、アムステルダムのDe Hallenという文化商業施設でのワークショップの様子。

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編集部

最後に、メンディングの好きなところを教えてください。

修繕はとてもクリエイティブな活動で、今の社会にとって不可欠なものだと思います。個人的には、身近な人の衣服を修繕することが多いので、私が修繕したものを使ってくれていることを想像する時間がとても好きなんです。その人が好きな色は何だろう、とか使い手のことを考えることも大好きです。

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まだまだ恵真さんのお話が気になりますが、今回はここまで。これからの恵真さんの活動がとっても楽しみです。
たしかに立ち止まって考えてみると、現実に存在するものである限り、月日の流れでその状態が変わっていくのは自然なことですよね。現代を生活する私たちは、物が大量に生産され続けてきたたった数世紀の間で、「使い捨て」の感覚が根付いてしまっているように感じます。
そんな時、ひとまずメンディングすることを思い出してみたい。
人との関係、物との関係、社会との関係、服との関係、そして自分自身との関係…。自分と何かの関係を簡単に切り離してしまうのではなく、時間をかけて見直して関係性をつくり直していくこと。そうすることによって、社会に振り回されることなく、自分自身をゆっくりとエンパワーメントすることができるのではないかと、エマさんに勇気づけられました。
メンディングを含む、手仕事の力はこういうところにあるのではないかな…とエマさんと話しているとじっくりと感じました。

PS:恵真さんの活動に対する、みなさんのご感想が聞きたくなりました。ご感想をSNSのXで「#見せる修繕」をつけてポストしていただけると幸いです。

※1 エンパワーメント:力(権限)を与えるという意味。社会や組織のなかで人が本来もっている力を引き出し、取り戻すこと。個人が思う存分に力を発揮できること。黒人のエンパワーメント、女性のエンパワーメントなど、歴史的に抑圧されてきた立場の人が自分の力や権利を自分から獲得し、自信を持つこと。

※2 #metoo:2017年に世界中で行われたWomen’s Marchを皮切りに、性暴力やハラスメントに対して、被害者とその支援者たちが連帯して大きな運動を起こした運動。インターネットを通じて世界中に広まった。PUSSYHAT PROJECT™(プッシーハットプロジェクト)のウェブサイトではプッシーハットのレシピが無料で公開されています。

PROFILE

ハフマン恵真 Emma Fukuwatari Huffman

京都工芸繊維大学でデザイン学を専攻し、2022年に修士号を取得。アクティビズムとケアとしての修繕に関心があり、日蘭を拠点にビジブルメンディングのワークショップ開催などの活動を展開。Studio A-lot-of-thingsの共同創設者。

Studio A-lot-of-thingsのインスタグラム:https://www.instagram.com/studio.alot/

https://efhuffman.com/

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