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自分で修繕するってどんなこと?見せるメンディングの活動家、ハフマン恵真さんインタビュー vol.1

オランダの首都・アムステルダムで暮らしながら、見せるメンディングのワークショップを開いている日本人がいます。ハフマン恵真さんにお話を伺いました。日本からはるか遠くの場所で、見せるメンディングの活動をする彼女の魅力に迫ります。
photo: Emma Huffman, text: Hinanko Ishioka, interview: Migrateur editor team

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ミグラテールの特集「見せる、見せないメンディング」。そもそも「メンディング」は、日本ではまだあまり馴染みのない言葉ですが、「#mending」でインスタグラムのタグ検索をしてみると、あらゆる情報が溢れています。メンディングは、英語圏では一般的に布類を長く使うためにほどこす「修繕」の意味で広く知られているようです。
今回お話を伺った、ハフマン恵真さん(以降、恵真さん)は、メンディングの中でも特に「ビジブルメンディング(Visible mending)」の活動家。ビジブルメンディング、つまり見せるメンディングは、破れたり穴のあいた箇所を、あえてわかるように目立たせて修繕する方法です。彼女は、京都の大学院を修了後にアムステルダムへ渡り、アートセンターや大学で、見せるメンディングのワークショップを開いています。恵真さんのワークショップの参加者たちの作品は、名前のついた技法や誰かのデザインにとらわれずに、参加者自身が思い思いに刺した遊び心のある表現で溢れていて、とても楽しそう。彼女は、アムステルダムでどのような「見せるメンディング」の活動をしているのでしょう。お話を聞いてみました。

お話を伺ったのはこの方

ハフマン恵真 Emma Fukuwatari Huffman

京都工芸繊維大学でデザイン学を専攻し、2022年に修士号を取得。アクティビズムとケアとしての修繕に関心があり、日蘭を拠点にビジブルメンディングのワークショップ開催などの活動を展開。Studio A-lot-of-thingsの共同創設者。

Studio A-lot-of-thingsのインスタグラム:https://www.instagram.com/studio.alot/

https://efhuffman.com/

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編集部

まずは、恵真さんの活動について教えてください。

オランダのアムステルダムを拠点に、「見せる修繕」を教えるワークショップを開催しています。
ワークショップを始めたのは、Mediamatic(メディアマティック)※1という、アートセンターでワークショップのマネージャーとして働き始めたのがきっかけです。メディアマティックは、社会の「普通」を問うアートや体験を企画・開催していて、いろいろなワークショップが開かれているんです。
ある時、施設のディレクターに、「私は修繕が好きで、いつも家でやってるんだよね」と話すと、ちょうどディレクターはBORO※2に興味があって、それにまつわるワークショップを開く運びとなりました。私は、東北で継承されてきた襤褸(ぼろ・らんる)について詳しく学んだわけではないのですが、「修繕」のもつ意味とその活動に興味があったので、それでもいいかディレクターに確認しながら、襤褸の歴史や技法についてリサーチをして、襤褸を切り口とした見せる修繕を学ぶ「BORO stitching」というワークショップを開くことになりました。2022年9月から2023年12月まで、毎月1回開催しました。

2022年11月にメディアマティックでのワークショップの様子。

編集部

今はどんな活動をしているんですか。

最近の活動としては、今月はアムステルダム大学人文学部のクリエイティブスペースでワークショップを行いました。また、持続的なものづくりを切り口とした展示に合わせて、ユトレヒトのオルゴール博物館の学芸員の方に修繕のワークショップの講師として呼んでいただいたりもしました。
あとは、日本にいた頃に出会ったオランダ人の友人と「Studio A-lot-of-things」で通称「Salot(サロット)」というユニットを組んで、見せる修繕のワークショップ「Making Mends」を開いています。彼女とは、大学時代からサーキュラーデザインという、素材や製品を使い捨てるのではなく、長く使い、循環させるためのデザインについてよく話をしていたんです。見せる修繕は、もちろん「直す」という成果もあるけど、自分で直すというその過程でものづくりについて考えたり、自分自身と服との関係を見つめ直すきっかけにもなり得ると考えています。そのためMaking Mendsは、自分と服の関係や参加者の考えを「見せる修繕」を通して可視化するようなワークショップとなるようにデザインしています。
Making Mendsは京都で1回、オランダで数回開催しました。オランダの回に参加してくださった、ロッテルダムにあるエラスムス大学の先生からお声がけいただき、彼女が担当する大学院のコースで共同のワークショップを開くことになって、今はその準備をしています。

アムステルダム大学人文学部のクリエイティブスペースにて。ワークショップの様子。

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編集部

実際に針と糸で修繕するところから、さらに広い修繕の活動をされているんですね。

私は、「自分で修繕する」ということが大事だと思っています。私は、修繕を「ケア」と「アクティビズム※3」をどちらも持っている行為だと思っています。それは私が生み出した考えではなくて、修繕の研究で博士号を取得し、アメリカ・ニューヨークのパーソンズ美術大学で教鞭をとっているKate Sekulesさんや、イギリスのロンドン芸術大学で「アクティビズムとしての修繕」を研究し博士号を取得したBridget Harveyさんなど、複数の活動家や研究者が論じています。彼女たちは、見せる修繕をほどこして、直したことを明らかにした服を着て街を歩けば、それ自体がアクティビズムになるといっています。見せる修繕をした服を着ることは汚れたり、壊れたり、要らなくなった服を廃棄せず、もう少し長く着るという選択を私はした、という声明になるという彼女たちの思想に共鳴したんです。
産業革命以降に、機械によって生まれたものが最も美しいとされる価値観や、新品の服がかっこいいとされる価値観が広がりましたよね。さらに新品が簡単に手に入る低価格化とそのシステムにより、大量生産・大量消費は勢いを増すばかりと感じます。それをひっくり返すために、私も「見せる修繕」の活動をしています。

Kate Sekulesによる見せる修繕の本。恵真さんのバイブル。『Mend! A REFASHIONING MANUAL AND MANIFESTO』Kate Sekules 2020 Penguin Random House

手仕事も同じだけ、もしくはそれ以上にかっこいいということが価値観として高まれば、直された服を着て街を歩くことがひとつの選択肢になるはずです。新しいものを買わないで修繕するという選択はとても未来志向だし、それを実現する修繕や手仕事は懐古主義ではないと思います。
見せる修繕の活動家はインスタグラムを見ても、世界中にたくさんいます。それでも自分がやる理由としては、ワークショップに参加してくれる毎回6人ほどの新しい人に、「修繕は自分にもできるんだ」という感覚を持ってもらったり、修繕してもらう選択肢に気づいたり、そういう人を少しずつでも増やしたいという願いを持ってやっています。

ハフマン恵真さんインタビューvol.2につづく

PS:恵真さんの活動に対する、みなさんのご感想が聞きたくなりました。ご感想をSNSのXで「#見せる修繕」をつけてポストしていただけると幸いです。

※1 メディアマティック:アムステルダムにある、アート、自然、生物学、そして食に関する展示やワークショップを開く文化施設。

※2 BORO:襤褸(ぼろ、らんる)。主に東北地方で、物が不足していた暮らしの中で、使用した布を繋いだり重ねたりして縫い合わせた布のこと。田中忠三郎という襤褸のコレクターが「BORO」として海外に広め、世界中に関心のある人がいる。

※3 アクティビズム:ある思いや考えに基づいて、社会的・政治的な変化をもたらすために行動すること。

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