穴やシミも、生かしちゃえ。見せるメンディングの活動家、ハフマン恵真さんインタビュー vol.2
手芸や手仕事の奥深い魅力を共有する編集部の独自コラム。メルマガ限定でお届け。登録はこちらから。
編集部
ワークショップではどのようなことを教えているのでしょうか。
まず初めに、なぜ現代において修繕、特に「見せる修繕」をするのかという社会的な背景を伝えます。「なるほど、だから見せる修繕をするのか!」と納得していただいてから、制作のインスピレーション源になるような、これまでの参加者の作品をどんどんお見せします。すると、参加者の殻が破れていくような感じがするんです。
私のワークショップは、主にパッチ(布)を縫いつけるタイプの修繕を行います。参加者の方に、穴があいていたり、シミのあるような衣類などを持ってきてもらい、その部分を修繕してもらいます。技法としては、高度な技術を使うとかでは全然なくて、刺繍の基本的な技法であるなみ縫いと玉止めができればOKなレベルです。簡単な技法なら参加者同士でいろいろ話をしながら進められて、参加者の方たちからは「もっとこういう場をつくってほしい」、「もっと集まりたい」という感想をよくいただくんです。一人で黙々と手を動かすことがメディテーション(瞑想)になるという話もありますが、こうやって人が集まる場としての手仕事もあると思います。
私は、修繕は元に戻すことだけではなくて、破れたものをもう一度使える、使いたくなるためのものづくりだと思っています。
例えば、穴の修繕の場合、穴の有機的な形を生かして、それ以上ほつれないように周りを補強したりします。シミの場合は、シミ全体を完全に隠すのではなくシミより濃い色の糸で周りを囲むことで、目の錯覚でシミが見えにくくなったこともあったんです!参加者の方と対話をして、そんなこともできるんだって発見しながらワークショップを進めています。
手芸や手仕事の奥深い魅力を共有する編集部の独自コラム。メルマガ限定でお届け。登録はこちらから。
編集部
恵真さんはなぜ修繕に興味を持ったのでしょうか。きっかけはありますか。
そうですね、2つあります。1つは父の影響ですね。父はエンジニアで、何かが壊れたらまずは直してみようとトライするタイプの人です。特に電子機器類が好きで、何かが壊れる度によく解体して修理していたんです。成功と失敗は半々でしたが、そのおかげで私自身は直すことへのハードルが低くなり、自分で直すことで新品のような姿ではなくなることも受け入れ、ものを長く使うことを当たり前として考える家庭で育ちました。
2つ目は、大学の学部生時代にプロダクトデザインを専攻していたことです。プロダクトデザインは、製品をデザインすること。学んでいくうちに、ものが溢れた社会において、大量生産されるものをさらに増やすためのデザインをすることに疑問が生まれました。ちょうどその頃、『THE TRUE COST(ザ・トゥルー・コスト ファストファッション真の代償)』というドキュメンタリー映画を観たんです。その映画は、ファストファッションの裏側に迫るもので、バングラデシュにある縫製工場が入った商業施設、ラナ・プラザが大崩壊した事故※などを扱っていました。
INFORMATION
『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』
ファッション業界でも大量生産・大量消費が問題化
誰かの犠牲の上に成り立つファッションに変化が起き始めた!
ファッション産業の今と、向かうべき未来を描き出すドキュメンタリー
監督:アンドリュー・モーガン
プロデューサー:マイケル・ロス
製作総指揮:リヴィア・ファース、ルーシー・シーゲル
出演:サフィア・ミニー、ヴァンダナ・シヴァ、ステラ・マッカートニー、ティム・キャッサー、リック・リッジウェイ ほか
配給:ユナイテッドピープル
特別協力:ピープル・ツリー
協力:Dr.Franken
2015 年/アメリカ/93 分/カラー
映画『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』 | 華やかなファッション業界の裏側の知られざる真実とは? (unitedpeople.jp)
そのドキュメンタリーを観て、なんてことだ…と衝撃を受けて。もう新しい服は買いたくないなと、大学2年生の頃から思うようになりました。それからは、デザインの中でも、今あるものを長く使っていくようなデザインをしていこうと考えるようになり、修理、修繕、メンテナンスのデザイナーになりたいという気持ちが芽生えました。「見せる修繕」と出合ったのもこの時期です。
編集部
デザインにも、いろいろな種類があるんですね。恵真さんが修繕の分野で行っているデザインはどんなものなのでしょうか。
よく広義のデザインと狭義のデザインといわれますが、私は広義のデザインを大学院で学ぶことができました。広義のデザインは、目に見えないこと、例えば社会の仕組みから、生活の中の小さなことなどに対して「こうあってほしいな」というアイデアをもとに、それに向かって実現していくこと全般を指しています。
また、広義のデザインでは「誰の」アイデアなのか、「誰が」デザインして実現し、さらに維持していくのかという、「誰が」の部分も広く捉えます。つまり誰もがデザイナーに含まれるんです。例えば、生活の中で理想を描いて「キッチンは一緒に暮らすおばあちゃんにとって使いやすくなってほしいから、こう配置しよう」と考えるのはインテリアデザイナーの仕事でもあるけれど、その前にその家族一人ひとりが考えていることですよね。
私は、「見せる修繕」のワークショップをデザインすることを通して「修繕を知るきっかけ」や「人が集まって共に学ぶきっかけ」をつくっていると思っています。大きく捉えれば、ものを捨てない社会、ケアする社会をデザインする小さな実行だと思います。
ハフマン恵真さんインタビューvol.3に続く
PS:恵真さんの活動に対する、みなさんのご感想が聞きたくなりました。ご感想をSNSのXで「#見せる修繕」をつけてポストしていただけると幸いです。
※ラナ・プラザ崩壊:2013年に、世界的なアパレルブランドの縫製工場などが入った商業ビルが大崩壊した事故。そこではバングラデシュの主に女性がアパレルのグローバル企業に低賃金で労働搾取されていた。事故の前日、倒壊の予兆があったためビル当局から避難命令がありながらも縫製工場では労働を続けさせられていた背景があった。ラナ・プラザ崩壊の事故については、ミグラテールの人気漫画連載「手芸中毒 byグレゴリ青山 第6回 手芸と経済」でも言及されています。
PROFILE
ハフマン恵真 Emma Fukuwatari Huffman
京都工芸繊維大学でデザイン学を専攻し、2022年に修士号を取得。アクティビズムとケアとしての修繕に関心があり、日蘭を拠点にビジブルメンディングのワークショップ開催などの活動を展開。Studio A-lot-of-thingsの共同創設者。
Studio A-lot-of-thingsのインスタグラム:https://www.instagram.com/studio.alot/
https://efhuffman.com/