編み物のお繕い その1〜編み目の構造と用意するもの〜
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教えていただいたのはこの方
帯刀貴子さん
「手紡ぎ糸で編み物しましょう」 をコンセプトに世田谷の工房で糸紡ぎ・編み物教室を主催。野望は世界中の羊毛を紡ぐこと。そして古来の技法、スプラング・ボスニアンクロシェ・ノールビンドニング・ルーピングなどに精通した、いにしえの編物師となるべく、研鑽を深めている。
目立たせないメンディング(mending)と見せるメンディング
お気に入りの衣類を大切に、長く身につけたいという思いから、今、見直されているのが「お繕い」です。ここ数年、取り組む人が増えているダーニング(darning)は、ヨーロッパの伝統的なお繕いの方法で、衣類にできた穴を縫い直すテクニック。
近年は「見せるメンディング」として人気を集めていますが、もともとは補修跡を目立たないようにする繕い方でした。 たしかに虫食いの穴や引っかけて破れた穴は、思いがけない位置にできがちです。形も大きさもさまざまなので、できればあまり目立たないように直したい場合もあるでしょう。
日本で行われていた昔ながらのお繕いは、まさにその願いを叶えるための修繕方法でした。実は毛糸の素材になる羊の飼育が日本で本格的に始まったのは、明治時代に入ってから。今でこそ手軽に購入できる毛糸の衣類も、度重なる戦火と震災に見舞われた明治、大正、昭和初期の日本人にとっては、まだまだ安価とは言い難いものでした。だからこそ、毛糸でできた衣類を誰もが大切に身につけていたし、できてしまった穴はできるだけ目立たないように直すのが定石に。
この頃の日本には、あらためてサステナブルという言葉を叫ばずとも、その精神がしっかり根付いていたように感じます。婦人雑誌ではセーターや靴下をきれいに繕う方法がよく取り上げられていました。内職としてその技術を仕事に生かした女性もいたそうです。日本の「目立ちにくい修繕」には、そんな先人たちの試行錯誤から生まれた知恵がたくさん詰まっています。今回は昭和初期の資料『毛糸の再生法と編み物の洗ひ方・染め方・縫ひ方』(婦人倶樂部10月號附録(昭和14年)/第日本雄弁会講談社)をベースに、そのテクニックに迫ってみましょう。
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なにより重要なのは、編み目の構造を知ること
「目立ちにくい修繕」は、穴のあいた箇所に同じ編み目を足して元に戻すという考えが元になっています。そのため編み目の構造を理解しておくことは、とても重要なポイントです。糸がどんな風に編まれているか、その動きを知っていると、繕う糸をどうやって通せばいいかが自ずとわかってくるからです。編み地を引っかけた時、ツルツルと糸がほどけてしまうことがありますよね。これはどんな編み地も基本的には1本の糸で編まれているから。だから、逆再生をするように、新たな糸で編み足すことができれば、きれいな「補修跡」を作ることができるのです。
そこで覚えておきたいのが、3つの編み目。ニットアイテムによく使われている代表的な編み方(棒針編みの編み地)です。基本になるツートップが、メリヤス編みと裏メリヤス編み。伸縮性のあるゴム編みはその応用で、セーターの手首や裾、靴下のはき口などに使われています。
さあ、写真とイラストで、白い糸の動きを追ってみてください。編み目は1段ずつ横方向に繋がっています。ちなみに編み目は、糸のループの中から次の糸を引き出すことで完成します。1ループ=1目。そうやって1目ずつ、ループを連続させたものが編み地になります。
■メリヤス編みの編み目
表目(図の赤丸部分のように下の編み目の裏側から表側に糸を引き出した目)だけが横方向に並んでいます。
■裏メリヤス編みの編み目
裏目(図の赤丸部分のようにしたの編み目の表側から裏側に糸を引き出した目)だけが横方向に並んでいます。
■1目ゴム編みの編み目
表目と裏目が交互に(図の赤丸部分のように)横方向に並んでいます。
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お繕いに必要な道具類
編み目を理解したら、次は道具の準備です。お繕いの道具といっても、特別なものはありません。修繕器具のダーニング・マッシュルームは専用の道具ですが、これは電球やたまご、おたまなどでも代用可能です。ここで大事なのは、お繕いの前に必要なものをきちんと手元に揃えておくこと。なぜなら途中で手を止めることなく、最後まで安心してスムーズに作業できるようにするのが、きれいな仕上がりへとつながるからです。
ダーニング・マッシュルーム
ダーニング用のきのこ型の道具。かさの部分に編み地の修繕したい部分を当て、根元をひもやゴムで縛って使います(セーターなどは後ろ側の編み地を拾わないように注意します)。
①② 絹糸、滑りのよい細糸
ほつれ位置の上下の編み目に通し、作業の途中で編み地が必要以上、ほどけてしまうのを防ぎます。修繕が済んだら抜いてしまう糸です。
③ とじ針
針先が丸い、編み物専用の針。修繕する編み地の毛糸の太さに応じて使い分けます。
④⑤ 刺しゅう針、縫い針
前出の絹糸や細糸を編み目に通す時に使います。
⑥ まち針
編み地や補修糸の固定、修繕位置の目印に使います。
⑦ 糸通し
撚(よ)りがほぐれやすい毛糸を針穴に通す時に使います。
⑧⑨ 細かな作業用のハサミ、糸切りバサミ
毛糸を切る時に使います。細かな作業用は、修繕する穴を切り揃えて整える時に便利です。
⑩ 目打ち
修繕する穴を整えたり、余計な糸を取り除く時に使います。
⑪⑫ レース針、かぎ針
編み目を修復していく時に使います。
お繕いに必要な毛糸類(補修糸)
お繕い用の毛糸は、土台の編み地と似た色で、同じくらいの太さのものを用意しましょう。家にある毛糸でもいいですし、ウール刺繍用の糸やダーニング専用の毛糸を使うのもおすすめです。そのままだと太い場合には、糸の撚りを戻して数本の細い糸に分けてから使います。一方で細い場合には、2本どりにするなど本数を増やすことで太さを調節しましょう。
編み地と同じ糸を使う
手編みの場合、余り糸を少量ストックしておくのがおすすめです。特に靴下のように穴があきやすいアイテムは出番も多く、重宝します。
ウール刺繍用の糸やダーニング専用の毛糸を使う
家にある毛糸に使えるものがない、市販のニット衣類を修繕するなどの場合は、小巻きで販売されていて、色数も豊富なウール刺繍用の糸やダーニング専用の毛糸が便利です。色は土台の編み地と同じくらいか、やや濃いめを選ぶと修繕跡が目立ちにくくなります。靴下のダーニング専用糸は一般的にナイロン混で強度があります。
特集・その2では実際にマフラーとセーターをサンプルにして繕い方を解説します。また、その3で靴下、その4でかぎ針編みの編み地にあいた穴の補修方法も紹介していきます。
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