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編み物のお繕い その4 〜かぎ針編みの編み地にできた穴のお繕い〜

 明治時代、宣教師によって日本に広められた編み物はかぎ針編みといわれています。編み方も最初は文字だけで、現在の編み目記号の前身が登場するのは大正時代に入ってから。立体的な編み地や面白い模様を形にしやすいかぎ針編みは人気があり、昭和初期には記号図で紹介される作品も増えました。赤ちゃんのケープ、子どものドレスなど、身につけるアイテムも多く、同時にお繕いの知識も必要とされたようです。今回は、昭和の資料で紹介されていたかぎ針編みの編み地の「体裁のよいお繕ひ」をさまざまな編み物の技法に長けた手紡ぎ作家の帯刀貴子さんが解説します。
photo:Takashi Sakamoto, text: Sanae Nakata

教えていただいたのはこの方

帯刀貴子さん

「手紡ぎ糸で編み物しましょう」 をコンセプトに世田谷の工房で糸紡ぎ・編み物教室を主催。野望は世界中の羊毛を紡ぐこと。そして古来の技法、スプラング・ボスニアンクロシェ・ノールビンドニング・ルーピングなどに精通した、いにしえの編物師となるべく、研鑽を深めている。

http://baruknitting.blog29.fc2.com

長編みの編み地にできた穴 〜難易度★★★〜

 昔の表記は、長編と書いて「ながあみ」。その名の通り、1目の丈が長いので、なにかに引っかけてしまうこともあるでしょう。ここでは糸が切れてできた穴の繕い方を紹介します。

穴をあけたサンプルの編み地。

■お繕いの仕方 〜昭和の資料から〜

下図を参照して繕います。補修糸は1段ごとに切って始末します。

『毛糸の再生法と編み物の洗ひ方・染め方・縫ひ方』婦人倶樂部十月號附録/第日本雄弁会講談社より抜粋。

<下準備>
※お繕いの作業がわかりやすいように、解説では補修糸に「白の毛糸」を使用してします。実際は、お繕いする編み地の色と太さに合わせ、補修糸と針を選んでください。

まず補修部分の目を広めにほどいて四角い穴にします(解説用の編み地は4目2段をほどいています)。その際、穴の上部に残る4段めの長編みの足(1目につき輪2つ)にほどけ防止の細糸を通しておくのが大事なポイントです。穴の両端には、片方の目にループ(大きめに広げておきます)、片方の目には糸端が残ります。

表から見た編み地。矢印は編み方向。穴は2段め(裏を見て編む段)と3段め(表を見て編む段)になります。

<繕い方>
① 編み地を裏に返し、補修の1段めを編みます。右端の目のループに針を入れ、糸端を引いて目を引きしめ、続けて同じ長編みの足1本(上側の左1本の糸)に針を入れます。補修糸を針先にかけて引き出します。補修糸がつきました。

▶補足 〜補修糸のつけ方〜
資料の図では、補修するアイテムの地糸をとじ針に通し、補修糸の端から中へ約3cm通して撚り直し、1本の糸にしています。

『毛糸の再生法と編み物の洗ひ方・染め方・縫ひ方』婦人倶樂部十月號附録/第日本雄弁会講談社より抜粋。

② 穴の右下の目を拾って長編みを1目編みます。

③ 残りの3目にも長編みを編んだら(合計4目)、糸端を約20cm残して切り、
そのまま引き抜きます。糸端をとじ針に通し、穴の左端の目の頭に後ろ側から針を入れ、補修した4目めの頭に差し戻してつなぎます。補修の1段めができました。

④ 補修の2段めを編みます。まず、新しい補修糸を用意して1段めと同じ要領でつけます。
※工程④~⑧は作業が見やすいように太糸に替えています。地糸が白、補修糸が緑、ほつれ防止の細糸がブルーです。

⑤ 前段の1目めに長編みを1目編みます。

⑥ 一旦、長編みから針を外し、穴の右上の長編み1目分の足(細糸を通した土台の輪2つ)に左から針を入れます。

⑦ 続けて、長編みの目に針を入れ直し、そのまま、矢印のように引き抜きます。補修の長編みが1目編めました。

⑧ 残りの3目も長編みを穴の上部の目と編みつなぎながら編み、1段めと同様に左端の目につなげます。

⑨ 残った糸端をとじ針に通し、編み地の中に数目くぐらせてから余分をカットします。お繕いのできあがり。

細編みの編み地にできた穴 〜難易度★★★〜

細編みは、昔の表記では短編と書いて「みぢかあみ」。お繕いの方法は長編みとほぼ同じです。こちらは昭和の資料をご覧ください。

■お繕いの仕方 〜昭和の資料から〜

『毛糸の再生法と編み物の洗ひ方・染め方・縫ひ方』婦人倶樂部十月號附録/第日本雄弁会講談社より抜粋。

お繕いは先手必勝

かぎ針編みを含め、編み物の繕い方はこのほかにもいろいろありますが、きれいに仕上げるコツは最初にお話したとおり、小さな穴のうちに直すことです。棒針編みの場合は、編み地が薄くなった時点でメリヤス刺しゅうをして補強をしておくと、さらに長持ちするでしょう。先手を打つ。お繕いの一番の秘訣はやっぱりこれです。

■メリヤス刺しゅうでの補強の仕方

『毛糸の再生法と編み物の洗ひ方・染め方・縫ひ方』婦人倶樂部十月號附録/第日本雄弁会講談社より抜粋。

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物があふれる現代の暮らしの中で、今回の連載で紹介した「お繕い」はすぐに必要なテクニックではないかもしれません。ですが、いつか「ていねいに物と向き合う暮らし」を考える機会が訪れた時、先人の手仕事がその一端を担えるものになればとても嬉しく思います。

END

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取材したのはこの方

中田早苗

手芸関連の雑誌、書籍を中心に、フリーランスのエディター、ライターとして活動。 初心者向けのニット本や『世界のかわいい編み物』『ラトビアの手編みミトン』(ともに誠文堂新光社)、各種手芸書、ラトビア公式パンフレット最新版などの編集を手がける。『ラトビアのミトン200』(誠文堂新光社)では、エディトリアルトリオ・LIEPA(リエパ)で編集を担当。近年はワークショップや作品提案も行う。

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