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「趣味があってよかった」豊後大野で暮らす青竹かごの作り手・安藤さんと手しごと商会のお話

大分県豊後大野市を拠点に、地元の作り手による手仕事品をプロデュース・販売する「手しごと商会」。主宰の森香桜瑠さんに取材をした日のこと。竹かごの作り手、安藤のぶあきさんを紹介していただけることになり、作業場があるご自宅に伺いました。
photo & text: Hinako Ishioka

青竹のかごの作り手

安藤さんは、森香桜瑠さん(以降、かおるさん)主宰の、大分県豊後大野で暮らす作り手が生み出す手仕事品をプロデュース・販売する「手しごと商会」で、青竹のかごを担当している作り手さんです。
安藤さんがつくるのは”青竹”を使用する竹細工。これは白竹を使う伝統的工芸品の別府竹細工が生まれるずっと前から、地域の人々の暮らしの中で生活道具として使われてきたものです。

安藤さんは、私有の竹藪から加工しやすい青竹を見極め、伐るところから、竹ひごにして、編むところまでを自らすべて行う、その「竹細工づくり」が人生の趣味だそうです。

昔ながらの知恵が詰まった青竹のかごづくりの技術には、安藤さんならではのこだわりがあります。
1つめは、青竹の皮を剥ぐこと。そうすることで、経年変化によってかごの色がだんだん飴色になり味が出てきます。2つめは、底にツヅラカズラという、ツル性の植物を使用していることです。ツヅラカズラは昔ながらの竹細工の縁の処理によく使われていた植物で、安藤さんは近辺の山に自生しているものを採りに行っているそうです。3つめは、かごの縁を竹ひごで巻く処理をすること。2時間半かかるこの作業は、一度巻き始めて途中で作業を止めてしまうと乾燥して巻けなくなってしまうので、集中して一気に巻いてしまうことがポイントです。
手しごと商会のかおるさんは、安藤さんのこの技術に、今の若い人たちが日常使いできるようなデザインのアイデアを提案し、二人三脚で商品をつくっています。

安藤さんによる手しごと商会の商品「青竹のかご」。これは完成してから約2年経ったもので、少し色が変化している。
底の縁に見えるのがツヅラカズラ。安藤さんの青竹かごには、のぶあきの「の」の焼印が。
これがツヅラカズラ。

安藤さんの生い立ち

安藤さんは1943年(昭和18年)豊後大野生まれの81歳。戦争で父を亡くし、母子家庭で育ちました。
故郷の近くを大野川が流れ、子どもの頃に川で魚獲りをして遊んでいた時のこと。魚の中でも下流から上流へと上ってくるウナギ獲りには、餌を仕掛けてウナギが一度入ったら出られなくなる道具がどうしても必要でした。周りの友達は皆、商店で50円ほどで売っている竹でできたウナギ受けを買い、ウナギ獲りを楽しんでいました。
「僕は、おふくろにウナギ受けを買ってほしいとどうしても言えなくて。でも道具がないとそう簡単には獲れないんです。そこで、竹の筒を工夫して自分でウナギ受けを作ったんです。大げさだけど、それから私の人生は始まったと、今でもそう思うんです」。
子どもの頃の遊びの中で工夫を凝らし、竹細工と出会った安藤さん。それから知らず知らずのうちに山から竹を伐り出し、竹ひごをつくって編む竹細工の技術を身に着けていきました。

今ではウナギ受けもお手の物。

高校を卒業後、現在の国土交通省にあたる公務員として働き始めました。全国転勤のある仕事で、2000年に地元の豊後大野に戻ってくるまでは、東京、横浜、鹿島、水俣、沖縄など、全国津々浦々、13回の引っ越しを繰り返し、「その間、どこにいても竹のことが気になっていました」と話します。
「豊後大野に帰ってきて、竹がたくさん生えている土地にようやく帰って来れました。竹細工づくりのブランクは勤務していた期間の40~50年あったけれど、自分が本当にやりたかったのは、やっぱり竹細工だったので、趣味で本格的に始めました」。
帰郷を機に、趣味で竹細工づくりを始めた安藤さん。地域の竹細工クラブにも入りました。それから14年間続いた義母の介護にあたっても、家で楽しめる竹細工づくりが安藤さんの日々を支えました。
「趣味があってよかった。趣味は本当に自分がやりたいことを選べるものだからね。楽しいんですよ」。

手しごと商会との出会い

そして竹細工づくりを続けていると、徐々に近所の人からの評判が集まるようになりました。周囲の人のすすめもあり、道の駅で竹かごを販売することに。その販売がきっかけとなり、かおるさんと出会いました。
「安藤さんの作品は、竹細工をつくっている人に見せても、ひごの細さ、精密さ、構造の強さに驚かれます」と話すのはかおるさん。安藤さんの作品と出会ってすぐにそのクオリティーの高さに惚れこみ、手探りで始めたばかりの「手しごと商会」で取り扱うことを決めました。安藤さんとかおるさんの出会いはかれこれ10年も前のことだそうです。
安藤さんはこう話します。「森さんの要望を聞いて、かごの形はいろいろ変化がありながら今の形ができました。私は趣味で竹細工をつくっています。本来は依頼されると趣味ではなく仕事になってしまうけれど、僕は趣味で作って、森さんが売ってくれる、お互いにとって良い形で付き合っています。森さんとものづくりをするようになってからは、自分の感覚だけじゃなくて、人の目をくぐらせて作品ができていくのが楽しいですよ」。

作業場ではこのように編んでいる。

「つくる」が生み出す繋がり

安藤さんからは“ものづくりの趣味を持つことの豊かさ”を、そして手しごと商会の取り組みからは“手仕事が持つ人と人を繋げる力”を感じさせられます。

青竹のかごの裏話を取材中、「森さんがいなければ、このかごもできていない」と話す安藤さんに、「安藤さんがいなければ手しごと商会もありませんから」とかおるさんが返すやりとりがありました。
手しごと商会は、利益を追求することがゴールではありません。地域の手仕事を、商品とその作り手の背景を伝えることで、作り手と買い手の豊かな人間関係を生み出して広げています。
「こういう作り手さんたちがいて、こういうものができた、という活動自体を知ってもらうことで、それぞれの地域にもきっとある、手仕事の活動に向き合うきっかけになってくれたらいいなと思います」。
安藤さんの青竹のかごをはじめとする、手しごと商会の商品を手に取ると、ものを通して素敵な人と出会ったような素朴な嬉しさがこみ上げてきます。

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