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「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.22 2024年民芸市レポート(後編)

バルト海に面した緑豊かな国、ラトビアに伝わる手仕事の数々。今も昔も変わらない、素朴でやさしい温もりのある伝統的な技、そしてそれらを残し伝えていくベテラン職人、伝統を受け継ぎ新たな形を築く若手作家の作品など。雑貨屋「SUBARU」の店主・溝口明子さんが出会った、ラトビアの手仕事の現在(いま)を現地の写真と共にお届けします。
Text,photo:Akiko Mizoguchi

>>「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.21 2024年民芸市レポート(前編その1)
>>「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.21 2024年民芸市レポート(前編その2)

ラトビア民族野外博物館で年に一度開催される民芸市「Gadatirgus(ガダティルグス)」へ

前編に続き、民芸市の会場を紹介します。
ラトビアの手工芸品を語る上で外せないのが手編みのバスケット。柳などの自然素材で編まれたバスケットは森に映えます。小さなものから大きなものまでサイズも色々、トレイ型、ハンドル付き、蓋付きなど、形状も色々、ショッピング用、収納用、テーブルウエアなど用途も色々。無数のバスケットが森のあちらこちらに置かれていました。

着色した柳で編まれたバスケット。
削いだ松で編まれたこちらのバスケットはペイントされていました。
vol.6で紹介した白樺細工職人のカスパルス・マダラご夫妻。

広い会場を回っていると、お腹が減ってヘトヘトに。湖のそばに広いフードコートがあるので、エネルギーチャージに向かいます。ブースを一通り見てからメニューを決定。ブラッド・ソーセージやキャベツのサラダ、マッシュポテトなどのラトビアの郷土料理をもぐもぐ食べて回復しました。フードコートのそばには遊具がたくさんあり、親が食事をする傍らで、子どもたちはのびのびと駆け回っていました。

ケータリングのブースの奥には湖が広がっていて、ピクニックに来たかのよう。
大空の下に並ぶ手作り感溢れる遊具の数々。最高の公園です。

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民芸市では、フードコートや公園エリアのほかにもお楽しみが用意されています。音楽やフォークダンスのステージに演劇、そしてワークショップまで! 欲しいものがありすぎてお買い物に悩んだら、これらのエンターテインメントで頭をリフレッシュするのも作戦の一つです。

フードコート近くのステージでは、歌や合奏、フォークダンスなどが次から次へと繰り広げられていました。
森の中のシアター。演者も観客も気分爽快!
編み物や刺繍など、2日間で20種類ものワークショップが開催されていました。

お腹を満たし、休憩してから再びお買い物の再開です。気分転換をすると、今まで見逃していた新たな掘り出し物に出会えるので不思議です。思わずクスッと笑ってしまう微笑ましいアイテム、どうしても手に入れたくなるような美しい手仕事など、まだまだ一期一会の品で溢れています。財布と相談しながら、でも時には値札から目を背けて、お宝探しを楽しみました。

鉄製品も伝統的な手仕事。大きな松ぼっくりに驚きました!
どんぐりやキノコといったラトビアらしいモチーフのステンドグラス。
劇でもできそうな動物のフェルト帽子。

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ラトビア特有の神様の文様をあしらった飾りものは、年々増えている気がします。
ラトビアの暮らしの中で使われてきた古道具たち。味があります。
会場の一角には書籍のブースコーナーも。

こうして大興奮の二日間が過ぎていきました。昨年より出店者が減っていましたが、それには大切な理由がありました。博物館が開園100周年を迎えたことで、よりラトビアらしさを目指す原点回帰の回だったそうなのです。出店の審査をより厳格にし、いつも以上に厳しい条件をクリアした職人さんたちだけが出店していたという訳です。民芸市が終わったあとに、いろいろな人と今年の民芸市について語らう機会がありましたが、出店者も訪問者も皆口を揃えて「今年はいつも以上にラトビアの手仕事を感じる素晴らしい市だった」と言っていました。開園100周年を記念して、ラトビアの伝統工芸への計り知れない貢献を讃えて、vol.8で紹介したアウスマ・スパルヴィニャさんを含む11名の職人さんに感謝のメダルが贈呈されていました。

「ラトビアにおいて、50年以上にわたってこれほどまでに関心を集め続ける文化的イベントはあまりありません。最高の職人とその作品は、私たちの国の誇りです。民芸市は、民族のアイデンティティーを育み、維持するのに役立ってきました。また、国の自信を深める重要な役割をも果たしてきました。毎年ラトビア全土から職人が集い、それぞれの技術を披露し、お互いの知見を共有し、次なる作品への足掛かりを得ています。そして、若い世代の人々に、技術の継承について興味を持ってもらう機会にもなっています。民芸市は、単なる売り買いの場ではなく、大切な祝祭の場なのです。今では国内のみならず、世界中からゲストが訪れています」。
これは、民芸市の開催前に主催者が発したコメントの要約です。今回の民芸市にかけた意気込みが伝わってきます。私はこれまで何度も民芸市で職人さんに取材をしているのですが、実際に全員が「民芸市は職人にとって祝祭の場」と認識されています。ただ素敵なものを買うだけではない、もっと深いものがある。だからこそ毎年多くの訪問者を惹きつけるのでしょう。

今年のメインビジュアルは「黒パン」と「アブラ(生地をこねる桶)」

私が毎年密かに楽しみにしているのが、民芸市の宣伝ポスター。今年描かれていたのは、黒パンとAbra(アブラ/黒パンの生地をこねる桶のこと)でした。あとから知ったのですが、これらはラトビア人の伝統的な生活を強調するシンボルとして用いられていたそうです。最適な木材を見つけてアブラを作れる職人がいる、そのアブラを使って黒パンを焼ける婦人がいる…。これこそが昔から続いてきたラトビアの暮らし。そんなライフスタイルを伝える博物館の使命を見事に表現しているアイコンとして、黒パンとアブラが採用されたそうです。民芸市の期間中、中央の広場では木工職人さんによるアブラ作りのデモンストレーションも行われていました。ちなみに、100周年を記念して今年4月には記念硬貨が、5月には記念切手が発行されましたが、やはりどちらにもラトビアの暮らしを支えてきた手仕事の道具がデザインされています。

民芸市の今年のポスターは黒パンとアブラ!
会期中、アブラ作りを披露していた職人のユリス・バルアディスさん。

未曾有の円安のため、いつものペースで買い物を楽しむことはできませんでしたが、それでも特別な年に開催された民芸市を訪問できて本当に幸せでした。 民芸市は年に一度の開催ですが、博物館自体は通年で開園しています。多くの方が訪問し、広い園内をゆっくり散策しながら、今も暮らしが続いているかのように保存されている家屋群をじっくり見学して、連綿と続いてきたラトビア人の素朴ながらも豊かな暮らしに触れていただければと願っています。

生活の息吹を感じる野外博物館の古い家屋。

INFORMATION

ラトビア民族野外博物館 Latvijas Etnogrāfiskais brīvdabas muzejs

※民芸市「Gadatirgus」は毎年6月第一週末の開催

Bonaventuras iela 10, Rīga
http://brivdabasmuzejs.lv/

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>>「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.21 2024年民芸市レポート(前編その2)

PROFILE

溝口明子 Akiko Mizoguchi

ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。

http://www.subaru-zakka.com/

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