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ぬいぐるみ作家 まばたき88さんインタビュー vol.1 ぬいぐるみとの出会い、ものづくりの原点

「しゃちょう」「パタコアラ」「冬のトロール」「パラレル宇宙」…。これらはすべて、ぬいぐるみ作家・まばたき88(まばたきパチパチ)さんのぬいぐるみの名前。彼らは性格や特性、シチュエーションといった自身の背景やここに至るまでの物語を携えて誕生します。作品ごとに作風が異なり、使う素材も手法も工程も変わる、独特な制作スタイルで活動を続けるまばたき88さんに、自身の活動の原点やぬいぐるみに対する思いを伺いました。
photo: Takashi Sakamoto,interview & text: Migrateur editor team

一度聞いたら忘れられない印象に残るお名前ですね。どのような意味があるか教えていただけますか。

「まばたき」は、目を閉じている状態と目を開けた状態をつなぐ一瞬の動作です。目を開けている状態というのはものを見ている時間、すなわち何かを見た瞬間にそれは「見たことがあるもの」になります。
反対に、目を閉じている状態は空想の時間です。未だ見ぬものはその空間に存在していると思っています。
その間にある、まばたきという行為の中に可能性を感じ、「なんだか見たことがあるような気もするけど、初めて見るかもしれない」という既視と未視の間を彷徨ってみたいという思いから、この名前をつけました。
名前をつけるなら日本語にしたいという思いがあり、堅苦しくない印象のひらがながいいかなと思っていて。最終的に語感で決めました。
88(パチパチ)の部分は、「まばたき」という言葉はすでに存在しているので、オリジナリティをつけたくて。まばたきに対する擬態語として‟パチパチ”を合わせました。8と8です。8の部分もロゴにしやすい形かなと思いまして。

まばたきさんと呼ばせていただいてもよいでしょうか。まばたきさんは、いつごろから作家として活動をされているのですか。

2021年6月からぬいぐるみ作家として活動を開始しました。その前は大学生でした。大学ではプロダクトデザインを専攻していて、一度はデザイン系の仕事に就職したんです。ただ、仕事ではどうしてもパソコン作業が多くなってしまって。もともと手を動かすことが好きだったので、その仕事が自分が本当にやりたいことなのかを考えた時に、少し違うかなと思い、なにをしようか模索していく中でぬいぐるみを作ることに思い至りました。

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大学で専攻していたのはどのような分野のデザインだったのでしょうか。将来、手掛けたいことや夢はありましたか。

専攻はプロダクトデザインです。「ALESSI」(アレッシィ)というイタリアのブランドが好きで、大学に入った時、ゆくゆくはオリジナリティのある製品づくりに関わり、プロダクトのデザインを手掛けたいという思いがありました。学部には、例えば硬さのあるプロダクトだと家電や車をデザインなど、いろいろな勉強や作業をする人がいました。とにかく手を動かしてなにかをたくさん作る、そんな学部でしたね。入学後は私も楽しくもの作りをしていました。
ただ、就職先の会社では、3Dやパソコンをメインに使う仕事が多くなり、手を動かす工程は工場が担当することになりました。自分が手を動かしてものを作ることがほとんどなくなり、あってもスケッチを描くくらいしかなくて。業務が分業制になるのはあたりまえのことなのですが、その状況に対してもどかしい気持ちがありました。

次のステージに進む際、プロダクトデザインではなくぬいぐるみ作家の道を選んだのはなぜですか。

ぬいぐるみはずっと好きだったんです。2歳ぐらいの誕生日プレゼントにもらったニコちゃんのぬいぐるみを、今でも大切に持っています。幼稚園に持って行ったりもしました。小学生のころは手芸が好きで、小さなぬいぐるみを作ったりしていました。実家にもたくさんのぬいぐるみがあって、今でもかわいいぬいぐるみを見つけるとつい集めてしまいます。
ただ好きというだけで、生業にしようとはまったく思っていなかったのですが、会社から離れ、やりたいことはなんだろうと考えた時に、ふとぬいぐるみのことを思い出しました。好きだからこそ、近くにあったからこそ、ぬいぐるみに関して深く考えることもなく、まして仕事にするなんて思いもしなかった。自分でぬいぐるみを作ることも、そこまで多くやってこなかったのですが、だからこそ挑戦してみたい、作ってみたいと思い立ったんです。

まばたきさんのぬいぐるみコレクションの一角。棚の上に座っている黄色い子がニコちゃんのぬいぐるみ。

昔からぬいぐるみが身近にあったのですね。具体的に好きなぬいぐるみはありますか?

Bobby Dazzler(ボビーダズラー)さんのぬいぐるみが好きで、3体持っています。ジェリーキャットというメーカーのぬいぐるみは、くたっとしたフォルムがかわいいのでお気に入りです。でも、作家やメーカーで集めることはしてなくて、例えば、水族館の土産物店に売っているぬいぐるみも、自分がいいと思えば買ったりします。「こぐまのトンピー」は電機店のレトロコーナーで復刻版を見つけました。ハンドメイドがいい、という気持ちはまったくなく、工場で作られるような既製品のぬいぐるみも好きです。あとは、自分は作らないのですが、クマや動物のモチーフが多いかもしれません。でも、テディベアは持っていないんですよ。

中央の黄色いクマが、電機店で出会った「こぐまのトンピー」。笛を吹きながら太鼓をたたく懐かしのおもちゃ。

基本的に、キャラクターものではなく、個性をもったぬいぐるみが好きですね。昔から自室の雰囲気に合うようなぬいぐるみを好んで選んでいたかもしれません。冒頭で話したニコちゃんは、親が選んでくれたもので、子どものころからのお気に入りです。あとは民芸品も好きで、狛犬は私が保育園の頃、江戸東京博物館で行った時に買って今でも一緒にいます。はにわも好きですね。出身地の群馬県は古墳が多く、はにわがたくさん出土しているんです。はにわのぬいぐるみを作ったこともありますよ。

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それまで学んできたプロダクトデザインとぬいぐるみの制作工程は違うように思います。具体的にどのような活動からスタートしたのでしょうか。

最初は、とにかく手を動かして何かを作らないといけないなと思って。自分が思いつくものをスケッチで描き、それを形にするところから始めました。思い返してみると、学生時代にたまに自分でもぬいぐるみを作っていたんです。大学で出た課題に対するアンサーとして、ぬいぐるみを作ったこともありました。子どものころから手芸は好きで続けていて、縫い物するための材料や道具も手元にあったので、あまり抵抗感がなく始められました。作品はインスタに上がっている順番で作っているんです。今見ると、最初の頃は荒削りだなって思います(笑)。

まばたきさんの作品は、架空の生物をぬいぐるみにしていることが多い気がします。それぞれに元になるモチーフはありますか。

モチーフが何かというより、作品に背景を持たせ、物語をプラスしてぬいぐるみを作っていることが多いかもしれません。この子はどこから来て、どんな性格で、どういうストーリーを持ってここにいるのだろうと考えたうえで、それを形にするんです。そうすることで「ぬいぐるみ」という従来のジャンルとは異なる作品になるのではないかと。もともとコンセプトを考えることが好きだったのと、作品にストーリーを加える作業は学生の頃からやっていました。ありきたりな言い方ですが、自分にしか思いつかないようなものを作りたいという気持ちが一番にあるんです。なので、実在する動物をモチーフにすることはほとんどありません。

動物を作ろうこと思ったことはなかったのでしょうか。

ないわけではないですけど、いざ作ろうとすると手が動かなくなってしまうんです。動物のぬいぐるみ自体、世の中にたくさん出回っているので、自分自身が満足しているということもあるかもしれません。かわいいクマのぬいぐるみは自分も持っているし、これはこれで完結しているからよしと考えて、あえて作らないのかもしれませんね。始めた時から今まで、世の中にない、よくわからないものを作っている気がします(笑)。

作品のアイデアはどのようなときに浮びますか。

いろいろですが、机に向かって紙とペンで考えることが多いかもしれません。家でぼーっとしていて、なんとなく手を動かしてスケッチを描いた中におもしろいアイデアがあったり。散歩中に思い浮かぶこともあります。前に、電車のホームで電車を待っていたときに赤ちゃんを抱っこしたお母さんがひざでビートを刻んでいるのを見て、ミュージックビデオでそこの部分を切り取ったら楽しそうとか考えたりしました(笑)。外出するときは小さなクロッキー帳を持ち歩きますが、いつもはスマホのメモに考え付いたことをめちゃめちゃ書きこんでいます。

日々思い浮かぶアイデアをスケッチブックに書き留めている。

プロダクトデザインとぬいぐるみの制作においてなにか通じるところはありますか。

デザインの考え方で、ぬいぐるみ作りに生かされている部分があります。デザインの授業では、デッサン以外にデザインの考え方を教わることが多かったんです。例えば「やかん」と「貝殻」を組み合わせたプロダクトを考えてみるとか。スイッチワードといって、特性の異なるもの同士の組み合わせを考えたり、一回混ぜてから要素をマイナスしてみたり、突拍子もないところから拾ってきたものをプラスするとどうなるのかなど、自分の頭では思いつかないようなことを無理やり考えたりこじ開けるんです。新しくものを生み出す時にそういう手法があることを知り、その考えをもとにぬいぐるみを作ることもあります。この方法で制作する場合は、もとになるモチーフがありますね。作品ごとに考え方や作り方が違ったり、新しい手法を試すこともあるので、制作工程は本当にまちまちなんです。

つねに新しい考えを巡らせているということですね。アイデアが枯渇することはないのでしょうか。

私たちは、日々過ごしていく中でいろいろなものをインプットしていると思うんです。私の場合、よく行く美術館など出先で得た刺激や情報を絶えずインプットしています。そして、頭の中には常に“これから作りたい作品”があるんです。今も次に作りたい作品が決まっていますよ。
どちらかというと頭に手が追い付いていない状態ですね。新しい作品を作りたい気持ちはあるのですが、いざ作品を作り始めるとそこに集中していくので、他のことがあまり気にならなくなります。手を動かしていると自然に目の前のことに意識が集中するので、新しいものや別の何かは遠のいていくといいますか。だから次の作品のアイデアは引き出しにしまっておく感じですね。潜在意識の中でアイデアが湧き出てくるような感じなので、生きているうちにアイデアがなくなることはないと思います。
半面、一人で作ることに対するジレンマはどうしても出てきます。手の数は限られているから大量生産はできないし、時間にも手数にも限界があるので、フラストレーションがたまることもあるんです(笑)。

>>ぬいぐるみ作家 まばたき88さんインタビューvol.2 ぬいぐるみを作るということ、これからの活動について

PROFILE

まばたき88 mabataki88

Kurumi Suginoによるぬいぐるみブランド。見たことがある(既視)と見たことがない(未視)のはざまを彷徨うようなぬいぐるみ作りを行なっている。ぬいぐるみは全てオリジナルデザイン。型紙も作者が一から作成している。
作者は多摩美術大学プロダクトデザイン学科を卒業後、幼い頃から心惹かれているぬいぐるみを制作していくことを決意。百貨店でのpopupや展示、イベントを中心に活動をしている。デザインを学んだことで得た多角的な視点で物事を観察し、そこからユニークな思想を構築することを得意とする。
https://mabataki88.com/

【展示情報】
ICECREAM HOLIC in Tokyo 7/15~7/21
ICECREAM HOLIC in Osaka 8/1~8/12
ニュースタア渋谷 POPUP 10/1~10/31

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