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vol.3 世界のいろんなクリスマス

もうすぐ楽しいクリスマスがやってくる! 皆さんご存じのクリスマスですが、当たり前と思っていたことでもじつは誤った認識をしていたり、意外に知らないことも多いのでは…。ここでは、ぜひ知っておきたいクリスマスの文化や背景となる歴史について紹介します。
photo:Takao Miyahara, text: Yukimasa Muranaka

プロフィール

むらなか・ゆきまさ

クリスマス文化研究家。長年、プロデュース業の傍ら、クリスマス文化を研究。オーナメントなどクリスマスグッズのコレクターでもある。毎年、生木のツリーを飾り、七面鳥を焼く。

1月にクリスマスを祝う国も

12月25日ではなく、1月7日にクリスマスを祝う国もある。
一口にキリスト教と言っても、大きく分けて2つに分かれる。1つは、北欧から地中海諸国までヨーロッパの西半分で信仰されて来たカトリックやプロテスタント諸派などの「西方教会」。もう一つは、ルーマニアからロシア・ギリシャまでヨーロッパの東半分で信仰されている各国の正教会からなる「東方教会」だ。
いま世界中で一般的に使われているのは「グレゴリオ暦(新暦)」だが、「東方教会」の「教会歴」は、同じ太陽暦だが、かつて一般的だった「ユリウス暦(旧暦)」を使い続けている。この「ユリウス暦」の12月25日を「グレゴリオ暦」に当てはめると1月7日になるのだ。

今年、ロシアのウクライナ侵略で、この事に一躍焦点が当たった。「東方教会」の一部であるウクライナ正教は、ロシアとの紛争が始まると、ロシア正教に従う親ロシアと反ロシアに分裂していた。反ロシア派のウクライナ教会は、これまで1月7日に祝っていたクリスマスを今年から12月25日に変更する事を決めた。宗教でも、脱ロシア化は進んでいる。

ドイツで、サンタより人気の天使

欧米では、クリスマスの季節に入ると、高い尖塔(せんとう)がそびえる教会の前の広場にクリスマスマーケットが出来る。中でも賑やかなのが、ドイツ。びっしりと木造の小屋が並び、中では木でできたオーナメント、ファン、スモーカー、くるみ割り人形などが売られている。食欲をそそるのは、その土地ごとに特色のあるソーセージを焼く匂い。クリスマスには欠かせない温かい「グリューワイン」と共に食べれば、冷えきった体も暖まる。
中でも、古くから「おもちゃの町」として知られるニュールンベルグでは、「世界最大」とされるクリスマスマーケットが開かれる。
そのニュールンベルグで、サンタロースにも負けない人気なのが天使。ドイツ語で、「幼子キリスト」を意味する「クリストキント」と言う。クリスマスマーケットの一角に設けられたステージの上に、長い金髪の巻き毛の鬘(かつら)を被った若い女性が、先端が長く尖った金色の王冠を被り、金色と白のドレスの上に金色のガウンをまとい現れる。「クリストキント」は、笑顔で、ステージの下に詰め掛ける子どもたちに、「サンタクロース」のチョコレートをプレゼントする。

グリューワイン用のマグカップ。左側のマグカップに描かれているのがクリストキント(ニュールンべグル)。右はドイツ屈指の温泉保養地の街並み(ヴィスバーデン)。

店が火付け役の日本のクリスマス

クリスマスに欠かせないのが、華やかな「クリスマス飾り」と美味しい「クリスマスケーキ」。この2つさえあれば、クリスマス気分は盛り上がる。
実は、人口のわずか1パーセントしかキリスト教の信者がいない日本で、「クリスマスが広がるきっかけを作ったのは店だ。
「クリスマス飾り」が一躍、世間の注目を集めたのは、1886(明治19)年12月7日。横浜で、「舶来」の食品を扱っていた明治屋が飾り始めたのが事の起こりだ。これにちなみ、今もこの日は、「クリスマスツリーの日」となっている。その後、明治屋が東京・京橋に進出すると、他の店も、競うように「クリスマス飾り」をするようになった。ここから火が付き、日本中の商店街で、クリスマスムードを盛り上げるための飾りが広がっていった。
日本で初めて「クリスマスケーキ」を売り出したのは、「ペコちゃん」でお馴染みの「不二家」。1910(明治43)年の事だ。不二家は、横浜・元町で創業した「ハイカラな」な洋菓子店だった。スポンジケーキにクリームを塗り、イチゴを載せて、上に蝋燭(ろうそく)を灯すという日本独特のスタイルは、不二家から始まった。
普段は大人しいとされる日本人だが、実はお祭り好きな民族。全国各地に、古くから、お金も、手間も掛けた多彩な祭りがある。それに掛ける情熱はすごい。渋谷の「ハロウィン騒動」にも見られるように、日本人は、普段は行儀よくしている分、何かを理由に「弾けたい」という欲求を持っているのだ。
その格好の理由が、ククリスマスだったのだ。だから、金回りが良かった、高度経済成長期からバブル経済期には、キリスト教徒でもないのに、盛大にクリスマスを祝っていたのだ。
今でも多くの日本人が知っているのは、企業が商売として仕掛けたクリスマス文化ばかり。その他にも、本場の欧米には、それぞれの国の歴史の中で培われた独自のクリスマス文化がいっぱいある。

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