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vol.2 「サンタ」は、こうして生まれた

もうすぐ楽しいクリスマスがやってくる! 皆さんご存じのクリスマスですが、当たり前と思っていたことでもじつは誤った認識をしていたり、意外に知らないことも多いのでは…。ここでは、ぜひ知っておきたいクリスマスの文化や背景となる歴史について紹介します。
photo:Takao Miyahara, text: Yukimasa Muranaka
photo: Freepik

プロフィール

むらなか・ゆきまさ

クリスマス文化研究家。長年、プロデュース業の傍ら、クリスマス文化を研究。オーナメントなどクリスマスグッズのコレクターでもある。毎年、生木のツリーを飾り、七面鳥を焼く。

モデルはトルコに実在した司祭

クリスマスには欠かせないサンタクロースにはモデルがいる。4世紀、地中海沿岸からトルコに掛けて広大な領土を有したローマ帝国の時代、現在のトルコのミライという町の司祭だった「ニコラウス」だ。
「ニコラウス」は、貧しい人を助け、子どもを慈しんだとされ、死後に聖人に列せられて「聖ニコラウス」として広く信仰の対象になった。12月6日は、その「聖ニコラウス」を讃える日だ。
この「ニコラウス」が、なぜ「サンタクロース」と呼ばれるようになったのか?
オランダでは、いつしか「聖ニコラウス」を「シンタクラース」と言うようになっていた。オランダでは、12月初旬に「シンタクラース」を祝い、子どもにプレゼントが配る習慣が定着した。
しかし、「シンタクラース」は、今の「サンタクロース」とは少し違う格好だった。白髪と長い顎ひげは同じだが、白い服の上に赤に長いガウンをまとった伝統的な司祭の恰好。赤い冠を被り、杖を持つこともあった。まだ「聖ニコラウス」の姿をとどめていたのだ。

アメリカで育まれたイメージ

「長い白い髭を生やし、太った笑顔の老人」「赤づくめの恰好に黒いブーツ」「トナカイが引くそりに乗って空を駈ける」「クリスマスの夜、煙突から入って来て子どもたちにプレゼントを持って来る」……このサンタクロースのイメージが育まれたのは19世紀のアメリカだ。 
ニューヨークの中心部・マンハッタン島にヨーロッパから最初に入植したのはオランダ人。そのオランダ人が「シンタクラース」の習慣を持ち込んだ。やがて「シンタクラース」は、「サンタクロース」と呼ばれるようになる。
今のようなサンタクロースのイメージが初めて世に出たのは、神学者・クレメント・ムーアの詩。詩は、小さな子を持つ父親の目撃談の形を取っている。父親が見たのは、クリスマスイブの夜に太って白い髭を生やしたサンタクロースが、トナカイの引くそりに乗り、たくさんのプレゼントを持って煙突から降りて来る、というものだった。詩は、全てにおいて、今のサンタクロースのイメージそのものだ。
1849年、すでに匿名で発表され、評判になっていたムーアの詩に、テアドア・ボイドが絵を添え、『クリスマスのまえのよる』という絵本が出版された。アメリカでは、クリスマの季節に子どもに読み聞かせる絵本の定番となった。やがて日本を始め、世界中で翻訳され、子どもの胸にサンタクロースのイメージが刻み込まれて行った。


1897年9月21日、ニューヨークで発行されていた新聞『ザ・サン』に一つの社説が掲載された。「サンタクロースは、本当にいるのですか?」という、8歳のローラ・オハンロンからの投書に答える形で書かれたもので、見えないものを信じる心を持つように諭し、信仰の大切さを説いた。名文として語り継がれたが、長い間、筆者が誰であるかわからなかった。後に記者のフランシス・チャーチであることが明かされた。オハンロンは後に教師となり、チャーチの言葉を胸に、教育に生涯を捧げた。
日本でも、この逸話をもとに『サンタクロースっているんでしょうか?』(偕成社/1977年刊)という絵本が作られ、長い間読み継がれている。庶民の何気ない日常生活を巧みに切り取り、1916年から半世紀近く、雑誌『サタデー・イブニング・ポスト』の表紙を飾り続けた画家ノーマン・ロックウェル。ユーモアとペーソス溢れる画風はアメリカ人の共感を呼び、国民的画家として今でも人気だ。ロックウェルは、サンタクロースを描くことも多く、そのイメージの定着に大きく貢献した。

8歳のローラ・オハンロンが『ザ・サン』誌に投書する様子もオーナメントの一つに。

1947年、クリスマス映画として『三十四丁目の奇蹟』が公開された。20世紀フォックスの作品で、監督はジョージ・シートン。物語の中心になるのは、ニューヨークを代表するデパート、メーシーズ。毎年11月の第4木曜日の「感謝祭」には、メーシーズの主催でニューヨークの中心街を埋め尽くす大パレードが行われる。最後に必ず、そりに乗ったサンタクロースが登場し、クリスマスシーズンの到来を告げる。映画は、急遽、パレードのサンタクロースに仕立て上げられた本物のサンタクロースが騒動に巻き込まれるロマンティクコメディ。サンタクロースの存在を信じたくなる心温まる作品だ。モーリン・オハラ、ジョン・ペインらが出演。サンタクロースは、エドマンド・グウェンが演じた。グウェンの助演男優賞を始めとして5部門でアカデミー賞を受賞した名作だ。
その後度々、映画やテレビでリメーク版が作られたが、1994年には、再び20世紀フォックスの製作でカラー版が作られた。この時の監督はレス・メーフィールド。サンタクロース役は、映画監督としても知られるリチャード・アッテンボロー。この作品も、クリスマスを語る上では欠かせない。

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