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vol.7-1 クリスマスとグリューワイン 寒い外でもぽかぽかに。クリスマスマーケットではグリューワインを。

11年間ドイツで生活し、帰国後はドイツの文化を日本に広める活動をされてきた森本さん。ドイツのことなら森本さんに聞いてみよう、そうすると、ドイツのクリスマスのことがよ~くわかる濃密な記事が届きました。今回はグリューワインについて。簡単なレシピも紹介!
photo & text: Tomoko Morimoto

vol.6 ドイツのシュトレンとクリスマス菓子について

グリューワインとは

グリューワイン(独:Glühwein)のグリューには赤熱する、という意味がある。つまり熱々に温めたワインのことである。寒い時期に、スパイス、砂糖、オレンジやレモンの果汁などを加えて温めたワインを、クリスマスマーケットなどで楽しむのがドイツの冬の風物詩だ。
ワインに香辛料や甘味(古くは蜂蜜)を入れて飲む習慣は、古代ギリシャやローマ時代からあった。ローマ人が飲んでいたものはコンディトゥム・パラドクスム(Conditum Paradoxum)といい、蜂蜜をワインで溶いて温め、胡椒、ローリエ、サフラン、デーツなどを加えて最後にワインを注いで調整したものだ。

ドレスデンのクリスマスマーケットの透明カップにグリューワイン。レシピ紹介はこちら。

ハーブとスパイス

その後中世ヨーロッパでもワインに味付けしたものは飲まれていたが、特に修道院で薬効を得るためにつくられていた。12世紀の修道女ヒルデガルト・フォン・ビンゲンも用途によって様々なハーブやスパイスを混ぜたワインの利用法を勧めている。咳が出る時はセージ、ラビジ、フェンネルをワインに浸け、ハーブの味がワインについたらワインを温めて飲む、心臓や脾臓(ひぞう)の疾患にはパセリとワインビネガー、蜂蜜をワインに入れて煮立たせ濾したものを飲む、などである。ハーブはビールによく使われていたが、ワインも同様だったのだ。

このような香辛料を加えたワインを総称してゲヴュルツワインまたはヴュルツワイン(Gewürzwein、Würzwein、どちらも香辛料入りのワインの意味)と呼ぶ。必ずしも温めたものだけとは限らない。中世にはヒポクラス(イポクラスとも)と呼ばれるゲヴュルツワインもあった。名前の由来は古代ギリシャの医者ヒポクラテスである。たっぷりの蜂蜜と香辛料を入れたもので、王侯貴族の飲み物だった。身近な場所で生える薬草とは異なり、外国からもたらされる高価な香辛料は平民には手が届かなかったのだ。白ワインでつくったものはクラレットと呼ばれた(12世紀にこう呼ばれるようになったボルドーの淡色の赤ワインに由来する)。スイスのバーゼルでは現在でもヒポクラスがつくられている。

ではグリューワインと呼ばれるようになったのはいつからなのだろうか。Glühweinという言葉はゲーテやグリム兄弟の書物にも登場するため、遅くとも19世紀にはこの呼び名はあった。温めたゲヴュルツワインを「熱いワイン(geglühter Wein、glüender Wein)」と呼んでいたのが、いつしか名詞化してグリューワインになったようだ。
また、グリューワインを製品化、つまり瓶詰めにして初めて発売したのがアウグスブルクのワイン商ルドルフ・クンツマンで、1959年のことである。

グリューワインのマグカップ。ブーツ型のもある。

グリューワインの基本的な材料

グリューワインはもちろん白ワインでもつくる。リンゴ酒が名物のフランクフルトではリンゴ酒でもつくる。主なつくり方で、ほぼどのレシピにも共通するのは、ワイン(赤・白)、ラム酒、砂糖(または蜂蜜)、オレンジジュース、オレンジスライス、使うスパイスはシナモン、丁字、八角が基本である。糖分を加えるため、ワインはドライの方がよい。ラム酒は入れないものもあるし、ワインは2〜3種類ブレンドしても、水を加えて軽めにしてもよいし、スパイスはナツメグなどを加えてもよい。オレンジに加えレモンも使ったり、白ワインにはリンゴジュースを、赤ワインにはベリーのジュースをブレンドするレシピもある。子ども向けにはリンゴやチェリーのジュースだけでつくるものもある。

グリューワインには安価なワインを使う傾向が強かった。高価なワインはそのままで飲むべきであるし、もし買ったワインの味が気に入らない場合、グリューワインにすればある程度好みの味にできる。ただ最近では使うワインの品種などにもこだわりを持つ人が増えているようで、ワイナリーが高級品種といわれるドルンフェルダー、レゲント、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)を使った自家製ワインでつくるヴィンツァー・グリューワイン(Winzerglühwein)も人気がある。

クリスマスマーケットのグリューワインスタンド。

グリューワインの特別バージョンともいえるのが、フォイアーツァンゲンボウレ(Feuerzangenbowle)だ。フォイアーツァンゲとは火ばさみのことで、ボウレは冷たいパンチである。中身はグリューワインなので厳密にはボウレとは言えないが、グリューワインが入った鍋の上に、ラム酒をしみ込ませた三角錐形の砂糖を専用の金具に置いて火をつける。ラム酒が燃えて砂糖が溶けると下のグリューワインに落ちるというわけだ。
現在の道具は火ばさみと異なるが、名前はそのまま残っている。火ばさみは、暖炉で燃える炭を掴みパイプに火をつけたりするのに使ったが、昔は三角錐に固めていた砂糖もこれで掴んでラム酒をかけ火をつけたのだ。フォイアーツァンゲンボウレは19世紀に学生組合で流行ったという。現在ではアドヴェント時期や大晦日のパーティなどで飲むことが多い。

グリューワインがある風景

ドイツではクリスマスマーケットに行くと必ずグリューワインの屋台がある。必ずしもクリスマスだけの飲み物というわけではないが、寒い外のマーケットで熱々のグリューワインを飲むのは格別だし、身も心も温まる。町ごとにその年の年号を入れたオリジナルデザインの陶またはグラス製マグカップをつくっており、グリューワインを飲んだ後はカップをそのまま記念に持ち帰る人も多い。

ドイツ語圏以外にももちろん呼び名は違えどもグリューワインと同様の、あるいは似た飲み物がある。スウェーデンのGlögg、デンマークやノルウェーのgløgg、フィンランドのglögiにはウォッカなどが入る。特に12月13日の聖ルチア祭に飲む習慣がある。ポーランドなど東欧でも飲まれる。またイギリスではSmoking Bishopというグリューワインに似たドリンクがヴィクトリア朝時代に流行ったという。ポートワインと赤ワインを使うのが特徴だ。これにはレモンまたはオレンジ、砂糖、スパイスを加える。ノンアルコールだが、アメリカやカナダではリンゴジュースを使ったHot Apple Ciderが、ドイツにおけるグリューワインのような存在と思われる。

vol.7 クリスマスとグリューワイン② グリューワインのレシピ

森本さんはこんな人

Tomoko Morimoto 森本智子

株式会社エルフェン 代表取締役。
ドイツの食に関わる仕事に携わる。ドイツ食文化、特にパン、ビールなどについてセミナーや執筆なども手掛ける。ドイツ、ドゥーメンスアカデミーのビアソムリエ資格を持つ。
著書多数。『ドイツパン大全』(2017年、誠文堂新光社、2018年グルマン世界料理本大賞パン部門優勝)、『ドイツ菓子図鑑』(2018年、誠文堂新光社)、『カタコト・ドイツ語ノート』(2013年、国際語学社)、共訳に『ビア・マーグス-ビールに魅せられた修道士』(2021年、サウザンブックス)。

https://elfen.jp/

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