vol.5 ドイツのことなら森本智子さんに聞いてみよう!ドイツのクリスマス徹底解説。
森本さんはこんな人
Tomoko Morimoto 森本智子
株式会社エルフェン 代表取締役。
ドイツの食に関わる仕事に携わる。ドイツ食文化、特にパン、ビールなどについてセミナーや執筆なども手掛ける。ドイツ、ドゥーメンスアカデミーのビアソムリエ資格を持つ。
著書多数。『ドイツパン大全』(2017年、誠文堂新光社、2018年グルマン世界料理本大賞パン部門優勝)、『ドイツ菓子図鑑』(2018年、誠文堂新光社)、『カタコト・ドイツ語ノート』(2013年、国際語学社)、共訳に『ビア・マーグス-ビールに魅せられた修道士』(2021年、サウザンブックス)。
https://elfen.jp/
クリスマスの時期
クリスマスはドイツでも様々な習慣や伝統があり、1年で最も重要な祝祭である。
カトリックとプロテスタント、地方や各家庭でしきたりや伝統が様々あり、それぞれに興味深い。ドイツではクリスマスは12月24日のイブの午後から26日までが祝日となる。25日を第一クリスマス・デー、26日を第二クリスマス・デーと呼ぶ。 ただクリスマスはこの3日間だけで完結するのではなく、11月11日の聖マルティヌスの日が終わるとクリスマスを意識し始め、クリスマスの1ヶ月前から始まるアドヴェントから本格的に準備が始まり、翌年2日2日の聖燭(せいしょく)祭までが大きくクリスマスの時期とされる。クリスマスツリーは12月に入ってから準備するが、撤収するのは1月6日の公現祭(東方の三博士の日)か聖燭祭の日までとなる。
準備期間のアドヴェント
ドイツではアドヴェントの時期、クリスマスに向けていろいろな準備が始まる。それらを一つ一つ紹介する。教会暦ではクリスマス前の4度の日曜日をアドヴェントサンデーとし、これらの日にはリースに4本のロウソクを立てた「アドヴェントクランツ」を用意し、日曜日が来るたびにロウソクに火を灯す。針葉樹の枝でリースを作り、松ぼっくりやリボンなど思い思いのデコレーションをする。
同じようにクリスマスまでの日数を数えるものに「アドヴェントカレンダー」がある。これは12月1日から24日までを数えるもので、1〜24までの数字がついた小窓を開けるとちょっとしたお菓子などが入っている。現在市販されているものではお菓子以外にも大人向けに酒や香水の小瓶が入ったもの、ハーブ・スパイスティーのもの、おもちゃメーカーがおもちゃ入りのものを作るなど、既製品のバリエーションは増える一方、紙や布を使って自作をする人も多い。手作りのアドヴェントカレンダーは壁や窓際などに飾りクリスマスムードを楽しむ。アドヴェントクランツもアドヴェントカレンダーも19世紀ドイツにて生まれたものである。
アドヴェント中に他にすることといえば「クリスマスカード」を書くこと、そして「クリスマスクッキー」や「シュトレン」を焼くことだ。日本の年賀状は正月当日に届くが、クリスマスカードは、楽しいクリスマスをお迎えください、という気持ちを込め、クリスマス前に送る。様々なデザインの美しいカードは、すぐにしまってしまわず、暖炉やサイドテーブル、棚などに並べたりしてこれも飾りとする。
さらにクリスマスに欠かせないものの代表格は「クリスマスツリー」。クリスマスツリーの由来は古代ローマやゲルマン時代にまで遡るとされる。常緑樹を生命力のシンボルとみなし、徐々に枝に菓子やリンゴなどを飾るようになっていった。クリスマスの木として定着し、ヴィクトリア女王と結婚したザクセン=コーブルク=ゴータ公アルバートがイギリス王室へクリスマスツリーをもたらしたことからイギリスに、その後アメリカなど各地へ広まった。なお、ドイツではクリスマスプレゼントを24日にクリスマスツリーの下へ置いておき、24日の夕方にプレゼントを開ける。24日に子どもたちにプレゼントを贈る習慣は、宗教改革をおこしたマルティン・ルターの考えにもとづいてルターの信望者たちがおこない広まっていった。
クリスマスマーケット発祥の地
もう一つ、ドイツから始まり世界各地に広まったものとして「クリスマスマーケット」がある。ドイツでは毎年大小様々なクリスマスマーケットが、全国で2,500〜3,000ほど開かれる。中世から続く伝統であるが、元々はクリスマス前に必需品を買い揃えるための市場だった。最も古いクリスマスマーケットとされているのが1434年からドレスデンで開かれているものだが、ハンブルクでも1329年には大聖堂前広場で市場が開かれていたという。徐々に屋台や遊具なども立ち並ぶようになり、今日のクリスマスマーケットに近づいていった。
現在のクリスマスマーケットは実用性より娯楽としての意味合いが大きい。食べ物、飲み物の他、雑貨、日用品、クリスマスの飾りなどを売る屋台が立ち並び、特に大きな町のマーケットには移動遊園地やステージも設置される。ステージではコーラスなどが催されるが、例えばニュルンベルクでは、2年おきに市内に住む16〜19才の女性から選ばれるクリストキントがステージに立ち、詩を披露しクリスマスマーケットの開会を宣言する。
それぞれの町の特色が見られるのもクリスマスマーケットの楽しみの一つである。屋台の食べ物や販売品が地方独特のものであったり、アトラクションやデコレーションに工夫を凝らしたものもある。有名なものはドレスデンのシュトレン祭や、世界一高いクリスマスツリーを誇るドルトムント、ルートヴィヒスブルクではバロック風のマーケット、世界に名高いハンブルクの歓楽街ザンクト・パウリでは派手なショーなどが繰り広げられる大人向けのマーケット、などがある。また、エスリンゲンなど、中世風に演出したマーケットも各地で開催され、大変人気がある。
クリスマスマーケットの楽しみ方は、例えば平日なら学校や仕事の帰りに友人たちと立ち寄って熱々のグリューワインを飲みながらマーケット内を散策したり、焼き立てソーセージや魚のフライサンドイッチなどで軽く食事をしたり、砂糖がけローストアーモンドや揚げ菓子、リンゴ飴など甘いものを楽しんだり、クリスマスプレゼントを探している人は何か見つかるかもしれない。グリューワインを飲んだ後は、そのカップを記念に持ち帰るのもよい(カップはデポジット制)。各地のカップを集めるのも一興だ。寒く暗い冬をできるだけ明るくにぎやかに過ごせるところ、それがクリスマスマーケットである。
vol.6 クリスマスに菓子はつきもの。ドイツのシュトレンとクリスマスクッキーの歴史
森本さんはこんな人
Tomoko Morimoto 森本智子
株式会社エルフェン 代表取締役。
ドイツの食に関わる仕事に携わる。ドイツ食文化、特にパン、ビールなどについてセミナーや執筆なども手掛ける。ドイツ、ドゥーメンスアカデミーのビアソムリエ資格を持つ。
著書多数。『ドイツパン大全』(2017年、誠文堂新光社、2018年グルマン世界料理本大賞パン部門優勝)、『ドイツ菓子図鑑』(2018年、誠文堂新光社)、『カタコト・ドイツ語ノート』(2013年、国際語学社)、共訳に『ビア・マーグス-ビールに魅せられた修道士』(2021年、サウザンブックス)。
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