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vol.4 「ヘレナ&パニラ」が次に目指すのは…ヒュッゲな編みもの?

「ヘレナ&パニラ」の2人、へリーネ・イェンセンさんとパニーレ・フィスカーさんにお伺いした、制作の舞台裏、2人のお人柄やお仕事などのお話を4回シリーズでご案内しています。最終回は、2人のライフスタイルや『しましま編み』に関する今後の展開などをご紹介します。
photo: Jan Oster, interview & text: Sachiko Kuramoto

ヘレナさんのライフスタイル

へレナさんは散歩が大好き。特に愛犬フィリップとの長い散歩は、何よりの喜びと癒しだそうです。
趣味は、芸術鑑賞。絵画の特別展には、まめに出かけていて、少し離れたコペンハーゲンの展示にもよく出かけます。演劇やパフォーマンスの鑑賞も大好きで、そのような芸術鑑賞が、へレナさんのインスピレーションの源となっています。
西海岸にあるサマーハウス(註:デンマークでは、自然の豊かな場所にミニマムな家を持つ人が少なくない。週末や休暇中、心身をリラックスさせるために使用する家のこと)は、彼女好みの絵画で飾られ、周りから家がギャラリー化しているとからかわれているとか。美しいものに囲まれていると制作意欲が湧くのだそうです。

へレナさんのホームページにも掲載されている愛犬フィリップとの写真。着用のセーターは、もちろん、ご自身の作品。

パニラさんのライフスタイル

パニラさんは、リサイクルショップで掘り出しものを見つけることが大好き。ソファーで編み物をすることも自分の内面と向き合える、良い時間だそうです。デザインの本に目を通すことも制作意欲の宝庫だとか。足に障がいを持つ犬との時間も大切にしています。

サステナビリティに関心が高いパニラさんは、数えきれない試作を小さく切って、アイロンで熱を加えて、小さな色の粒が入ったアクセサリーに仕立てています。そんなアップサイクル作品にも、パニラさんの形と色への強いこだわりがにじみ出ています。

取材当日にパニラさんが身につけていた、試作をアップサイクルしたイヤリング。

パニラさんは日本のものが大好きです。大好きなリサイクルショップ巡りでは、日本のものを探す習慣があるそうです。ご両親がお持ちだったという昔につくられた日本製のマッチ箱とマッチも宝物。「日本のお弁当包みに使う布も、詩的で素敵だと思うの」と話します。

お気に入りの道具

ヘレナさんのお気に入りの道具は、「かせくり器」。コンパクトなので、自宅はもちろん、どこでもかせくりができます。お住まいから約170 km近く離れている場所にあるサマーハウスにも、イタリアに住む妹さんを訪ねる際にも、必ず持って行くそうです。

へレナさん愛用のかせくり器。どこにでも持って行く。

パニラさんのお気に入りの道具は「日本のもの!」。日本の美学や手仕事、そして日本らしい慣習の所作に惚れ込んでいます。ヘレナさんも同感で、「正確性や精密性は日本を代表する技能の1つだと思うけれど、お茶を出す時に片手ではなく両手で出す、などの美しい所作や、仕事への集中力に、日本の美学が込められている。そこが素晴らしいと思う」と口を揃えての力説。また、「日本の手仕事が最初から最後まで一貫した美しさと精密性に溢れている部分も素晴らしいし、美しいと思う」とのこと。

「同僚からおみやげにもらったの」とパニラさんが見せてくださったのは、西陣織のねじり箱。編み物をする時の段数マーカー入れとして大活躍だそうです。

パニラさん愛用の西陣織のねじり箱。段数マーカーを保管。

『しましま編み』シリーズ続行について

前著では、クリスマスと春というデンマークのお祝い行事をテーマにしたので、次回は、その根幹とも言える居心地のよい暮らし「ヒュッゲ」をテーマにしたいそうです。「ヒュッゲ」にちなむもの、居心地のよい空間に適したもの、例えば、毛布やクッションなどの作品展開はどうかと思っているとのこと。次の作品の発表が楽しみです。

「ヒュッゲ」は編み物との相性がとても良いそうです。「編み物をすることでリラックスできるし、編み物をしていると、周りから離れて自分と向き合う時間にもなるから、ソファーに座って何も考えずに編み物をしているのは、とってもヒュッゲなひとときなの」とパニラさん。ヘレナさんの編み物ワークショップのように、編み物を軸にみんなでヒュッゲの時間を共有することもできますね。編み物でのヒュッゲ体験、素敵ですね。

『しましま編み』シリーズの延長としては、これまでに赤と白の世界とカラフルな春色の世界を紹介したので、落ち着いたモノトーンの世界も案として温めているようです。一般的なセーター編みではなく、オブジェや飾り、アクセサリーなど、編み物でこんなものがつくれるよ、編み物って楽しいよ、という提案を、今後もユニットとして行っていきたいそうです。

デンマークの編み物情勢

編み物への関心は、コロナ禍で大きな転換を迎えました。ステイホームの環境で、編み物を始めた人、再開した人は多く、毛糸のオンライン注文は混み合い、商品発送の手配は多忙を極めました。編み物を楽しむ年齢層に広がりができ、若い人たちの編み物への関心が高まったことも特徴の1つです。コロナ後は、編み物のワークショップへの参加を楽しむ環境が整い、週末に泊まりがけで編みものを楽しむ会や、平日の夜に開かれる編み物会など、いろいろな形での編み物教室が展開されています。

デンマークの編み物界で、必ず登場する名前は、イサガー母娘。母のマリアンヌ・イサガーは、毛糸の染色や織物などを学べる研修施設を運営し、毛糸にまつわる知識の普及に貢献しています。娘のヘルガ・イサガーは、毛糸ブランド「イサガー」のデザインを担当。ニット作家の輩出にも力を注いでいます。

最近、注目されているニット作家ラーケ・ベッガー(Lærke Bagger)のように、技術志向ではなく、独自の毛糸の扱い方とライフスタイルに特徴のある作家もいますが、プチ・ニット(Petit Knit)の身体にフィットする美しいデザインと糸選び、そして、キミー・モンクホルム(Kimmie Munkholm)のYouTubeによる編み物講座は、若い世代への編み物文化の浸透に大きく貢献しているそうです。

「ヘレナ&パニラ」の2人によると、編み物の魅力は「リラックス効果が高いこと」そして「何かを”つくる”ことができること」。さらに「そのクリエイティブな仕事を、車や電車での移動中でも、テレビを見ながらでも、家族と話しながらでもできることが、編み物独特の利点だと思う」とも。「手指を動かすので、常に脳への刺激を行なっているのも、きっといいことね」という補足もありました。

「編み物は、楽しい」— 取材を終えた後に感じた「ヘレナ&パニラ」の2人からの強烈な印象でした。

INFORMATION

ヘレナさんとパニラさんの活動情報

2人の活動は、下記のホームページとインスタグラムでも紹介されています。

◆ヘレナさん
HP: https://helenejensenknit.dk
Instagram: https://www.instagram.com/helenejensenknit/
※ヘレナさんの編み図は、世界中の編み物作家のポータルサイトRaverlyでも購入することができます。

◆パニラさん
HP: https://www.perlemagi.dk
Instagram: https://www.instagram.com/perlemagi/

PROFILE

くらもとさちこ Sachiko Kuramoto

広島県出身。コペンハーゲン在住。 30年以上に渡るデンマークでの暮らしの中で築いた知識と経験で、デンマークで培われた豊かな文化を独自の視点で紹介する企画や執筆を中心に活動している。
誠文堂新光社「北欧料理大全」では、著者カトリーネ・クリンケンたっての依頼で翻訳・編集を担当。
https://www.kuramoto.dk/

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