vol.1 デザイン大国・北欧デンマークのしましま編みユニット ヘレナ&パニラって?
しましま編みユニット
しましま編みの小物とアクセサリー作品群を発表している「ヘレナ&パニラ」は、デンマークを活躍拠点とする編み物デザイナーのHelene Jensen(へリーネ・イェンセン)さん(以降ヘレナさん)と手仕事デザイナーのPernille Fisker(パニーレ・フィスカー)さん(以降パニラさん)によるユニットです。
「ヘレナ&パニラ」は、2012年に『しましま編み・クリスマス』、翌年2013年に『しましま編み・春』を発刊しました。そこで発表されたエスプリ溢れる作品群は、すっきりしたモダンデザインを好むデンマーク人を魅了し、反響を呼びました。モダンなのに普遍性を感じる作品集は、デンマークの図書館でも高い人気を誇っています。
2人の出会い
ヘレナさんとパニラさんは、北欧デンマークに在する町コリングにある大学法人「デザインスクール・コリング」の同窓生です。コリングは、ドイツと地続きのデンマーク・ユトランド半島東岸にあるコリング・フィヨルドの湾奥に位置する町で、デンマーク国内の主要交通網の分岐ポイントとなっています。
東にまっすぐ、230 kmほど進むと、首都コペンハーゲン、ドイツとの国境までは約90 km、デンマークの最北端までが320 kmです。コリングは鉄道、車道ともに交通網の中枢的な役割を担ってきたため、造船業をはじめ、輸送を必要とする産業が集まりました。
そんな土地にあるデザインスクール・コリングは、テキスタイルに特化した高等教育機関で、繊維産業が栄えた町の背景と強く結びついています。
デザインスクール・コリングで、ヘレナさんはテキスタイル学科、パニラさんは被服(モード)学科に在籍しました。2人は学科が異なり、在学期間も重なっていないので、在学時の交流はありませんでした。それから2人は卒業後、同じ時期に母校で教鞭をとることになり、出会いを果たします。
ヘレナさんはテキスタイル学科で工業生産に対応した電動編み機による編みもの技術全般を指導。一方、パニラさんは、基本の縫製技術に加え、アパレル生産に関する知識や技術を指導していました。
同僚として知り合った2人ですが、へレナさんもパニラさんも、即座にお互いの才能とセンスに尊敬の念を抱いたそうです。
ちなみに、ヘレナさんは、取材当日もパニラさんの着こなしをベタ褒め。「大学に勤めていた頃も、いつも素敵な着こなしだったけど、特に靴がとっても個性的で印象的だったの」と回想していました。インタビュー当日も、パニラさんの靴は地下足袋を現代にリバイバルしたもので「個性的で印象的」。独特な大きな髷(まげ)の髪型とも相まって、とても素敵なユニークで柔らかい雰囲気を醸し出していました。一方、パニラさんは、ヘレナさんがとてもフォトジェニックだと褒め倒していました。ヘレナさんの編み物作品を紹介しているホームページの写真は、ご自身がモデルです。それらの写真を見ると、パニラさんの褒め言葉が決して大袈裟ではないことがわかります。
『しましま編み』シリーズが生まれた背景
ヘレナ
パニラが、ある日、赤と白のしましま模様の手編みのマフラーを身につけていたの。ただのマフラーではなく、端に紐がついていて、もう片方の端に留めることができる機能があってね、それがとっても素敵だなって思ったの。それが、共著に至るきっかけなの。
パニラ
へレナの独創性も圧倒的なの。
デンマークでは、クリスマス・イブの4つ前の日曜日から、クリスマスを迎えるために準備する期間「アドベント」が始まります。アドベントは、必ず日曜日から始まり、この最初の日曜日を「アドベントの第一日曜日」と呼びます。
アドベントの期間には、家庭、職場、教育機関、店舗など、いろいろな場所で、ろうそくを4本立てたアドベント・リースを飾ります。「アドベントの第一日曜日」には、1本目のろうそくに火を灯し、次の日曜日までの期間は、4本のろうそくのうち、第一日曜日に点灯したろうそくだけに火を灯します。次の日曜日は「アドベントの第二日曜日」となるので、2本目のろうそくに火を灯します。そして、「アドベントの第三日曜日」を迎える前日までは、「アドベントの第一日曜日」と「アドベントの第二日曜日」に灯したろうそくに火を灯して、クリスマスの到来を心待ちにするのです。
アドベント・リースのろうそく4本すべてに火が灯るのは、「アドベントの第四日曜日」。リースに飾るろうそくには1週間の間隔をおいて火を灯すため、4本が違う長さになることが特徴です。
2人が勤務していた大学では、毎年、教職スタッフが交代でアドベント・リースを職員室に飾るという慣わしがありました。ヘレナさんが担当だった年、デンマークのクリスマスカラーである赤と白のしましまに編まれたアドベント・リースが用意されたのです。そのクリスマスリースとお揃いで、デンマークのクリスマスで飾られる赤と白のくさりも毛糸で用意されていました。
ヘレナ
パニラの襟巻きにインスピレーションを受けた後だったから、同じコンセプトで作ってみようと思ったのよ。
どこまでもお互いを褒め称える様子は、とても微笑ましく映りました。
お互いの感動が引き金となり、身のまわりのもの、暮らしまわりのものという枠で、協働による作品づくりが始まりました。コンセプトは、「しましま」と「ガーター編み」によるクリスマス・グッズ。使って楽しくなるもの、普通とは少し違ったもの、セーターなどの衣服類ではなく、アクセサリー類に絞った作品が次々と生まれました。作品には「日本式」と呼ばれている引き返し編みの技法も取り入れられています。この協働プロセスでは、お互いが持つ技術や感性がとてもよい刺激になり、作品づくりを楽しみながらも、さまざまに感化し合えたことが、大きな収穫だったそうです。
次回は、2人の共著「しましま編み・クリスマス」と「しましま編み・春」の制作背景をご紹介します。お楽しみに。
INFORMATION
Designskolen Kolding デザインスクール・コリング
テキスタイルデザインを中心に学べる高等教育機関。デンマークのコリングにある。
adress: Dyrehavevej 116 DK-6000 Kolding
https://www.designskolenkolding.dk
(学校のポイント!)「デザインスクール・コリング」のテキスタイル学科では、テキスタイルそのものに特化した学びが中心なので、平面的な捉え方が基本となります。意匠だけではなく、染色や紡績などの技術を使って工業生産に結びつける手法を学びます。一方、被服学科では、立体的な捉え方が基本となり、テキスタイルの種類を学ぶとともに、テキスタイルを人体に合わせて裁断・縫製する手法を学びます。いずれの学科も、卒業後、テキスタイル・デザイナーもしくはモード・デザイナーとして、工場生産に対応したデザインや縫製を念頭においた具体的な指導を行っています。卒業後の就業内容に合わせた教育という点が、とてもデンマークらしいです。
PROFILE
くらもとさちこ Sachiko Kuramoto
広島県出身。コペンハーゲン在住。 30年以上に渡るデンマークでの暮らしの中で築いた知識と経験で、デンマークで培われた豊かな文化を独自の視点で紹介する企画や執筆を中心に活動している。
誠文堂新光社「北欧料理大全」では、著者カトリーネ・クリンケンたっての依頼で翻訳・編集を担当。
https://www.kuramoto.dk/