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vol.2 デンマークで出版された『しましま編み』シリーズ。配色へのこだわりとは?

「ヘレナ&パニラ」。へレナ・イェンセンさんとパニラ・フィスカーさんにお伺いした、制作の舞台裏、2人の人柄や仕事のお話を、4回にわたってご案内します。2回目は、著書『しましま編み』の制作裏話をご紹介します。
photo: Jan Oster, interview & text: Sachiko Kuramoto

デンマークでの赤と白の意味

デンマークの国旗は、ダンネブロと呼ばれます。現在使用されている国旗の中で世界最古の国旗の1つと言われ、北欧諸国の国旗に共通するスカンジナビア十字の基本となっている国旗です。デンマーク人は、国旗と国旗の色である赤と白の組み合わせに、母国を敬愛する意味合いや、祝福や幸運を願う特別な感情を抱いています。国旗や赤と白の組み合わせが『祝賀』と同義にもなっているのも特徴的です。

デンマークでは、誕生日や記念日にも必ずお祝いの象徴として国旗が飾られます。1本ではなく、あらゆるところに何本も!!
お祝いケーキにも国旗を飾りますが、誕生日を祝う食卓にも国旗が飾られます。お祝いをする部屋、誕生日や記念日を迎えた人の部屋にも国旗をたくさん飾ります。レストランで誕生日を祝う時も、事前に知らせておくとテーブルに国旗を飾って迎えてくれます。国旗に由来する赤と白の組み合わせが、デンマーク人にとって『祝賀』を意味することは、『しましま編み』のコンセプトを理解する上で大きな鍵ではないでしょうか。

誕生日にも国旗が多用される。

そして、デンマークでのクリスマスの意味合いも、大切なポイントです。クリスマスの頃は冬至と重なりますが、北欧では、キリスト教が布教される前から、1年で日照時間が最も短い冬至を「太陽が光の力を取り戻す分岐点」と考えてきました。太陽の力が、冬至を境に無事に戻ってくるようにという祈りを込めたお祭りが、北欧で『光の祭り』として成立し、その祭りがキリスト教の伝来後、「クリスマス」のお祭りに移行しました。

クリスマス関連のお祭り「ルチア祭」も聖なる光を尊ぶ祭り。

そのような背景から北欧では、クリスマスを迎える準備を丹念に整え、クリスマスの到来をしっかりと祝うことによって、次の季節も太陽の恵みを授かることができると考えられてきました。そのため、デンマークでクリスマスを迎えることは、『祝賀』以外のなにものでもありません。お祝いを表現する手段として、クリスマスを祝う色は、国旗の色でもある赤と白が基本カラーとなっているのです。

『しましま編み・クリスマス』

『しましま編み・クリスマス』は、しましま編みユニット「ヘレナ&パニラ」による赤と白を使ったクリスマス関連作品を紹介しています。

赤と白に限定したクリエイティブで2人が最も心がけたことは、伝統的ではないイメージを生み出すことでした。”赤と白というデンマークの伝統的な色の組み合わせに、伝統的ではない表情をどのように加えるか”にこだわったそうです。

それは、作品のデザインを構想する間も配慮されましたが、本の表紙となったクリスマスツリーにも、2人の意図を色濃く感じることができます。本では、クリスマスツリーの飾りを伝統的なもみの木に飾るのではなく、ペールグリーンのシンプルなオブジェをツリーに見立てたスタイリングとなっています。
作品には赤と白のクリスマスの伝統カラーを使っているため、ペールグリーンという、伝統から外れた色を加えることで、2人ならではの明るくモダンなクリスマスのイメージを表現することを試みたとのこと。少しだけ「偏った」ところに面白みが出て、個性につながるという2人の考え方が具現化されているのです。

ペールグリーンのクリスマスツリーに飾られた「しましま編み」作品群。

『しましま編み・春』

第2弾の『しましま編み・春』では、春を迎える喜びを色で表現することを中核にしています。本で紹介する作品は、テーマカラーとその配色を決めてから制作に入ったそうです。

『しましま編み・春』のカラーサンプル。


『しましま編み・春』のテーマは、北欧でキリスト教としての復活祭が浸透する前までに定着していた生命が蘇る春の喜び、誕生の喜び。その表現の一環として、誕生の象徴である「卵」も素材に使われています。

色へのこだわり

2人の色への取り組みは、コリングデザイン・スクールでの教育による色の考え方や組み合わせ方が基盤になっています。プロのデザイナーとして、色の扱いは重要な鍵だというのが2人に共通する考え方です。意匠のための基本技法としての「色」づかいを協働することで、洗練した作品が生まれたそうです。

『しましま編み・春』で紹介された作品を持つ2人。

『クリスマス』編で赤と白に限定した色づかいだったので、『春』編では、多様な色を組み合わせたいという気持ちが強かったそう。色の達人である2人の意向交換と協働作業により『しましま編み・春』では、デンマークの春をテーマにした色とその配色が決められました。
少しスモーキーな北欧トーンと2人の感性による独特な色合わせの妙が楽しめます。そして、この本で紹介されている作品には、2人の感性で解釈されたデンマークでの春の喜びが見事に反映されています。

既刊本に込められた気持ち

既刊の2冊では、デンマークにキリスト教が伝わる前から存在する二大祝祭をテーマにしましたが、実はもう1つ、2人が提案したかったことがあります。それは、簡単な技術で素敵な作品がつくれるということ。

シンプルな色の組み合わせと基礎技術だけでは、垢抜けたイメージになりにくいようですが、『しましま編み』シリーズでは、もったり感のない、エスプリが効いた美しい作品に仕上がったことに、とても満足しているとのこと。

『しましま編み・春』で紹介された作品。春色の組み合わせがとても素敵。

原語版の本のレイアウトは、2人の感性に理解が深い共通の友人であるデザイナーが担当しています。デザイン性や技術だけではなく、「ヘレナさんとパニラさんの志を感じることができる本」としての仕上がりにも満足しているそうです。

次回は、へレナさんとパニラさん、それぞれのお仕事をご紹介します。お楽しみに。

PROFILE

くらもとさちこ Sachiko Kuramoto

広島県出身。コペンハーゲン在住。 30年以上に渡るデンマークでの暮らしの中で築いた知識と経験で、デンマークで培われた豊かな文化を独自の視点で紹介する企画や執筆を中心に活動している。
誠文堂新光社「北欧料理大全」では、著者カトリーネ・クリンケンたっての依頼で翻訳・編集を担当。
https://www.kuramoto.dk/

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