STORE

vol.3 しましま編みユニット「ヘレナ&パニラ」の、いつもの仕事は?

「ヘレナ&パニラ」の2人、へリーネ・イェンセンさんとパニーレ・フィスカーさんをお訪ねし、制作の舞台裏、2人のお仕事などを伺いました。4回シリーズの第3回目は、2人の仕事をご紹介します。
photo: Jan Oster, interview & text: Sachiko Kuramoto

それぞれの活躍ステージ

共著『しましま編み』シリーズは協働プロジェクトですが、普段ヘレナさんはニット・デザイナー、パニラさんは手仕事デザイナーとして、それぞれの分野で活躍しています。作品の発表と並んで、ワークショップなどによる技術の普及に、熱心に取り組んでいます。

ヘレナさんの拠点

ヘレナさんは、デンマークで2番目に大きな街・オーフスの郊外に住んでいます。オーフスは、パニラさんのスタジオがあるコリングから約100 kmほど北上したところ、ユトランド半島東岸のほぼ中央に位置しています。産業、文化ともに活気のある街です。
ヘレナさんのお母様は、乳製品づくり、織物、染色、編み物、レザークラフトとバラエティ豊かな手仕事を何でもこなされる方でした。へレナさんは、小さい頃からお母様の側でお手伝いをして、さまざまな手仕事を身につけたそうです。

茶目っ気たっぷりのへレナさん。

「編み物を教えてもらった記憶はないけれど、小さい頃から編んでいたので、母の隣で編み方を覚えたんだと思うの」と話すへレナさんに、パニラさんが「それって、素晴らしい財産よね」と相槌を打っていました。

へリーネ・イェンセン・ニット(Helene Jensen Knit)

ヘレナさんの仕事は、独自のニットデザイン会社「へリーネ・イェンセン・ニット(Helene Jensen Knit)」での編み図開発と作品の販売が主軸です。作品紹介は、ご自身がモデルを務めています。オーフス建築大学のコンクリート壁を背景にして撮影されているそうですが、作品の柔らかい質感とコンクリートの質感の対比がお好きだそう。テキスタイルへの造詣が深い写真家が撮影を担当しています。

「へリーネ・イェンセン・ニット」では、シンプルなパターンと基礎的な技巧が独特に組み合わさった編み図を販売しています。毛糸はデンマークの高級毛糸ブランドである「イサガー」製品を使用。1カ所をつなぐだけの1枚はぎのデザインが特徴だそうです。小さな三角を編みながら、三角と三角を編みつないだ四角のモチーフを編み繋げていくことにより、独特のモチーフと風合いを生むデザインは、とても魅力的。松ぼっくりと呼ばれるモチーフも彼女の得意技です。

デンマーク機械編み協会主催の作品展には、好みの色を組み合わせた筒状の毛糸を制作し、そのオリジナル混合毛糸で編んだコートを出品しました。1.8㎏の重量を持つコートでしたが、高評だったため、その後、手編みバージョンを考案しました。
手編みバージョンでは、筒状に編まれた市販の毛糸を探し、その毛糸を指定の長さで色を変えていき、展覧会に出品したコートと同じ手法で手編みをする方法です。筒状に編まれた毛糸を使用することで、好みの嵩(かさ)を維持したまま、軽量のニット作品が仕上がりました。この作品は、編みものワークショップでも、技術習得へのリクエストの多い作品です。

作品展に出品した作品。毛糸も自ら紡いでいる。

編みものワークショップ

ヘレナさんが招へいされる編みものワークショップは、デンマーク発祥の生涯教育機関として名高く、全国に点在する「フォルケホイスコーレ」やその他の文化機関が主催しています。
編みものワークショップでは、50名くらいの参加者に、編み図を説明した後、細かい技法を説明し、課題を編むというステップを踏んでいます。平日の夕方や夜に行われるワークショップの他、週末に1泊お食事つきで行われるものなどもあります。和気あいあい、リラックスした環境での楽しい交流会は、とても好評です。

ワークショップでの人気作品。

パニラさんの拠点

パニラさんは、2人の母校「デザインスクール・コリング」が所在する街・コリング在住。昔の倉庫群が再開発された区域に素敵なアトリエを構えています。アトリエは建築家のご主人とのシェアだそうです。天井が高く、採光には天窓が用意され、自然光が柔らかく間接的に入ってくる仕組み。複合施設となっているこの区域の建物には、地元のテレビ局や、映像スタジオ、運動施設、広告代理店なども入っています。

ビーズ・マジック(Perle Magi)

パニラさんは、子どもが大好き。「子どもが持っている創造性は素晴らしいと思うわ。私はワークショップで教える側だけど、子どもの発想からインスピレーションを受けることも多いのよ」と、子どもの創造力を褒め称えます。
その子どもの創造性を応援できれば、とアイロンビーズでアクセサリーや装飾品を作るワークショップ「ビーズ・マジック」を開発。デンマークのアイロンビーズメーカーがつくる「ハマビーズ」を使って、アクセサリーや装飾品のワークショップを全国で開催しています。

アイロンビーズに取り組んでいる子ども。

ちなみに、ハマ製のアイロンビーズは、装飾やおもちゃの素材として健康に害がないと証明されています。
パニラさんのワークショップは、子どもの創作性を育むことを目的としていますが、同伴した大人が夢中になることも頻繁で、家族で楽しむイベントとしても人気があります。家でも楽しくつくれることを目的としたリーフレットも好評で、アクセサリー、チボリマジック、春、冬、などのテーマ別に用意されています。

アイロンビーズで、パニラさん独特の色使いが楽しめる。

2023年の9月には、デンマークを代表する文化施設「チボリ」で開かれた「庭と花のフェスティバル」でも、「チボリ・マジック」というコンセプトで、美しい花が溢れるチボリをテーマにしてアイロンビーズでつくるフラワー・ワークショップに招へいされました。開催中の2日間、長い行列は後を絶たず、人気を博しました。

リリアン編み

パニラさんは、まだ技術のない子どもでも20分で作れる、リリアン編みの技法を使った手編みフラワー講座を準備しています。「家にある余った毛糸を活かす手段にもなるのよ」と、サステナビリティに熱心なパニラさんの言葉が続きます。

パニラさんのリリアン編みフラワーは、色と形に強いこだわりを持つパニラさんならではの美意識が凝縮されています。

2009年、デンマーク王国元首であるマルグレーテ2世女王陛下が「デザインスクール・コリング」を訪問された際、ヘレナさんの提案で、パニラさんのリリアン編みによる花束が献上されました。パニラさんのおばあさんが自宅の庭で大切に育てていた花、デイジーと芥子(けし)の花と牡丹がモチーフとなった花束をお受け取りになった女王陛下は、手に持たれたまま、次の目的地に向かわれ、その時の様子は、大手新聞の一面にも掲載されました。

編みブーケ。
編みブーケを手にしたデンマーク王国元首のマルグレーテ2世女王陛下。

次回は、シリーズ最終回。ヘレナさんとパニラさんのライフスタイルなどをご紹介します。お楽しみに。

INFORMATION

ヘレナさんとパニラさんの活動情報

2人の活動は、下記のホームページとインスタグラムでも紹介されています。

◆ヘレナさん
HP: https://helenejensenknit.dk
Instagram: https://www.instagram.com/helenejensenknit/
※ヘレナさんの編み図は、世界中の編み物作家のポータルサイトRaverlyでも購入することができます。

◆パニラさん
HP: https://www.perlemagi.dk
Instagram: https://www.instagram.com/perlemagi/

PROFILE

くらもとさちこ Sachiko Kuramoto

広島県出身。コペンハーゲン在住。 30年以上に渡るデンマークでの暮らしの中で築いた知識と経験で、デンマークで培われた豊かな文化を独自の視点で紹介する企画や執筆を中心に活動している。
誠文堂新光社「北欧料理大全」では、著者カトリーネ・クリンケンたっての依頼で翻訳・編集を担当。
https://www.kuramoto.dk/

手芸や手仕事の奥深い魅力を共有する編集部の独自コラム。メルマガ限定でお届け。登録はこちらから。

限定情報をいち早くお届けメルマガ会員募集中!