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ぬいぐるみ作家 未来商店 池野未来さんインタビューvol.1 立ち止まった先に見えた「つくりたいもの」。

楽しい時、嬉しい時、悲しい時、つらい時。一人の時、みんなで騒いだ時、雑踏で空を見上げた時。日々、生まれては消える心の機微を伝えたくなる存在。未来商店の池野未来さんがつくるのは、そんな心に寄り添うぬいぐるみたちです。
photo:Ikeno Miku(miku shoten), Jinta Emura/interview & text: Sanae Nakata

「未来商店」の根底に流れるもの

「未来商店」はクラフトアーティスト・池野未来さんの活動名。昔のものが好きという池野さんは、名前の「未来(みく)」と、レトロな語感の「商店」という言葉を組み合わせて名付けました。その名の通り、ご自身のサイトには、ぬいぐるみだけでなく、ステッカーからアクセサリー、バッグやポーチの布小物まで幅広いアイテムが並んでいます。
未来商店のコンセプトは、「きらきら・はかなく・まばゆい」。暖かく、儚く、そして眩しい、すべてを包み込んでくれる西陽のような作品ばかりです。

「未来商店」の個展風景。

2020年に「未来商店」を立ち上げる

池野さんは奈良出身、岡山育ち。現在は仕事をしていた大阪での暮らしを経て、岡山に拠点を戻し、制作活動をしています。「未来商店」を始めたのは、ちょうどコロナ禍で生活のリズムが変化した2020年。外出もままならないなか、WebサイトとSNSを立ち上げ、作品をアップするようになります。とはいえ、すべてが手探り。作品制作だけでなく、webサイトのデザイン、撮影、コンセプトのライティング、グラフィックまで、すべてを一人で行い、池野さんならではの世界観が明確に形づくられていきます。

最初の2年間は、名前を覚えてもらえるよう、毎月イベントを開催していました。活動を続けるうちに仲間が増え、知り合いの写真家に作品を撮影してもらうなど、表現の幅も広がっていきました。ギャラリーでの作品展や大型商業施設・PARCOやラフォーレ原宿などでのポップアップストアへも積極的に参加したことで、ギャラリーのキュレーターやセレクトショップのバイヤーの目に止まる機会も増えました。

直感から生まれたぬいぐるみ

ご自身も小さい頃から好きだったぬいぐるみは、そのまま「未来商店」の人気アイテムになります。初期からつくり続けている作品「謎の生命体」は、形も大きさも様々。それもそのはず。「つくるときは頭でイメージした形を、直接、布から切り出していくんです。いびつな形も含めて魅力だと思っています」。池野さんの作品が実にのびのびして見えるのは、そんな思い切りのよさから生まれるからかもしれません。

未来商店の代表作「謎の生命体」。左は最初につくったNo.1。にぎにぎできる手のひらサイズです。その後、右のようなバリエーションが増え続けています。

素材はというと、初期はほわほわした素材を選ぶことが多かったのですが、しだいにデザインに応じてかわいいプリント地やラメやツルツルした素材なども取り入れるように。飾りについてもビーズやスパングルなどをプラスするなど、異素材の組み合わせも楽しんでいます。

すでに数えられないほどの作品を手づくりしてきた池野さん。尊敬しているアーティストは「岡本太郎」だそう。一時期は漫画家になりたかったというだけあり、イラストの腕もなかなかなもの。ひらめいたアイデアは、いつも描き留めているといい、見せてくれたのは、かわいいイラストでびっしり埋まったB5サイズのリングファイルでした。すでにストックは3冊に。インスピレーションをすぐ形にできる池野さんならではの才能は、「未来商店」を支える大きな力になっています。

がんばる日々に訪れた転機

日々の仕事と暮らし。それに加えて、「未来商店」の制作。活動が本格的になるにつれ、池野さんはものづくりの時間に追われるようになりました。駆け抜けるように1年が過ぎ、続く2年目。ギャラリーやセレクトショップでの展示・販売も増え、池野さんの作品を望んでくれる場は着実に広がっているものの、そんな日常に窮屈さを感じ出します。なぜか? 動かしている手を見つめ直したとき、池野さんは自分の作品が「つくりたいもの」から、「みんなが好きそうなもの」に変わっていることに気づきました。私がつくりたいものってなに? そんな簡単な問いに答えを出せない自分がそこにいました。

2021年7月に開催された個展「明るい平日」のビジュアル。コンセプトは「休日だけでなく、平日にも光を
という祈りを込め名付けた”明るい平日”。」から始まる。photo: 江村仁太

「毎日いろいろあるじゃないですか。楽しかったり、悲しかったり。そういう気持ちを救うことって簡単じゃないけど、未来商店のアイテムを持つことで、ちょっと嬉しくなるような心の動きを生み出せたらな」。「未来商店」としてみんなに伝えたいものはなんだったのか。静かに胸に問うた時、池野さんは一度立ち止まる決断をします。毎月続けてきたイベントは、2023年2月で一度区切りをつけ、Twitter(現X)をやめました。そして故郷の岡山に戻り、あらためて、ものづくりと向き合う暮らしをスタートしたのです。
展示会や販売は、ギャラリーやセレクトショップなどからのオファーに応じて今も続けています。「立ち止まる時間をつくったことで、自分のつくりたいものをつくるのが、結局買ってくれる人にも響くんだと気づきました」。そんな「未来商店」はまだまだ進化の途中。次なる飛躍に向けて力を蓄えているところなのです。

ぬいぐるみは心を軽くしてくれる存在

お気に入りのぬいぐるみを伺うと見せてくれたのは、イラスト、粘土、ぬいぐるみなどマルチな作家の山本麻央さんによるもの。一緒に散歩をしたり、喫茶店に行ったりしているのだそう。

犬を連れたぬいぐるみ(山本麻央さん作)。髪の毛で遊べる楽しいデザイン。

「一緒に寝たり、散歩したり、時間をともに過ごすのも思い出になるし、大事な時間ですよね」。聞けば「未来商店」の作品を購入される人は、男女を問わず、学生から、それなりに年齢を重ねた大人たちがメイン層なのだとか。「疲れた人がぬいぐるみにしか救えない心を求めて迎えることも多いなと思います。何もしゃべらないのに優しくて、心が通じ合っているみたいな気持ちになれる。心で会話する、そういう相手ってなかなかいないような気がするんです。私は誰かにそういう気持ちを与えられる存在をつくりたい」。

自分にできることを考えた時、手仕事を通したメンタルケアや児童養護施設での仕事にも興味があるのだと池野さん。人に寄り添う手づくりを目指す「未来商店」の作品からは、その真摯な想いが伝わってくる気がします。

未来商店 池野未来さんインタビューvol.2 につづく

PROFILE

未来商店(miku shoten) 池野未来

こちら西陽に照らされた未来商店です。
毎日違う気分で生きる人達に、少しでも調子良く生きるためのアイテムを提案します。

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