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ぬいぐるみ作家 そぼろさんインタビュー vol.2 動物をデフォルメすることで、人間の儚さ、哀愁を表現したい

vol.1に引き続き、そぼろさんにぬいぐるみ作家として感じた世の中の変化、そして、そぼろさん自身のぬいぐるみの作風の変化について、アトリエを訪問してお話を伺いました。
photo: Kimiko Kaburaki, interview & text: Tomoki Nakamura

そぼろさんインタビューvol.1はこちら

編集部

そぼろさんの活動の1つに、ぬいぐるみを通じて、そぼろさんの世界観を伝えていくこと、とありましたが、そぼろさんの世界観について教えてもらえますか? 

そぼろ

vol.1でお伝えしたとおり、世の中の当たり前や権威に対して、ふざけてみたり、反抗することでしょうか。たとえば私は大学で絵の技術を磨きました。だから当然のように「絵の技術を酷使します」とするのではなく、逆に「私は技術ではない違う視点から進むよ」と。そこはかなり冷静です。ぬいぐるみづくりは、表情が一番わかりやすいですが、しょぼしょぼした表情、ああいう表情が作りたかったんです。 vol.1のぶきっちょさんの話と重なりますが、「技術はいらない」と言いたいです。「技術が一番大事」と言いたくない。むしろもっと広い視野でみて、日常がどうやって成り立っているのか、社会がどう回っているのか、人間の営みがどう変わってきているのかに興味があります。それがあってこそのものづくりだと思うんです。 ものづくりは、技術がなくても誰でも楽しんでできるものだと思います。客観的に見ると、技術は上下関係というか、格差を生み出しやすい気がしています。技術を身につけることでできることは増えるけれど、技術を持つことでできなくなることもあるんです。

いつも定位置に飾られているぬいぐるみたち。左はそぼろさん作のてなもんやくん。
デスクの壁には、描いた絵やアイデアソースとなるものがたくさん飾られていた。

編集部

「技術が大事ではない」という部分は、手芸業界でも通ずる話かもしれません。

そぼろ

手芸って、昔はもっと身近にあった存在だと思います。お母さんやお婆ちゃんが家でちくちく何かを作って子供に着せたり、お人形に着せたり。本当は生活と切り離せない部分があったんです。でも時代が変わり、ものの値段が安くなり、手芸がいったん生活から遠のいていく。今は逆にお繕いとか、ていねいな生活とか、流行という部分で手芸が出てきている。本当はもう少し人間の日常とか社会の構造とかと切り離せないものだったのではないか、と思います。 なぜ手芸をするのか? という目的も変わってきていますよね。自分の生きづらい日常から、むしろ少し切り離すための時間として手芸をしている人が増えていると思います。そういう変化、流れが漠然とあって、そうせざるを得ない状況になっているという現状にも、疑問も感じています。そういう意味では、自分が作ったぬいぐるみが、どのようにお迎え主さま(お客さま)の役に立っているのか知りたいです。

編集部

手芸の価値が変化してきている。それはミグラテールでも追及していきたいテーマです。そぼろさんのぬいぐるみが、どのようにお迎え主さまに受け取られているか。これはその解答の1つになりそうです。

そぼろ

でも、私のぬいぐるみたちの何が人を惹きつけているのか。私としては答えが出てこないんです。作りたいものを作って、お迎え主さまに迎えてもらい、あとはお迎え主さまの生活の中にゆだねたい気持ちでいっぱいです。また、購入されたお迎え主さまから、贈られた子たちの暮らしぶりの情報をいただくこともあって、その時にお迎え主さまの素の部分が見えることがあります。ちょっとゆがんだ悲しそう、かわいそうな表情と、かわいらしさを含んだぬいぐるみという存在が、お迎え主さまの素の部分を引き出しているのかな、共感してくれているのかな、と考えてみたりします。

新しいぬいぐるみを作る時の参考用に、かごにはたくさんのサンプルのぬいぐるみが入っていた。

編集部

ちなみに、そぼろさんの作品には動物モチーフが多いですが、これには何か理由があるのですか?

そぼろ

確かにそうですね。初めて聞かれました。 個人的には、今の社会は、温暖化とか、資本主義が行きつくところまで行っている感があるので、人間はいったん滅ぶ必要があるのではないかとさえ思うことがあります。一方で私は人間自体に実はとても興味があります。コアラにしてもクマにしても、動物には万人が思い描くリアルな特徴がありますが、その完成された姿を崩し、デフォルメすることで、人間のほうに近づけているというか、人間の儚さや哀愁を表現しているのだろうと。 皆さんの「この動物はこういうものだろう」という認識や期待を外しているとも言えます。リアルなフォルムからちょっと外れていることで、結局揶揄している、ふざけているからこそ認識しやすいし、ふと立ち止まって素に戻る時間をも作り出しているような気がしています。

そぼろさんにお話を伺っていると、時間がいくらあっても足りない。そんな興味深いお話の連続でした。

これからの展望について尋ねると、「ぬいぐるみの作家さん同士もいろいろなタイプがいるはずだから、作家同士で対話をしてみたい」との返答が。他の作家さんがどのようにぬいぐるみづくりをしているのか、共感してくれる人はいるのか。ぬいぐるみに限らず、対話する場所をミグラテールでも今後作りたいと思わずにはいられませんでした。

話はがらりと変わりますが、そぼろさんの興味という部分で、他ジャンルでもいいので、お好きな画家や作家とかいらっしゃいますか?と聞いてみました。
「巨匠ですが、ボナールは好きですね。作家だと山崎ナオコーラさん。常に権威に反抗される姿に共感しています。あとサマセット・モームやトーベ・ヤンソンも好きです。ヤンソンの『誠実な詐欺師』はご存じですか? ひとつひとつの言葉の使い方、考え方の冷めた感じがすごく共感できるんです」。
ヤンソンといえばすぐに「ムーミン」が思い浮かびますが、そぼろさんがムーミン好きになるのは、この本のずっと後の話なんだそう。『誠実な詐欺師』、ぜひ読んでみたい1冊ですよね。

東京に来た2016年に迎え入れたマレーグマのベンヤミン。
夫に相談して初めて迎え入れた思い出の子。今でも一番そばにおいてる時間が長い。

PROFILE

そぼろ SOBORO

1983年生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業、同大学院修了。
大学を出てしばらくして「そぼろ」としての活動を開始し、2014年に著書『そぼろのおとぼけぬいぐるみ』(誠文堂新光社刊)を出版。その後少し休業し、2017年頃に現在のスタイルのぬいぐるみを展開し始め現在に至る。
作品をお迎えくださる方には、単にその「ぬいぐるみ」だけをお持ちいただくのではなく、その「ぬいぐるみ」を取り巻く世界観すべてを感じていただきたいという想いで活動中。
現在は主にSNSやweb上で、「お迎え会」という販売会を実施中している。

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