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ぬいぐるみ作家aska.さんインタビュー vol.2 世の中はおもしろいもので溢れている。

vol.1ではちいさなぬいぐるみの誕生秘話を話してくれたaska.さん。ぬいぐるみだけでなく、郷土玩具やホラーが大好きだといいます。オリジナリティのある自由な“らくぬい”シリーズを生んだaska.さんの脳内にもう少し迫ります。
photo: Taku Kato(QTV), interview & text: Hinako Ishioka

ぬいぐるみんげいシリーズって?

aska.さんは郷土玩具や民芸品が大好き。世界中の民族の文化や道具が大量に展示されている民博(国立民族学博物館@大阪万博記念公園)は、1日中こもると出てこないほどの、aska.さんのパワースポットだといいます。aska.さんは、自身のぬいぐるみづくりにおいても郷土玩具のモチーフを取り入れた「ぬいぐるみんげい」シリーズを制作しています。

民芸や郷土玩具好きは、幼少期までさかのぼります。蒐集家だったおばあさんの家の庭には、日本各地の郷土玩具やお土産キーホルダー、民芸品を並べて保管するための小さな蔵がありました。学校帰りに蔵に寄っては、赤盤のレコードを流してぼーっとするのがルーティーン。「自分の家にはあと50メートルで帰れるのに、おばあちゃんちに寄ってお菓子をもらい、その部屋で小さい郷土玩具を見るのが好きでした」。今ではaska.さんも蒐集家のひとりです。骨董市や蚤の市を訪れ、古いものがどっさり入ったかごの底まで探っては、小さいものを集めているそうです。「現代まであの形で残っていることが奇跡やな、と思うんです。ずっと長いこと愛されているものづくりに対して、憧れがあって。私も何年経っても大事にされるものをつくりたいなって思います」。

蒐集家の祖母の家からひとつだけ持ち帰った、たぬきのキーホルダー。目が飛び出ます。

ホラーにUMA、UFO、妖怪…

木型職人の父と、カメラが好きな母、書道が趣味の妹に囲まれて、「つくる」環境が身近にあったaska.さんは、昔から絵を描くのが好きでした。高校時代には、ホラー漫画家の伊藤潤二さんにはまり、今でも大ファンでいるそうです。「やっぱり絵を描いている人を尊敬しています。1枚の絵で人を引き付けるのは私にはできないので。ストーリー展開、描写、人情とか、やっぱり狂っているあの感じが、すごい」。ホラーが好きで、映画を見ながらぬいぐるみ制作をすることもしばしば。さらにUMA(未確認生物)、UFO、妖怪も大好き。昔から人々の間で言い伝えられているような、想像上の生物が気になるそうです。「日本古来の妖怪って昔から形が変わらないじゃないですか。病気とかもすぐ妖怪のせいにするし。生活に溶け込む異物感、だけど人々にとって当たり前に存在している違和感が好きなんだと思います」。妖怪、郷土玩具、民芸品、そしてぬいぐるみは、人々の慣習や日常生活で、人から人へ伝えられてきました。きっとそれぞれに通じる要素がある気がします。

あらゆるものの「形」が愛おしい

「変わらないものが好き」という一面は、ぬいぐるみづくりにも繋がっています。aska.さんは、日常に存在するあらゆる「もの」をぬいぐるみにします。たばこ、ばんそうこう、スーパーファミコン、おでん、やかん、カレーライス…。「世の中のプロダクトにもリスペクトがあるんです。鉛筆1本とか、傘とか、昔から形状が変わらないじゃないですか。ひとつの“もの”に個性を感じてしまう。すべての形が愛しく感じるというか、なんでこの形なんだろうって考えてしまうんです」。世の中に当たり前に存在する「もの」、ひとつひとつを、やわらかい小さなぬいぐるみに変換して、可愛く生み出してしまいます。

カレーライスちゃんはプライズ品に展開されガシャポンやマスコットキーホルダーとなった。

正解のない、ぬいぐるみづくり

「自分は自分のぬいぐるみの一番のファンであると思っています。初めは誰のためでもなく、自分の好きを具現化するために始めました」。aska.さんはそれを自己満足、と話しますが、決してそれだけにとどまりません。つくって発信を続けていくなかで、徐々にファンが増えていきました。最近は男性のファンも少なくありません。個展を開くと、年齢も性別もさまざまな人がaska.さんのぬいぐるみを求めてやってきます。「あるお客さんが、“辛いことがあった時、私のぬいぐるみが支えてくれた”って言ってくださって、それだけでやってて良かったなって思ったんですよ。自分のために始めたことやけど、人のためになっているってすごい幸せなこと」と話してくれました。

「ぬいぐるみは、身近にいてあたりまえの存在だけど、いびつな感じが好きです。形もフォルムも、正解がないところが魅力」。いい加減でも許してくれる、自由なぬいぐるみづくりとの出会い。「ぬいぐるみは個々に生きていて、性格があると思っています」。ぬいぐるみをつくる時、顔の配置やネーミングは、ぬいぐるみ自身に聞いてみるスタイル。「あんたの目はここなん?」「君はこういう名前かな?」と、アイデアは考えるのではなくぬいぐるみに聞いてみます。aska.さんのお話を伺っていると、ぬいぐるみのことを純粋に“好き”な気持ちが伝わってきます。とことん「好き」と思えるもの、そしてその「好き」から生まれたちいさなぬいぐるみが広げた人との出会いが、ぬいぐるみ作家としてのaska.さんを前に進めていきます。

EVENT INFORMATION

aska.さんの展示会スケジュール

●Puga Parlor「くま展」︎
日程:2023年10月21日(土)、22日(日)︎
時間:12:00 – 18:00
場所:シャトーダベイユ(靭公園側) 〒550-0004 大阪府大阪市西区靭本町1-13-13 カワコシビル 1階

●ぬいぐるみドリーム!2023︎
日程:2023年10月22日(日)〜29日(日)︎
時間:11:00-21:00(最終日11:00-18:00)︎
場所:NU茶屋町4階スタンドパーク 〒530-0013大阪市北区茶屋町10-12

●犬犬犬展(わんわんわんてん)︎
日程:2023年10月25日(水)~11月6日(月)
時間:月-土 8:00-22:00︎/日 8:00-21:00(最終日 19:00でクローズ)︎
場所:VINYL TOKYO 〒100-0005 東京都千代田区丸の内1丁目9−1 JR東日本東京駅構内1F グランスタ東京

PROFILE

aska.

高知県生まれ。”ヌノにイノチをあげたい。”をテーマに「tick ’n’ tack」という屋号で活動。
何気に描いていたラクガキを立体にできないかと思い、2009年より独学でぬいぐるみの制作をはじめる。
あえて型紙を作らず一期一会を大切にひとつひとつ手縫いで制作。思わずふっと笑みがこぼれるすきっ歯でどこかニクめない雰囲気のてのひらにおさまるちいさなぬいぐるみが特徴。
ハウツー本出版、カプセルトイとして商品化、メディア取材など多数。

HP: https://tickntack.theshop.jp/

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