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ポーランドの手仕事(その1) コニャクフ村の手編みレース

ほっこり可愛いポーランドのクラフトアート。ドット柄のボレスワヴィエツ陶器をはじめ、花柄ペイントの小道具や色鮮やかな民族衣装など、ポーランドには多くの伝統手工芸品が根付いています。どんな町に行ってもその土地独自の手仕事があり、不思議と現代の暮らしにもうまく溶け込んでいるもの素敵です。そんな手仕事をひとつずつ、ご紹介します。第1回目はポーランド南部の山岳地方、コニャクフ村の希少な手編みレースです。
Text,photo: Sachiko Suzuki / Special Thanks: Polish National Tourist Office in Tokyo
故エリザベス女王やローマ法王ヨハネパウロ2世にも献上されたコニャクフレース。

手編みレースは女性の永遠の憧れ

シンプルな白Tシャツにレース刺繍のスカラップ襟をつけてみると、それだけで乙女の気分になってしまうから不思議です。手編みのレースアイテムは、世界中の女性にとっての永遠の憧れの存在。そして今、レースファンから注目されているのが、南ポーランドの山岳地帯で生まれる手編みの「コニャクフレース」です。
今年の夏、幸運にもコニャクフ村(Koniaków)を訪ねるチャンスに恵まれました。ポーランドのコニャクフ村を旅する前に友人の手芸ライターにこのレースについて尋ねてみたところ、「日本にも世界にもほとんど資料がないのですよ。行くならしっかりと見てきて教えてください」との返事が。

コニャクフ村は、ポーランド南部、チェコとスロヴァキアの国境に近い標高700mのベスキディ山脈に位置しています。ポーランド南部の人気観光都市クラクフからは車で約3時間の距離です。村の人口は約2500人。人々はおもに牧羊や木造住宅の建設、彫刻に携わり、女性はこの伝統レース編みで生計を立てているそうです。
まずは2018年にオープンした「コニャクフレースセンター」を訪れました。

コニャクフレースが生まれた歴史とその魅力

センターの創立に関わったルツィナ・リゴツカ=コフトさんが、村の伝統レースについて詳しく話してくださいました。
「コニャクフレースは世界でただひとつ、コニャクフ村だけで作られる手編みレースです。図式化したパターンもデータも一切ありません。すべては暮らしの中で、祖母から母、母から子へと伝えていくものだからです」
約200年前、コニャクフ村の女性たちは結婚すると「コイフ」というヘッドレースを被る習慣があり、ある時コイフを自分たちで作ってみようと、1889年にズザンナ・バワフという女性が初めて飾りレースのコイフを作ったのがコニャクフレースの始まりといわれています。村では、子どもは6歳くらいになると、お祖母ちゃんやお母さんと一緒にレース作りを覚えていくそうです。

19世紀後半の村の人々の古い写真も展示されている。

「昔、ポーランドにはツェペリアという国営商店がありました。村のマリア・バレックという女性が、ツェペリアと契約をしてコニャクフレースを納品することになりました。多い時は1カ月に約20kgも。ポーランド国内の観光地にはツェペリアがあり、そこでこのコニャクフレースが人気となったのです」とルツィナさん。

コニャクフレースは花、葉、フルーツ、鳥といった土地の自然のすべてがモチーフとなります。それぞれのパーツを細かく作り、それを連続して繋げていき、左右・上下対称に編むのがが特徴。シンプルなパターンを繋いだだけの他国レースとは違い、豊かなデザイン性が特徴です。
コニャクフレースが人気となると、コイフのみならず、テーブルクロスやインテリアに添える装飾品、花瓶敷きやカップのコースター、スカラップ襟やファッション小物、ドレスなど、アイテムが増えていきました。各家庭で作る人それぞれのデザインがあるので、パターン数は数えきれないほどあるといいます。

極細の綿糸で編む針レース。現在は、100%綿糸の60、80、100、150、200番が使われています。番号が大きいほど糸は細くなります。約140年前は50番糸が使用されていて、それがいちばん細い糸だったそうですが、現在は60番糸はもっとも太い糸となっています。200番の極細の綿糸を使ってストールをつくり、ま丸めても、指輪の穴をスルリと通り抜けるほどの繊細な細さなのだそうです。

2000年代はレース下着が大ヒット

2000年代に入り経済的にも豊かになっていくと、コニャクフのある若者がレース編みのTバッグ下着を作り、それがインターネットで広がり話題となりました。レース下着は売れる、ということで、このようなオシャレなセット下着も生まれました。

水着にも応用できそうな美しいレース下着。

しかしながら、コニャクフレースでネット検索をすると、下着しか出てこない。そのような状況に困惑した村の人々は、130年以上の歴史をもつ伝統のレースをもっときちんとPRしたいと考え、ルツィナさんがこのレースセンターの設立をプランするに至りました。

「このセンターの設立と同時にコニャクフ財団という寄付制度をつくって、コニャクフ村の女性たちが編み物で生計を立てられるように、世界的なPR活動やオンライン販売のプロモーションも積極的に行っています」と話すルツィナさん。彼女が取材時に身に付けていたニットベストとレース編みのイヤリングに釘付けでした。

レースの発展が村おこし、脳トレにも役立つ

このセンターができてから村に変化が起きたそう。コニャクフのレースが売れるとわかると、それまで不足していた30~45歳頃の女性の職人が増えはじめ、その子どもたちがまたセンター内のワークショップに通うようになったということ。ポーランドの子供たちは元気いっぱいでダイナミックに騒ぐそう。ここのレッスンを受けることで、静かに集中して物事に取り組むという訓練になっているといいます。レース需要が高まったおかげで、仕事も増え、村に活気が生まれたました。

ショップでの買物は時間に余裕をもって

コニャクフレースセンターにはショップが併設されています。現在は約700名の村人がレースを家で作り、ここに持ってきて自分で値段を付けて売る直売所となっているのです。オンラインや他の土産店でも買えますが、ここほど豊富にコニャクフレースを揃えているところはありません。

希少なコニャクフレースをリーズナブルに購入できる絶好のチャンス!

こちらはセンター内に入ってすぐの場所にあるレースショップ。ナプキンやテーブルクロス、ストール、手袋、ジュエリー、クリスマスのオーナメント、ドリームキャッチャーなどたくさんの種類のレースが売られています。ひとつずつ飾って売っているわけではなく、たとえばテーブルクロスやコースターがランダムに積み重ねて置いてあり、好きなものを探すのもひと苦労。しかし、たくさんのレースの中からお気に入りを見つけた時の感動はひとしおです。

レースに包んだガラス玉は他国ではあまり見たことがない。

こちらはポーリッシュバブルという、ポーランド独自のクリスマスのオーナメント。あれもこれもと、目移りしそうですが、その中に、なんともユーモアたっぷり、Tバックよろしく殿方の下着も発見!

購入した黒のスカラップ襟のレース。家に持ち帰るとまたうんと美しく見えるから不思議。

今回は現地の交通事情もあって、わずか1時間ほどしかいられなかったコニャクフ。センターではレース編みレッスン(ワークショップ)が受けられるそうなので、次回はこの村に数泊して、コニャクフレースの編み方を体得したいと思っています。レッスン料金は2時間で30~50ポーランドズロチ(1020~1700円)とお安めです!

取材協力/ポーランド政府観光局

INFORMATION

コニャクフレースセンター Centrum Koronki Koniakowskiej

住所 Koniaków 704, 43-474 Koniaków

営業時間 9:00~17:00(土・日曜10:00~18:00)

HP https://centrumkoronkikoniakowskiej.pl/

>>ポーランドの手仕事(その2)クラクフで見つけた地方の素敵なレースや刺繍

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INFORMATION

鈴木幸子 Sachiko Suzuki

世界を旅するトラベルジャーナリスト&エディター。人が好き、取材も大好き! 出版社勤務や地球の歩き方編集を経て、2004年に制作会社らきカンパニー設立。年間7~8回は海外取材へ出向き、70か国以上の国を頻繁に取材しています。※2010年から時々、まちづくりにも関わっています。

通信社、雑誌、クルーズ業界誌、機内誌、ムック本、書籍、オンラインを含め、各メディアで活動中。JTBるるぶ『アンコールワットとカンボジア』初版制作。著書は『もち歩きイラスト会話集タイ/池田書店』、『みやざきの自然災害』ほか。会社名の「らき」はギリシャ・クレタ島の地酒の名前です。

※2023年春より、時事通信こどもニュース「あなたの旅、わたしの旅」連載中。

趣味は海外旅行。世界の路地&市場巡り。長唄三味線、川柳句会に参加すること。出身:宮崎県宮崎市木花

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