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vol.10 ポーランドの伝統的な吹きガラスのクリスマスオーナメント「ボンプキ」の魅力

世界でたったひとつのクリスマスオーナメント「ボンプキ」。ポーランドではツリーに飾るガラス玉のことをボンプキと呼びます。第二次大戦前から独自の意匠を施したボンプキが作られていますが、そのすばらしさに気が付いたのが昨年のクリスマス時期。まさにアートオブジェの粋でした。2023年の10月下旬に、ポーランドのワルシャワにあるボンプキ専門店のオーナー兼デザイナーにお話を聞く機会がありました。ポーランドのボンプキの魅力を紹介します。
Text,photo: Sachiko Suzuki / Special Thanks: Polish National Tourist Office in Tokyo
ワルシャワ旧市街に立つクリスマスツリー。

ハンドメイドのボンプキ、さまざまなデコレーション

街にジングルベルが鳴り響くこの季節、クリスマスツリーを飾り終えたという方も多いでしょう。
ヨーロッパでは毎年11月の終わり頃になると、聖誕祭(12月25日)に向けてツリーを飾り始め、クリスマスツリーの新しいオーナメントも買い求め始めます。
ここ数年の間に欧州5カ国でさまざまなクリスマスマーケットを訪ねた中で、実にオリジナルなガラス玉をポーランドで見つけました。

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ポーリシュバブルと呼ばれるガラス玉は、ポーランド語で「ボンプキ」といいます。2022年の12月初め、ワルシャワの最高級ホテル、ポロニアパレスのロビーのクリスマスツリーを見て釘付けになりました。通常、ツリーには色鮮やかな何種類ものオーナメントが飾られますが、ここのツリーは独特の模様が施された真っ白なボンプキのみでした。初めて見る清楚なクリスマスツリー、そして可憐なボンプキの美しさに魅了されてしまいました。

ポロニアパレスのクリスマスツリー。

クリスマスを迎える前のワルシャワのレストランでは、ボンプキをクリスマスツリーのみならず、さまざまなアレンジでテーブル飾りにしたり、シャンデリアとともに美しく飾りします。
高級レストランでは、天井から吊るすタイプのボンプキも。ポーランド人は、クリスマスツリーのオーナメントを毎年追加して買い、友人へのプレゼントとして送る習慣もあるといいます。

ウォヴィチといえば、ウォヴィチのウォヴィチ博物館(Muzeum w Łowiczu)には、農村でクリスマスや復活祭に飾っていた「パヨンク」が展示されています。このスタイルは、神様の木「ポドワジニチカ」(針葉樹の木で、農村ではクリスマスや復活祭りの祭日に天井から下げる習慣があった)がルーツと言われています。

カラフルな装飾品、パヨンク。外が暗い日が多い冬でも気持ちが明るくなる。

まるでガラスの宝石のよう。専門店で出会った最高級のボンプキ

ボンプキの美しさに魅了され、今年10月に科学文化宮殿近くにあるボンプキ専門店「ボンプカルニャ」を訪れました。
こちらは、ポーランド国内で作られるボンプキを1年中販売している専門店。国内の観光客はもちろん、フランス、イタリア、スペイン、オーストラリアといった国々から買い付けにやってくる人がいるほど人気の店です。

店主兼デザイナーであるマウゴジャタ・チーシェフスカさんがデザインするボンプキは、アート作品のよう。
手工芸の町、ウォヴィチの切り絵模様やスカート、ブラウス、ベストの意匠、カシューブ地方のシンプルな刺繍、山岳地帯ザコパネ地方の衣類の模様、陶器の町オポーレの模様といった、ポーランドの伝統的なモチーフをヒントに、美しいデザインのボンプキを生み出しています。
マウゴジャタさんがどのようにこのお店を経営するようになり、デザイナーになられたのか伺いました。

ウォヴィチの伝統装束。
人形型のボンプキも人気。衣装の美しさと色付けのていねいさ、人形の豊かな表情は必見。
観賞用のボンプキは専用のフックが売られている。

「母が民俗学者で、もとはポーランドの民俗文化を保護・宣伝する国営団体「ツェペリア」という商店でアートギャラリーを営んでいました。その頃私は10歳。1991年に国の体制が変わった後(※)、社会主義時代のツェペリアはなくなり、母がこの店ごと購入することになりました。
私は大学を卒業した後、自分が憧れたポーランドにしかない世界で唯一のボンプキを作ってみました。そして、このような手づくりのボンプキ店を経営するのが自分の夢となり、今にいたっています。ボンプキの専門店は2006年にスタートしました」。

※ポーランドは1989年9月に非共産党政権が誕生し、ポーランド人民共和国からポーランド共和国となる。以降、経済自由化政策がとられ1999年にNATO加盟。2004年にEUに加盟している。

ボンプカルニャのエントランス。

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宝石のようなハンドメイド、ボンプキの作り方

これらのハンドメイドのボンプキのデザインは、何をモチーフに、どこからヒントを得ているのでしょうか。マウゴジャタさんに伺いました。

デザインは何からインスピレーションを得ていますか?

マウゴジャタさん

母が持っている資料もありますが、私がいろんな資料を研究して17~19世紀のポーランドの伝統的意匠を探しました。 アイデアの源は旅ですね。ポーランド中を旅行して、教会や美術館の絵画、さまざまな展示会、また書店で美術書などの資料を探して参考にしています。17世紀の神父の装束からインスピレーションを得たこともあるんですよ。

このボンプキはどこで作られているのでしょうか?

マウゴジャタさん

今お願いしているのは、南部の町クラクフの周辺にある4つの工房。私がデザインをして、工房のアーティストたちに発注しています。ガラス作り、模様付けともに同じ工房で行っています。ガラスは吹きガラスで作りますが、伝統的な作り方は、透明のガラス玉を作った後、内側に硝酸銀を入れて裏側を銀色にします。こうすることで表面の着色がより際立ちます。

アーティストたちは、どのように緻密な模様の色付けをしているのですか?

マウゴジャタさん

例えば、同じ模様のボンプキを5個つくる場合、一度に5個の色付けをしていきます。 ガラス玉5個並べ、1つのパーツの色付けを5個同時に行い、その部分が終わったら、次のパーツの色付けを同じく5個同時に行います。つまり、集中力を切らさないため、ひとつずつではなく5個同時に完成させていくのです。 一番大変なのは、刺繍と同じ雰囲気を再現するよう糸のような質感を出すこと。この質感を出すのに数日かかることもあります。また、ガラスが平らではなくて丸いので、デザイン画の描き込みや、模様のデザイン、完成までの設計も難しい作業です。

官僚御用達! セレブのお土産としても人気のボンプキ

ボンプキは、毎年新しいデザインが登場します。こちらは2023年の最新作、山岳リゾート地ザコパネの男性ズボンの模様をモチーフとしてアレンジされたもの。

毎年新作のボンプキが登場する。

「ボンプカルニャ」のボンプキは、安いものは70ズロチ前後から。もっとも高いもので850ズロチほど(メロディーが鳴る)。
大使館や官僚の方からも海外へのお土産として人気が高いそうですが、なんとポーランドの元大統領、レフ・カチンスキがアメリカを訪問した際、オバマ大統領にプレゼントしたこともあるのだとか。また、ポーランド大使はスペイン王にも送ったことがあるそうです。

日本でも公演をしてファンの多い、国立マゾフシェ舞踊団のためのお土産制作もしているそう。毎年、マゾフシェ舞踊団はポーランド大統領の前で公演を披露します。公演が終わった後に観客にプレゼントする「舞踊団ロゴ入りボンプキ」はここで作られているそうです。

マゾフシェ舞踊団のボンプキ。

ショップの場所は文化科学宮殿(Pałac Kultury i Nauki)の近く。観光の後に立ち寄ってみませんか?

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INFORMATION

ボンプカルニャ(Bombkarnia)

住所:Emilii Plater 47, 00-118 Warszawa, Poland
電話:+48 2262 01666
営業:11~19時(土曜~14時)
休み:日曜

https://bombkarnia.pl/

PROFILE

鈴木幸子 Sachiko Suzuki

世界を旅するトラベルジャーナリスト&エディター。宮崎県宮崎市木花出身。
人が好き、取材も大好き。出版社勤務や地球の歩き方編集を経て、2004年に制作会社らきカンパニー設立。年間7~8回は海外取材へ出向き、70か国以上の国を頻繁に取材している。2010年から時々、まちづくりにも関わっている。
通信社、雑誌、クルーズ業界誌、機内誌、ムック本、書籍、オンラインを含め、各メディアで執筆中。JTBるるぶ『アンコールワットとカンボジア』初版制作。著書に『もち歩きイラスト会話集タイ/池田書店』、『みやざきの自然災害』などがある。
2023年春より、時事通信こどもニュース「あなたの旅、わたしの旅」連載中。
趣味は海外旅行。世界の路地&市場巡り。長唄三味線、川柳句会に参加すること。会社名の「らき」はギリシャ・クレタ島の地酒の名前。

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