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伝統と文化を繋ぐ 南郷刺し子会のこれから(後編)

南郷刺し子の復活と文化や技術の継承を目的として活動を開始した南郷刺し子会。2023年に行われた3回目の企画展には県内外から多くの人が来場しました。一度途絶えた歴史が動き出した今、南郷刺し子という文化を次の世代へどのように伝え繋いでいくか。さまざまな課題がありつつも、無理のない自分たちなりのペースで、楽しみながらその役割を担っています。
photo: Takashi Sakamoto / Text: Hikaru Furuike / Special Thanks: Nango-sashiko kai (Junko Baba)

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南郷刺し子会の活動

南郷刺し子会は、年に1~2着ほど新しい刺し子絆纏ができ上がり、地域の文化祭などで展示発表をしています。コロナ禍をはさみ3年ぶりの開催となった2023年6月の展示「第3回 南郷刺し子絆纏企画展」では、南郷刺し子会会員が作成した刺し子絆纏を約25作品展示しました。
「展示を見た方の中には、胸がいっぱいになって涙をして帰られる方もいました。作った当人としては、上手とか下手とかここがおかしいとか、気になる部分はいろいろあるのですが、それでも一生懸命作ったという部分を読み取ってもらっていると思うと感慨深くて。作品を見てくれる人、活動を応援してくれる人がいるのはとてもありがたいですね」

南郷刺し子会員の袢纏作品

当時の材料と技法で伝統文化を継承する

一度途切れた南郷刺し子の文化を復活させ、残していかないといけない。今残さないと今後世に出てくることはないかもしれない。南郷刺し子会は使命感と危機感から生まれたといっても過言ではありません。馬場さんは続けます。
「私たち南郷刺し子会が作る絆纏は、昔から伝わる古典的な作り方を守っています。新たな刺繍の模様を刺すのではなく、古くから伝わる伝統模様を刺すようにしています。藍染の木綿に白い木綿の糸で刺すことも守り、色糸は使いません。昔の人の想いを次の世代へ繋ぎ伝えることを活動の主旨としているので、昔のままの作り方を守っているんです。私たちは特別な道具を使うわけでもないし、特別な技術があるわけでもない。使うのは手と針と糸だけ、そして伝統文化を次へ繋げていきたいという一心で活動をしています。だから絆纏の販売もしません。思いが強すぎて売れるものではないですしね。私たちにできることには限りがありますので、自分たちができない部分に光を当ててもらい、正しい情報の中でこの伝統が伝わっていくことを願っています」

かつての手法と同様に藍染の綿地に白い木綿の糸で刺す技法で作成している。

かつての南郷刺し子の行方

民藝運動が起こった当時、南郷周辺に住んでいた人たちは「刺し子絆纏を売ってほしい」という地域外から来た人々に、家の中にあった刺し子絆纏のほとんどを売ってしまったといいます。絆纏の価値がわからず、持っていても場所をとるだけ、ならば売ってしまった方がいいと考え、手放してしまった人が多くいるため、この地域には古い刺し子絆纏が残っておらず、売られた絆纏が今どこにあるかもわかっていないといいます。
それでも全国各所で刺し子絆纏の目撃情報があり、例えば南郷刺し子の記載がないまでも他県の博物館に展示されているのが確認されていたりします(おそらく南郷刺し子だと言われています)。南郷刺し子会では、全国に散らばっていると思われる古い南郷刺し子を探す活動も行っています。 「全国の博物館や美術館、民芸館で南郷刺し子とわからないまま展示されていたり、個人の方が所蔵していることもあるんです。私たちが確認できているのはほんの数か所。どのような経緯でその場所までたどり着いたかなど、調べていきたいことがたくさんあります。地元では古い刺し子絆纏を見つけることはできないので、これからも全国の南郷刺し子を探していきたいです」。

展示会が始まる直前に見つかった角袖の刺し子袢纏。100年以上前に作られたと思われるが、色褪せていない美しい藍色から大切に保管されたことがわかる。

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INFORMATION

南郷刺し子会

南会津地域の有志により2010年に結成。南郷刺し子の保存、継承、普及を目的として作品の制作や展示、ワークショップを行っている。

*刺し子がされた絆纏の情報を募集しております。見かけた方、お持ちの方がいらっしゃいましたら、南郷刺し子会のFacebookまでお知らせいただけるとありがたいです。

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