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現地で聞いた「ラトビアのミトン」の話

ミグラテールを読んでくださっている手芸や手仕事好きの人にとっては、手編みのミトンといえばラトビア!と思い浮かぶ方も少なくないはず。現地の方に直接伺ったミトンの話をお届けします。
photo: Migrateur editor team & Hinako Ishioka, text: Hinako Ishioka

ラトビアのミトンは、日本ではヨーロッパの民芸品店で取り扱いがあったり、近年では『ラトビアのミトン200』(LIEPA著/誠文堂新光社刊/2022年)、『旅から生まれた わたしのミトン』(塩田素直著/文化出版局刊/2021年)など、複数の本が出版されていたりと、手芸や民芸品好きにとってはよく知られている手仕事品のひとつ。

伝統的なパターンをカラフルな糸で編み込んだラトビアのミトンは、編み目がぎゅっと詰まっていて、手仕事の技術に関心する人もいれば、ただただその可愛さに心が躍る人もいるでしょう。

今回の取材で編集部は、ラトビアの伝統的なミトンが保存されている「ラトビア民族野外博物館」と「ルツァワ伝承館」で、現地住民の女性にミトンについてのお話を伺うことができました。

ラトビアのミトンの歴史

まず、ラトビアのミトンは見た通り“手袋”ですが、防寒のためだけに使われてきたわけではありません。ラトビアでは古来よりラトビア神道に基づいたさまざまな祝祭や儀式が開かれてきました。それらの祝祭や、冠婚葬祭などの儀式において、ミトンは重要な民族衣装の一部として着用されてきた歴史があります。
かつて若い女性は、嫁入り道具として生活に必要な布用品が詰まった木箱を準備する必要があり、その中にミトンも含まれていました。

これから妻になる人は、“働き者”がよしとされるラトビアの民族性から、その裁縫の腕で自分の器用さや家事の腕前をアピールする必要があったそうです(ラトビア人は歌の民と呼ばれるほど歌が好きで、たくさんの民謡が受け継がれていて、その中には怠け者をあざ笑い、勤勉な人を讃える歌まであるとのこと)。
嫁入り道具の布用品のひとつであったミトンは、人生の通過儀礼の用途別に準備する必要がありました。例えばお葬式の時には、棺桶を担ぐ人用のもの、墓穴を掘る人用のもの、喪主用のもの、とそれぞれの役割ごとに使い分けられたそうです。

黒い糸を使ったものは伝統的にはお葬式用だった。

現代においては、一部の神道関係者が今も古来の用途でミトンを使っている一方で、一般的にはラトビアのお土産として、またここ10年ではファッションのアクセントとして使う人が増えているそうです。

こだわりの構造や特徴

ラトビアのミトンは、羊毛をカラフルに染め、2色以上の糸を使って、自然崇拝のラトビア神道に基づいたさまざまなパターン(模様)を編み出すことで作られます。古くは、各家庭で羊毛の糸紬ぎをし、染色も草木染めでミトンを作っていたそうです。

中世以降、ラトビア西部はバルト三国の中でも貿易港として栄えたので、他国からさまざまな色彩の糸やリボンが流通していました。ラトビア人は輸入された装飾品の色合いに影響を受けながら、知恵を絞り、その色彩を地域に生えている草木で再現したそうです。地域によって色合いが異なり、ルツァワ村ではピンク色が特徴だったりするのは、そういった背景があるからなのです。

ルツァワ村で見られるピンク色のミトン。五本指のものはより制作に時間がかかるため珍しい。

さらにラトビアのミトンの構造にはたくさんの特徴があります。

1つめに、防寒のため二重構造になっていること。外側と内側を別々に編み、最後にひとつに縫い合わせるそうで、内側を編む時は外側よりも少し小さく編むことでぴったり合わさった二重構造になります。

内側は単色。絶妙なサイジングで裏表をぴったり合わせる。

2つめに、中指の部分がとんがった形をしています。中指を頂点にとんがって見える手の形に合わせて、ミトンの形もとんがらせるのがラトビア人の美徳なのだそう。靴下も同じように手編みでこしらえるけれど、靴下の形は足の指先の形に合わせて丸く編みます。

中指の部分がとんがっているのがラトビアのミトンの特徴。
靴下の足の指先は丸く編まれる。

3つめに、ミトンの形が指の部分で分かれていても、パターンが一続きになっています。ラトビアのミトンの特徴は連続性のあるパターンがあることは一目瞭然ですが、ミトンの形が親指と他の指で分かれていても、ひとつのパターンが崩れることなく一続きに繋がっています。

これらの特徴からは、ラトビア人の美意識と技術の高さ、手仕事に対するこだわりが垣間見えます。
特徴は州によって異なる部分もあり、ルツァワ村では裾にフリンジがついていたり、クルゼメ州ではソリで移動する時に、コートの袖の上に被せて雪が袖の中に入らないように少し長めになっていたりします。

裾がフリンジになっている。
少し長めに編まれたミトンも!

”ヨーロッパの可愛い手仕事品”という印象があるラトビアのミトンですが、知れば知るほど奥深く、ラトビアで受け継がれてきた人々の暮らしや、ラトビア人の慣習があってこそ生まれたものであることを教えていただきました。
そうはいっても、手に取るだけで一目惚れするほど可愛くて手仕事の美しさを感じさせられるラトビアのミトン。ラトビア人の手から生まれる、英知にあふれる一点ものを、ぜひみなさんにもご覧いただきたいです。編み物マスターの方は、ぜひ作ってみてください!

左からイネタさん、アレクサンドラさん、ダツェさん。ルツァワ村伝承館にて。
編み物中…。

INFORMATION

ラトビア政府観光局 Latvia Travel (LIAA)
https://www.latvia.travel/ja

INFORMATION

フィンエアー(Finnair)
http://www.finnair.co.jp

PROFILE

Hinako Ishioka

同志社大学卒、出版社勤務を経てフリーの編集者・ライターとして活動。クラフトビールをはじめとする食文化、伝統的・趣味的な手仕事など、個人のものづくりに関心がある。

PROFILE

Hinako Ishioka

同志社大学 社会学部 メディア学科卒、グラフィックデザイン会社、出版社勤務を経てフリーの編集者・ライターとして活動。クラフトビールをはじめとする食文化、伝統的・趣味的な手仕事など、個人のものづくりから生まれるおもしろいものごとに関心がある。広告クリエイティブ/プロデュースカンパニー IKERU inc. 所属。

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