グラフィック社の編集者 恵中綾子さんのおすすめ『アフリカン・アメリカン・キルトー記憶と希望をつなぐ女性たち』
株式会社グラフィック社編集部の恵中綾子と申します。子供の頃から本が好きで、その流れで出版社に勤めてしまいました。以前、手芸系の出版社に勤めた経験から、弊社でも主に手芸書を作っています。手芸は自分で作るよりも作品を見るほうが好きなので、著者の手仕事に身近で接することのできる編集者という特権をフル活用して仕事をしています。思い返せば祖母の裁縫道具で遊んだり、叔母にニットを教わったり、小さい頃から手仕事が身近にあったような気がします。
Q
恵中さんのおすすめの本について聞かせてください。
『アフリカン・アメリカン・キルトー記憶と希望をつなぐ女性たち』(資生堂ギャラリーでの展覧会図録/2007年)
Q
この本のどんなところが心に残ったのでしょうか。
手芸書編集者としてのスタートはパッチワークキルトでした。それまでキルトとは無縁の暮らしをしてきたので、いちから学ぶことがたくさんありました。本書はそんな時に行った展覧会の図録(ポストカードブック)です。きっちりと美しい日本のキルトを見ることが多かったので、こんなキルトもあるんだと衝撃を受けました。そこには自由さと適当さ(偶然)の美しさがありました。ガーゼのような生地を裁ちっぱなしのままブックカバーにしている装丁や、用紙の質感も作品のキルトに合っていると思いました。
Q
現在のお仕事・ご活動、ものづくりにはどう繋がっていますか。
仕事柄、多くの作品を拝見します。書籍に掲載させていただく作品は、タイプは違ってもどの作品もステキで魅力的なものばかりです。日々いろんな作品に影響を受けながら、広く読者に支持される書籍企画を考えていますが、ふと気づくと自分自身の「好き」を忘れがちになります。そんな時に、自分の軸を取り戻すというかリセットする意味でも、年に1、2回は読み返す本です。新しい作品を見て刺激を受けるのはよいことですが、ぶれてはいけない自分の立ち位置を再認識させてくれます。
Q
最後に、手芸・手仕事・ものづくりの魅力はなんだと思いますか。
仕上がりを想像して、構造を考え、自らの手で形にする。手仕事には、生きていく上でのすべての要素が詰まっていると思っています。想像力、構成力、技術、そして忍耐力。それらが駆使されて生活で使われるものを作るのですから、手仕事というのは謙虚でなんと軽やかなのかと思います。そして必ずよいもの、美しいものを作るという気持ちが入っているのも尊いことです。そんな作り手にも魅力を感じます。
PROFILE
恵中綾子 Ayako Enaka
株式会社グラフィック社編集部勤務。編集を担当した近刊に『幾何学模様とモチーフ刺繍』『フラワーニッティング』『イロいろ・ハワイアンポーチ』『刺し子と暮らす』『アップサイクル・ノート』などがある。
https://www.graphicsha.co.jp/