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文化出版局の編集者 三角紗綾子さんのおすすめ『TSUTSUI’S STANDARD-筒井さんの子ども服-』

photo, text: Sayako Misumi, Illustration: pan-to-tamanegi

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文化出版局で手芸の書籍の編集をしております三角紗綾子です。はじめましての作家さんに自己紹介をするときに「糸がたくさんのお名前ね」と歓迎されることがありがたいことに多々あります。子どもの頃は、フェルトでマスコットを作ったり、ビーズで立体を作ったり、ミシンでバッグを縫ったり、それなりに手芸好きではありましたが、まさか仕事にするとは思ってもみないことでした。仕事で出会ったたくさんの方々に育てていただいて、今に至ります。

Q

三角さんのおすすめの本について聞かせてください。

『TSUTSUI’S STANDARD-筒井さんの子ども服-』(homspun/有限会社ホームスパン/2014年)

『TSUTSUI’S STANDARD-筒井さんの子ども服-』

1960年代後半〜80年代にかけて看護師だった筒井喜久恵さんが3人の我が子のために作った子ども服の記録。段染め糸をぐるぐる編んだビキニや、裾に鈴のついたネット編みのベスト、生地やディテールを変えて繰り返し作ったエプロンドレスなど、我が子に着せたいという気持ちでただただ針を進めたであろう服たちが、当時の写真やエピソードと共に紹介されています。布やボタンのセレクトや、パイピングや裏地の配色もすてきで、欧米的な服からフォークロアに傾向していく変遷もおもしろく、服の図録としての見どころも存分にあります。

Q

この本のどんなところが心に残ったのでしょうか。

知らないお母さんが我が子のためだけに作った服なのに、30年以上押入れにしまい込まれていた匂いまでも漂ってくるような生々しさに圧倒されました。作ることの喜びがほとばしる服は、役目を終えてもこんなにも熱量を持っているものなのか、と。また、筒井家のアルバムに残るブロック塀に囲まれた東京の街、合板の扉と擦りガラス、キャンディみたいな髪留めやレースの三つ折りソックスなどは、遠い記憶にも重なり、胸に迫るものがありました。筒井さんの服に出会い、本にしなければと使命を感じた作り手側の思いも、ありがたく受け取りました。

Q

現在のお仕事・ご活動、ものづくりにはどう繋がっていますか。

「子ども服を初めて作ったのは、長女が1歳になる頃。本の解説通りに編むことに必死で。でも、なにか違う気がした。自由じゃなかったのよ」という筒井さんの言葉に、手作りって本来そういうもんだよな、と気持ちが楽になりました。実用書の編集の仕事は、作品がどんな素材でどういう工程で作られているかを正しく解説することが本分ではありますが、それが手作りの正解とは限らない。手に取ってくださる方々にそれぞれの楽しみ方があっていい、余白のある本づくりをしたいと思っています。

Q

最後に、手芸・手仕事・ものづくりの魅力はなんだと思いますか。

作りたいというモチベーションに引っ張られて、技術があとからついてくるところ。たとえ拙くても、味とかあたたかみで許されるところ。過去に作ったものから、その時の自分の(時に他人の)技術レベルや、お気に入りのデザインや素材や技法などのマイブームが辿れるところ。何を作ろうと考えている時間から、材料を揃える時間、作っている時間、できあがったあとも、ずっと楽しいところ。

PROFILE

 三角紗綾子 Sayako Misumi

東京生まれ。雄鷄社(のちに倒産)、編集プロダクションを経て、学校法人文化学園文化出版局へ。直近10冊の担当書籍は以下の通り。「CHECK&STRIPE COLOUR BOOK」、「夢みる刺繡」(läpi läpi著)、「Little Lionのクロッシェバッグ」、「手足が動くあみぐるみ」(いちかわみゆき著)、「夏のかごバッグと帽子 エコアンダリヤのデザインA to Z」、「小さなシンプルベビーニット」(ラ・ドログリー著)、「一生ものアラン」(保里尚美著)、「またたびニット」(三國万里子著)、「中原淳一のスタイルブック わたしのおしゃれ」、「最旬クロッシェ小物」(長井萌著)。

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