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ポーランドの建築 その3~フラワーペイントの村、ザリピエ訪問~

その2まででお伝えした、マウォポルスカとカルパチア地方の木造教会を回った後、同じくポーランド南部でカラフルな花柄ペイントの家々で有名な「ザリピエ」という村にも足を延ばしてきました。
photo & text: Sachiko Suzuki

ポーランドの建築 その2~マウォポルスカの4つの教会~

ザリピエは、クラクフから北西へ車で約1時間10分ほどで村の入口に入りますが、そこまでの景色は、ポーランドの語源である「平原」を実感できる大平原の風景が続きます。
実はコロナ前の2019年に一度訪れており、その時は平日でほとんど観光客はいなかったのですが、2023年に再訪した際には8月半ばのバケーションシーズンの土曜日だったこともあり、小さな村の見どころとなる博物館などは観光客で溢れていました。30ほどの家々が点在し、今でもそれぞれの家の玄関や外壁や倉庫、犬小屋にまで色鮮やかな花々がペイントされています。

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かつてこの村の家々には煙突がなかったため、冬を越して春を迎えるころになると家の中はストーブの煤(すす)だらけになっていたそうです。19世紀の終わり頃から、黒くなった家の中を少しでも美しくしたいと、壁に花柄を描く習慣がこの村で根付きました。当時の絵の具は粉末染料と牛乳でつくられたもので、筆の代わりに白樺の棒を柔らかくして使っていたそうです。1930年代になると、フェリチア・クリウォーヴァという一人の住人の花柄模様が人気となり、その後、それはザリピエ模様と呼ばれるようになって定着し、村のアイコン的存在となりました。

村の文化センター、「ドム・マラレック(Dom Malarek)」はザリピエ模様ペイントの博物館。村の歴史を物語る写真、また最新のザリピエ模様も絵画のように展示し、ショップも併設しています。アートワークショップも開催。

INFORMATION

◆ドム・マラレック(Dom Malarek)

住所:33-263 Zalipie 128 A
電話: +48146411938
メール:dommalarek@interia.pl
http://dommalarek.pl/

最後に、かつての個人宅をミュージアムにしている「ザグロダ・トロイニャーコフ」を訪ねました。昔の釜戸のあるキッチンスペースやテーブルなど、そのまま残されています。家具やグラス製品にまで花柄が描かれていて、ミュージアムを案内する家主のおばさんから、かつての村の暮らしについて話を聞くことができました。当時は靴を買うお金もないほど貧しくて、何度も修繕して使っていたという靴の現物まで残っていました。しかし、花ペイントで有名になったおかげで、少しずつ潤うようになったとのことでした。

INFORMATION

◆ザグロダ・トロイニャーコフ(Zagroda Edukacyjna Grzegorz Trójniak)

住所:33-363, Zalipie k Dabrowy Tarn, Zalipie 3, 33-263, Polnad
電話:+48146412650
開館時間:8:00~18:00
無休

http://zagrodatrojniakow.pl/

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ぜひとも訪れていただいきたいのは、この村の聖ヨセフ教会です。できれば、ツーリストの少ない平日に訪れることをおすすめします。こちらも木造教会で、柱、壁、祭壇、礼拝堂の中にさまざまな花柄ペイントを見つけることができます。

INFORMATION

◆聖ヨゼフ教会(Kościół św. Józefa Oblubieńca w Zalipiu)

住所:33-363, Zalipie k Dabrowy Tarn, Zalipie 3, 33-263, Polnad
開館:月~金曜 6:30~18:30(土曜8:00~)、日曜7:30~19:00
休:なし
https://parafie.net/parafia-sw-jozefa-oblubienca-nmp-zalipie/ 

番外編~日本人経営の宿、ペンション「ヴィラ・アキコ」の花ペイント

花ペイントの木造建築、まだあります! ポーランドで有名な山岳リゾート「ザコパネ」の北部、ハルクローヴァ村から山道を登って車で約2.5㎞のところにあるのが、日本人が経営するペンション「ヴィラ・アキコ」。1990年にひとりでポーランドのこの地に移住し、電気もガスも通っていないこの山奥に、トラクターを購入して道路をつくってもらい、自らすべてを手配して木造ペンションを建てられたという三和昭子(みわあきこ)さんにお会いしてきました。

昭子さんが45歳の時、離婚を機にまずはチェコでガラス工芸を学ぼうと、ヨーロッパ移住を考えていた頃のこと。米国を旅することがあり、そこで出会ったポーランド人家族がとても親切だったこともあってご縁を感じてポーランド行きを決定。初めてこの地へやってきた時、近くの山荘から望むタトラ山脈の絶景に感動して、今の土地を買うことを決められたという昭子さん。

この土地は国立公園に近く、伝統的なポーランド様式の建物しか建てられなかったため、地元の熟練大工さん達にお願いしてなんとか2年半で希望のヴィラを完成させたそうです。プワズイという木材を使用した、典型的なザコパネ様式という建築が施されています。3.5ヘクタールの敷地には、昭子さん手づくりの家庭菜園が広がり、手つかずの大自然の息吹を存分に堪能できます。

ペンションの部屋数は全12室。娘のノブさんとともに経営されています。お部屋を拝見して興味深かったのが、壁の板と板の接合の仕方です。木を削ってワラ状にした「ムシャナ」という詰め物を埋め込んで板同士を接合しており、釘は1本も使用していないというのです。地下室と1階はコンクリート構造、1階半から2階半までプワズィの木材が使用され、屋根にも木材を使用する、という、興味深い建築技術をじっくりと見学できます。『ポーランドの建築 その1~素朴で神聖な木造ゴシック教会~』でご紹介した古い木造教会にも通じるものがありそうで、興味が湧いてきました。

訪問時には、クラクフから来たという若い女学生が独りで泊っていたり、北欧からやってきたゲストほか、リピーターが多く宿泊していました。世界中の旅人が、自然の癒しを求めてヴィラ・アキコを訪ねている、そんな印象を持ちました。ポーランドへやってきたら、このヴィラに立ち寄って、恋しくなった和食などもいただきながら骨を休めてみませんか。

INFORMATION

ヴィラ・アキコ(Villa Akiko)

住所:os, Ariake 1, 34-434 Debno, Poland
電話:+48601454765
http://www.akiko.pl/?lang=ja
https://villa-akiko.business.site/

PROFILE

鈴木幸子 Sachiko Suzuki

世界を旅するトラベルジャーナリスト&エディター。
人が好き、取材も大好き。出版社勤務や地球の歩き方編集を経て、2004年に制作会社らきカンパニー設立。年間7~8回は海外取材へ出向き、70か国以上の国を頻繁に取材している。2010年から、まちづくりにも関わっている。
通信社、雑誌、クルーズ誌、機内誌、ムック本、書籍、オンラインを含め、各メディアで活動中。JTBるるぶ『アンコールワットとカンボジア』初版制作。著書に『HOTEL INDOCHINA ベトナム、ラオス、カンボジアのフレンチコロニアルホテル/集英社』、『100ドルで泊まれる夢のアジアンリゾート(共著)/文藝春秋』、『もち歩きイラスト会話集タイ/池田書店』、『みやざきの自然災害』などがある。
2023年春より、時事通信ニュース「あなたの旅、わたしの旅」連載中。
趣味は海外旅行。世界の路地&市場巡り。長唄三味線、川柳句会に参加すること。会社名の「らき」はギリシャ・クレタ島の地酒の名前。
宮崎県宮崎市出身。

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