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ポーランドの建築 その2~マウォポルスカの4つの教会~

その1に続いて、マウポルスカ地方とカルパチア地方の教会を4つ回ってきましたのでリポートします!
photo & text: Sachiko Suzuki

ポーランドの建築 その1~素朴で神聖な木造ゴシック教会~ はこちら

1.多彩装飾画の見どころ満載! ビナロヴァの教会

「ビナロヴァ聖大天使ミカエルの聖堂(1500年頃の創建)」はマウォポルスカ地方の中でも最も古い教会のひとつで、約500年以上もの間、地元の方々に愛され続けています。ポーランド南部の人気観光地クラクフから南東へ車で約2時間半ほどの距離にある「ビナロヴァ」という人口約1600人の村にありました。

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500年以上人々の暮らしに身近な場所となっている教会

この教会の外壁を覆う「こけら葺き」は美しく、建物は細長くきわめて独創的なフォルムです。内装がまた素晴らしく、これらの壁画は17世紀に描かれました(作者は不明)。聖書で説かれるキリストの苦難の場面や、天井や壁すべてを覆う多彩画装飾は驚くほど緻密です。この多彩装飾画の価値が認められて世界遺産に登録されました。

見るべき調度品は、祭壇の正面に並んでいるゴシック様式の彫刻ですが、なかでも聖母マリア像の額や長い指にゴシック様式の特徴が伺えます。この教会はマリア信仰の中心地であったことも分かっています。
聖母マリアから向かって左側には聖ペテロ、右は聖パウロ。中央は教会のシンボルである大天使ミカエルです。十字架をもった聖カルロ・ボロネオシュ、聖カジュミエシ(王)、ポーランドの聖人スタニニスワフ、など。面白いのが、ポーランドの教会には必ずといっていいほど、アダムとイブ像が左と右端に備わっていることです。顔の表情もユニークです。
500年以上も昔から使われている貴重な洗礼盤は、上部が木造りで下部は石造。現在でも洗礼式に使用されているそうです。

INFORMATION

◆ビナロヴァ聖大天使ミカエルの聖堂

Charch of St. Michael the Archangel(Parafia św. Michała Archanioła w Binarowej)
住所:Binarowa 409, 38-340 Biecz, Poland
電話:+48134476396
HP :  http://www.parafiabinarowa.pl/
開館時間:水曜9:00 ~17:00、木~土曜9:00~18:00、日曜12:00~17:00
※昼休み13:00~13:30
※ミサ聖祭の開催中は入室禁止。
休:月・火曜 
※英語ガイドの手配可能(+48-692385244)

2.大きなフレアスカート型の屋根がユニーク、センコヴァの教会

次は、上記のビナロヴァから南へ車で約30分のセンコヴァ(人口約5000人)にある教会です。1520年頃につくられました。大きな特徴は、まるでフレアスカートのように広がった「こけら葺き」の大きな屋根です。よく見ると、建物内部の周りをぐるりと囲むように庇(ひさし)の下(軒下)に広い空間が設けられています。これは「土曜日(ソボタ)」と呼ばれていて、日曜日に遠方からミサへやってくる人々が土曜日の夜に泊まるスペースだったそうで、その名が付けられたそうです。現在でも日曜日にはミサが行われています。外部はミナロヴァと同様、こけら板で覆われています。このこけら板は、40年に一度は新しく葺き替えるそう。

中に入ると、前述のビナロヴァに比べて質素な印象を持ちます。それは、第一次大戦中、オーストリア軍から支配された際、貴重な美術品はすべて持ち去られ、馬小屋として使用されていたためです。内部の壁面もひどくいたみました。ほとんど絵画は残されていませんが、目を凝らしてみると、うっすらと人の影が残っていました。唯一残っているのが、1522年にできた洗礼盤と後期ルネッサンスの主祭壇です。日本の古い寺院でもそうだったように、16世紀の大工職人のサインが柱に残されているそうで、自分がつくったのだ、という自負をもった当時の大工さんの想いが伝わってくるようです。
奥の方にある正方形のドーム型の塔は、中を見上げると釘を使わない木組みの構造がよく分かります。このスペースも、信者たちの休憩スペースとして使われていました。

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INFORMATION

センコヴァの使徒聖ピリポと聖ヤコブ聖堂

Church of SS. Philip and Jacob the Apostles in Sękowa(Kościół pw. Świętych Jakuba i Filipa w Sękowej)
住所:13, Sękowa 12, 38-307, Poland
電話:+48609546389
HP :  http://www.parafiabinarowa.pl/
開館時間:月・火・水・金曜 16:00~17:00、土曜 8:00~9:00
休:木・日曜、祝祭日
※ミサ聖祭:平日は7:00、18:00。日曜・祝日は7:00、9:00、10:30、12:00、16:00

3.12世紀に建てられたスラブ聖地のひとつ、聖レオナルド教会

こちらは2019年の夏に訪れた、リプニツァ・ムロヴァナ村の「聖レオナルド教会」です。ここもマウォポルスカの世界遺産建築のひとつで、クラクフからは車で南東へ約1時間の距離、ビナロヴァからは同じく約1時間、クラクフへ戻る途中にあります。
この村はわずか約600人という小さな村ですが、かつてはスラブ聖地のひとつであり巡礼者が多く訪れました。この地はハンガリーとクラクフを結ぶ交通の要所であったため、行き来する商人たちの通行税で、村は潤っていたそうです。聖レオナルド教会も木造ゴシック教会としてはかなり古く、1141年に建て始められ15世紀から18世紀にかけて増築されました。森の中にひっそりと佇むその様子は聖地そのものです。

教会の中で見逃せないのは、壁面に描かれた、レナード、聖ニコラス、幼子イエスの礼拝の3つの貴重な三連祭壇画です。ほかにも最後の審判、最後の晩餐、神の苦悩、十戒、草花模様などが描かれており、鉱物や草木を使って描かれた壁画は素朴で味わい深いものでした。
1997年7月、リプニツァは大規模な洪水に見舞われました。教会内部は深刻な損傷を受けましたが、洪水の翌日から改修工事が始まり、2000年10月に完了し、2003年にはユネスコ世界遺産に登録された、という歴史があります。洪水の後、壁画の色が薄くなっている部分も残っていて、時代の変遷を見ることができます。

INFORMATION

◆聖レオナルド教会

Kościół pw. św. Leonarda
住所:32-724 Lipnica Murowana 39, Poland
電話:+48146852601
HP:http://www.parlipnicam.tarnow.opoka.org.pl/
開館時間:現地で確認のこと。

4.カルパチア地方、玉ネギドーム型のポヴロジニク教会

上記のセンコヴァからさらに車で南南西へ約1時間ほど走るとカルパチア地方に入ります。ポーランドの温泉保養地クリニツァ・ズドゥルイのすぐ南にある「ポヴロジニク教会」を見学しました。
ポヴロジニク教会は、ユネスコ世界遺産「ポーランドとウクライナのカルパチア地方の木造教会群(2013年登録)」のひとつで、1604年に建てられました。カルパチア地方では最後の時期にできた木造教会で、こちらも釘を1本も使わずに建てられています。カルパチア地方の木造教会は、①、②の教会とは少し様式が異なっていて、丸太を使ったレムコ様式と呼ばれる建築スタイルです。木材を水平に組み建てたログ構法で、外壁と屋根は1枚のこけら葺き。拝廊・身廊・至聖所という3つのパートが直線上に並んでいます。天井は四角形や八角形ドームからなり、祭壇と参列式を分ける木造内陣仕切りや壁画に特徴が見られます。ギリシャ正教会の教会建築に、地域の文化を融合させた独自の技術が見られます。

一番奥の祭壇から向かって左の聖具室には、壁と天井一面に聖書の教えが描かれていますが、当時は字が読めない人も多かったため、絵によって教えを説いたそうです。
祭壇の右側に掛けられた大きな「最後の審判」の絵画は、教会の中でも最も古く、1623年に描かれたものです。
最初、この教会はムジンカ川の近くに建てられていましたが、洪水に備えて1618年頃に現在の場所に移築されました。教会の周りは、起伏のある田園風景や家々、人々が参拝する姿など、実に穏やかな光景が印象的です。これらの地方の木造教会を訪れると、周りの風景にナチュラルに溶け込んいて、何百年もの間、人々の暮らしの中心に存在していたということを肌で実感できるはずです。

INFORMATION

ポヴロジニク使途聖ヤクプ教会

Greek Catholic Charch of St.James the Less in Powroźnik(Powroźnik Cerkiew pw. św. Jakuba Młodszego Apostoła)
住所:DW971 28, 33-370 Powroźnik, Poland
電話:+48508866402
HP : なし
開館時間:火・水曜9:00~17:00、木・土曜9:00~18:00
休:月・金曜

PROFILE

鈴木幸子 Sachiko Suzuki

世界を旅するトラベルジャーナリスト&エディター。
人が好き、取材も大好き。出版社勤務や地球の歩き方編集を経て、2004年に制作会社らきカンパニー設立。年間7~8回は海外取材へ出向き、70か国以上の国を頻繁に取材している。2010年から、まちづくりにも関わっている。
通信社、雑誌、クルーズ誌、機内誌、ムック本、書籍、オンラインを含め、各メディアで執筆中。JTBるるぶ『アンコールワットとカンボジア』初版制作。著書に『HOTEL INDOCHINA ベトナム、ラオス、カンボジアのフレンチコロニアルホテル/集英社』、『100ドルで泊まれる夢のアジアンリゾート(共著)/文藝春秋』、『もち歩きイラスト会話集タイ/池田書店』、『みやざきの自然災害』などがある。
2023年春より、時事通信ニュース「あなたの旅、わたしの旅」連載中。
趣味は海外旅行。世界の路地&市場巡り。長唄三味線、川柳句会に参加すること。会社名の「らき」はギリシャ・クレタ島の地酒の名前。
宮崎県宮崎市出身。

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