STORE

ぬいぐるみ作家 doudou-poi yumicoさんインタビュー vol.2 ぬいぐるみも人間のように、ずっとニコニコしていなくていい。

vol.2ではぬいぐるみ作家になったきっかけ、yumicoさんが人生で出会ってきた文化の、どのような世界観が作品に影響を与えたのか?などを伺いました。
photo: yumico(doudou-poi), interview & text: Chiaki Shimazaki

doudou-poi yumicoさんインタビュー vol.1 はこちら

編集部

ぬいぐるみをつくり始めたきっかけは?

yumico

はい、きっかけは娘のためでした。もともと娘が生まれてからは、お出かけする時にお菓子を入れるリュックやポーチ、魚釣りのおもちゃなどを手作りしていたんです。家の形をしたリュックは、ちょっと自慢の作品(笑)。家をリュックにするというアイデアはもちろん、屋根のデザインなどすべて自分で考えたオリジナルです。

yumico

娘のものをつくるようになり、あらためて、自分で自由に考えてつくるのが本当に好きなんだと実感しました。そんなある時、娘がぬいぐるみを相手におままごとをしているのを見て、「ぬいぐるみが寝たきりだ…」と思ったんです。「ごはんだよ」って娘が声をかけても、ぬいぐるみはみんな地面に寝たまま。お座りさせるには、壁に立たせないといけないんですよね。そこで、「自立して座るぬいぐるみをつくろう」と思い立ちつくったのが、「ねこのチュウチュウ」の原型となった子です。

編集部

最初に売り出したのが、「ねこのチュウチュウ」と「うさぎのジャン」ですね。動物にしたのは、理由があるんですか。

初めてつくったねこのチュウチュウ(左)と、うさぎのジャン(右)。

yumico

私の中では、ぬいぐるみイコール動物なんですよ。だから、好きな動物をつくっています。

編集部

今までいろいろなものづくりをしてきた中で、例えばアクセサリー作家とかではなく、ぬいぐるみ作家を選んだのはなぜなんでしょう。vol.1 でお話いただいた、ぬいぐるみ作家の作品を買ったことが大きいのでしょうか。

ymico

それもありますが、決め手ということではないんです。社会人になってからも、「いつかは、ものをつくって販売して生活する人になりたい」という思いは、心にずっとありました。ぬいぐるみをつくったときに初めて「これを極めていこう」と思えたのは、やっぱり私自身が、ぬいぐるみが大好きだからなんですよね。

制作風景。広々とした木のテーブルでものづくりがはかどりそう。

編集部

ところで、「doudou-poi」というブランド名は、yumicoさんが制作するぬいぐるみの世界観にすごく合っているなと感じています。どういう意図があって、どんな意味があるのかを、この機会に教えていただけますか。

yumico

「doudou(ドゥードゥー)」はフランス語で、赤ちゃんや幼い子どもたちが肌身離さず持ち歩くぬいぐるみやお人形のことです。ブランド名を考えた当時、幼稚園に通っていた娘が、「ドゥードゥー、ポイ!」ってよく言っていたんですよ。魔法をかけるみたいで面白いなと思い、そのままブランド名にしました。

編集部

そうだったんですね。ぬいぐるみたちの独特の西洋感は、フランスのエッセンスがあるからなんでしょうか。yumicoさんは、これまでどんな文化が好きだったのか気になります。

yumico

映画が好きです。ずっと好きなのは、フランスの映画監督で映像作家のミシェル・ゴンドリー。今はウェスアンダーソンの作品とか、古い映画ではタランティーノの『パルプフィクション』や、スピルバーグの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が大好きです。

編集部

ファンタジーの要素があって、視覚的に作家性のある感じがお好きなんですね。

yumico

そうですね。俳優で言えば、トム・クルーズよりもトム・ハンクスが好きなタイプです(笑)。

インスピレーションの源になっているDVD棚。ミシェル・ゴンドリーやウェス・アンダーソンの作品が並ぶ。

編集部

味のある感じが好みなんですね。無意識のうちに、影響を受けたものや育まれてきた世界観は、作品に現れるのではないかなと思うのですが。yumicoさんが制作するぬいぐるみの特徴でもある目の赤い色は、どのような背景から生まれたアイデアなのでしょう? 

yumico

目に赤い色があるのは好き嫌いがあるとは思うんです。でも、赤ちゃんが最初に識別する色が「赤」だと言われていて。赤ちゃんでも目が合うように赤い色のまぶたをつけました。顔のどこかに遊びを効かせたいという思いもありました。奇抜すぎない具合で落ち着いたところは、あらためて思えば、ミシェル・ゴンドリー風かもしれない(笑)。

yumicoさんのぬいぐるみのポイントとなる赤いまぶた。

yumico

そもそも制作するうえで、「お利口な、可愛いだけのぬいぐるみには、ならないように」と決めていました。世の中にはいい人が多いけれど、その人たちが家に帰ってもニコニコしているのかといえば、そうじゃない一面もあると思うんです。ぬいぐるみも同じで、素の部分を見せている子をつくりたいなと思って。ぬいぐるみの顔って、変化しませんよね。可愛いだけのぬいぐるみには、私だったら「ずっと笑顔でいなくていいんだよ」と言いたくなってしまう。それよりも、ちょっと癖のある感じのぬいぐるみなら、刺激をもらえるし、一緒に生活していて楽しいと思っています。

編集部

素材やつくり方についてはどうでしょう。こだわっていることは何かありますか。

yumico

つくるうえで特にこだわったのは、やはり目と表情です。特に目は、光が当たった時に反射するように、試行錯誤の後、プラスチックのパーツにしました。もうひとつのこだわりが、綿をあえて多めに入れてムッチリさせることです。抱き心地が良くなって、たくさん遊んでもすぐにくたくたにならないように張りを持たせています。やはり、ご購入いただくわけですから、自己満足ではいけませんよね。作品として売りに出すまでには、「これなら販売できる」と納得できるまで試作を重ねたのですが、初心を忘れずに、1つ1つ丁寧に責任をもってつくることには、こだわり続けたいです。

編集部

すべて手縫いだと、時間もかかりますよね。今は受注生産でやっておられますが、新たな展開などは考えていますか?

yumico

注文が入ったらつくるという受注生産のペースは、私に合っているのでこれからも続けたいと思っています。今はInstagramのダイレクトメールで注文を受けていますが、それとは別に自分のネットショップを開こうかと考えています。そこでは受注生産だけでなく、即時購入できるようにしたいので、ストックを増やす準備を進めていきたいです。

編集部

最後に伺いたいのですが、yumicoさんにとって「つくること」は、どんなことでしょう。

yumico

「生きること」です。今も変わらず、どんなに忙しくても、自分の机に座って何かをつくると気持ちが安定するんです。何もしないで布団に入ると、物足りなくて。大好きなぬいぐるみをつくることで、私自身が安らいでいるんですよね。つくりたてのぬいぐるみを家族に見てもらった時の素直な反応も作品づくりの刺激になっています。

「正直、ぬいぐるみは人にとって、なくても生きていけるもの。だけど、側にいてくれると人生が豊かになるものです。使い捨てではないし、その人の生活の一部にいるもの。これから長い付き合いになる子をお迎えしてもらう、その責任をいつも感じてつくっています」と話していたyumicoさん。
プロとしての責任感の根底には、「ものづくり」と「ぬいぐるみ」という2つの大好きがあって、それぞれへの深い愛情が、作品づくりを後押ししているのだと感じました。だからなのか、yumicoさんがつくるぬいぐるみたちは、赤いまぶたにちょっとドキッとするけれど、あたたかくて、側にいる人を自然とほっとさせてくれるのかもしれません。

PROFILE

doudou-poi yumico

名古屋市在住。2019年にぬいぐるみブランド『doudou-poi』を立ち上げる。
doudou-poiのdoudouとは、フランス語で 「子供が安心するために肌身離さず持ち歩くぬいぐるみ」のこと。
大人も子供も関係なく、忙しい毎日に(ふぅ〜)とチカラの抜ける瞬間を感じてもらえるよう、暮らしの相棒(doudou)をお届けしたいと心を込めてぬいぐるみを作っています。

Web shop: https://doudoupoi.thebase.in/

手芸や手仕事の奥深い魅力を共有する編集部の独自コラム。メルマガ限定でお届け。登録はこちらから。

限定情報をいち早くお届けメルマガ会員募集中!