STORE

ぬいぐるみ作家noconocoさんインタビュー vol.2 絶滅危惧種の動物たちをつくり続ける原動力

ナマケモノ、マンドリル、マンモス、イグアナなど、普段あまり見ることのない珍しい動物たち。息づかいが伝わってくる、躍動感のある動物のぬいぐるみを作るnoconocoさん。本物に近い容姿、愛嬌のある表情、触りたくなる親近感を持つ動物たちはどのように生まれているのか。二子玉川高島屋で行われていたポップアップ展示におじゃましました。
photo: Takashi Sakamoto, interview & text: Hikaru Furuike

>>ぬいぐるみ作家noconocoさんインタビュー vol1.はこちら

つくるのは絶滅危惧種の動物たち

ぬいぐるみ作家としての一歩を踏み出した村田さん。屋号はnoconocoと名付けました。
「名前の由来は、好きな画家である柳原良平さんの昔のトリスウイスキーのCMで聴いた”ノコノコ”と言うフレーズから。何かのどかでかわいくて、耳馴染みが良いなぁと思って。焦らず、ゆっくり、ノコノコ行こう、と言う意味を込めています。 英表記にすると丸っこいアルファベットが並ぶのも気に入っています」。

村田さんがぬいぐるみを制作するときのベースにしているのが〝絶滅危惧種の動物を軸に制作をする“という考え。活動を始めた当初から指針として、ゆるくではありますが作家活動のテーマに掲げています。
例えば、以前作ったニュージーランドの固有種のカカポという鳥は、生息数が減ってしまったため、現在はニュージーランドの島に隔離状態で保護されていて、今ようやく100羽以上になったそう。オオサンショウウオも、ハシビロコウも生息数が減っているけれど、そのようなことは普段はあまり考えたことがない、というか実際私たちは知らないことがほとんど。
「今、動物園にいる動物たちはレッドリストに載っている動物がけっこう多いですが、それについてはあまり知られていないと思うんです。そういう現実を知るだけでもいいんです。動物たちが絶滅の危機に瀕しているということを、ぬいぐるみを通して皆さんに伝えていけたら、という想いで活動をしています」。
ばりばりに主張する、というよりはなんとなくやっています、というくらいの緩さです、と話す村田さん。控え目ではありますが、動物たちに向けた強く温かで確かな想いが伝わってきます。

生地から得るインスピレーションが作品のアイデア

作品の動物たちは形も、大きさも、使っている布もすべて異なり、一つとして同じものはありません。使用している布は自身が輸入しているもの、または問屋で見つけた気になる布を使っています。布選びの基準は第一に手触り。大人向けの作品を作っているので、上質な素材を使うことを心掛けています。
「おもしろい布があったらとりあえず買ってとっておくんです。家に布のストックがたくさんありますよ。作品を作るときに、この布にこれに合わせたらおもしろそうだな、とか、この布はこの動物っぽいな、と考えて使ったりします」。

作る動物を決めてから布を選ぶことも、布から作る動物を考えることもあるといいます。「白いきれいな猫」という作品は、布を見てアイデアがわいてきたそう。不思議な模様が猫のぶちに見えたので、猫にしたらおもしろいのではないかとひらめいたといいます。
「なんだか適当な名前ですみません笑。なにか名前つけなくてはと急ごしらえでつけました。新作のサカバンバスピスは、SNSで流れてきた写真を見て「これをつくりたい」と思い立ち、もともと持っていた布の中に古代魚っぽい布があったな、と思い出して使ったんです」。
常に大量の布をストックしている村田さん。なるべくかぶらないようにしているが、作品によって同じ布を使うこともあるとのこと。お客さんの中には目ざとく見つける人もいて「この布、あのぬいぐるみでも使ってたでしょ」と、作品の共通点を見つけることを楽しみにしている人もいるそうです。

「白いきれいな猫」。もともと布に入っていた柄を、猫の体の模様として生かしている。

作り手としての環境への意識

以前、アパレル関連企業から声が掛かり、シーズンが終わった廃棄する布でぬいぐるみを作ってみないか、という話をもらい、会社の倉庫で何反もある破棄する布を見せてもらう機会がありました。
「ファッション業界はサイクルが早く、シーズン終了後に破棄する布がとても多いと聞きます。シーズンごとにどんどん生地を作っていかないといけないけれど、倉庫も限界があるから過去の布はどんどん破棄しないといけないそう。でも、それがもったいないということで、布を再利用することを目的にお話をいただきました」。
布を使う立場だからこそ、材料に関する環境への意識は常に持っています。この時は依頼を受け、破棄する布で作品を作ったのだそう。廃棄する布で作品を作ることにとても興味があり、機会があれば同様の方法で制作することを考えています。
また、制作過程で出たはぎれは捨てずにすべて手元に残しているといい、はぎれと言えないくらい小さな布も大好きで「捨てないで全部とっておいている」のだとか。
「ストックしている生地以外にはぎれを持っているので、家の中が布であふれています。袋にまとめて入れておいて、制作の時に〝そういえばこういう布があったな“と思いだして、作品のポイントとして使っています。作品をつくるたびにはぎれがたまっていきますが、絶対に捨てません。特に布の耳が好きなんですよ」。
見せていただいた作品には小さな布を使っている箇所がありました。もしかしてこの部分ははぎれかな? 布の耳部分かな? なんてことを想像しながらぬいぐるみたちを迎え入れるのもよいかもしれません。

ぬいぐるみは家族同然、唯一無二の存在

子供のころからいつも傍らにいたぬいぐるみ。村田さんにとってぬいぐるみは、なくてはならない唯一無二の存在です。
「仕事にする前からの付き合いですからね。私の人生にとって欠かせない存在です。小さい頃の写真では、昭和の時代のレトロなぬいぐるみたちに囲まれていました。当たり前のように昔から一番近くにいた家族のような存在なんです」。
当時、小さめの動物形人形や着せ替え人形も流行っていましたが、それらにはあまり興味を示しませんでした。かわいいと思うことはありましたが、なぜか欲しいとは思わなかったといいます。その理由は、
「柔らかくないから、ですかね。ぬいぐるみの良さって、抱っこしたときの手ざわりや安心感、そして柔らかさ。持ったときにくたっとする、あの感じがたまらなくかわいいんです」。


その頃持っていたのも、やはり動物のぬいぐるみ。現在も家の中にはたくさんのぬいぐるみたちがいて、いつも周りにいて見守られていたのだとか。中でもお気に入りは、小さいころに買ってもらったピンクの象のぬいぐるみ。何の変哲もないぬいぐるみですが、村田さんにしかわからない愛着があります。
「これといった特徴はないですし、普通なんですよ。でも、やっぱりとてもかわいいんです。他の人にはわからないかわいさというか、愛おしさというか、自分にしかわからないのですが、絶対手放せない存在なんです」。
そういって見せてくれたのがこちらの象。

何十年も一緒に過ごしているピンクの象のぬいぐるみ。近い位置に並んだ目は当時のトレンド!?

この時代のぬいぐるみたちは目が近いデザインが多かったそう。「流行っていたような気がします。トレンドがだったのかもしれませんね」。

大人に愛される動物たち

noconocoのお客さんは40代以上の人が多いそう。大人になってから、新たなぬいぐるみとの出会いを求めて探されている人もいるようです。作品のテイストが甘くないからか、男性のお客さんも一定数いて、家の中のいい場所に置いてみたり、たまに展示に連れてきてくれる人もいるといいます。
「かばんにカメレオンを忍ばせて一緒に来てくれたりする人もいました。そのまま来たんですか? 周りの人に見られませんでした? と聞くと、見られましたと笑。ほかにも、子育て終わった方が、家にいっぱいあるのよとか、そういえばぬいぐるみをいっぱい持っていたわ、と言いながら買ってくださる方もいらっしゃいます。自分の分身じゃないけれど、相棒のような感覚で一緒に過ごされる人が多いのかもしれませんね」。

思い描く今後の活動

かつては自分主体で活動をしていたという村田さん。活動の幅を広げ、年を重ねる中で、少しずつ人の役に立ちたいと思う気持ちが出てきたといいます。
身近に障害を持った人がいることもあり、より深く知りたいという気持ちが芽生え、現在はぬいぐるみ作家の他に、障害者の方のサポートをする仕事を始めたといいます。ゆくゆくはサポートしている方々と一緒にぬいぐるみを作ったり、共同作業でみんなで一つの作品を作りたいという夢を思い描くようになりました。そのためには、まずその方たちのことを知るところから始めたい、と目標に向かう一歩を踏み出しました。「普段は普通に働きに出ているので、作品を作る時間が減っているんです。そのため、以前のようなペースで展示会ができなくなってしまいました。でも、得るものがとても多いんです。仕事は2つ並行してやっている状態ですが、自分の考えが整理されていく、といいますか。私にとってはどちらもとても大事なことなんです」。
ぬいぐるみ以外の仕事を通して、自分の考えや想いのほか、時間の使い方、やりたいこと、やらないといけないことなど、意識していなかった部分がはっきり見えてきたといいます。

「今までと違う仕事をすることで、身の回りの物事が冷静に、客観的に見えてきた、という方が正しいかもしれません。もともと自分の中で、ぬいぐるみ作家としてもっといろいろやれたんじゃないか、という考えがあったのですが、具体的にそれが何かということまではわかっていなかった。そんなもやもやが晴れて視界がクリアになって。今までの活動の中で感じていたこと、見えていなかった部分がはっきりし、これから先、やりたいことにもっとチャレンジしていかないといけない、自分の想いに正直に動いていってもいいんじゃないか、動いていかないといけないのではないか、と考えられるようになりました」。

いくつもの仕事をするのは大変だけれど、どれも自分がやりたいと思うことなので、その気持ちを大切にしていきたいという村田さん。「そういう想いや経験もすべて、作品に反映されていったらいいですね」と話します。
「直近の目標としては、まずは個展の開催ですね。すべて新作の個展をやってみたいです。あとは、一度でいいので乗れるくらい大きいぬいぐるみを作って乗ってみたいんです。耐久性の問題があるので乗れるかわからないですが、昔からの夢ですね」。過去と現在のさまざまな活動によって得られた考えや想いが、これから生まれる動物たちの表情や雰囲気に表れる日は遠くないかもしれません。

玉川高島屋で行われていたポップアップの様子。定番の作品と新作を並べている。

>>ぬいぐるみ作家noconocoさんインタビュー vol.はこちら

PROFILE

noconoco/村田雅美

ぬいぐるみ作家。
ぬいぐるみメーカーに勤務後、ぬいぐるみ作家として活動開始。百貨店のポップアップストアやギャラリーでの個展を中心に活動。

noconocom.com

INFORMATION

玉川髙島屋 本館5階 メゾン・エ・ターブル

インテリアアクセサリーやファブリックなどを扱うリビングショップ。

手芸や手仕事の奥深い魅力を共有する編集部の独自コラム。メルマガ限定でお届け。登録はこちらから。

限定情報をいち早くお届けメルマガ会員募集中!