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「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.18 生産者さん探訪記その1 ウアゾアリニ・ハーブ農園

バルト海に面した緑豊かな国、ラトビアに伝わる手仕事の数々。今も昔も変わらない、素朴でやさしい温もりのある伝統的な技、そしてそれらを残し伝えていくベテラン職人、伝統を受け継ぎ新たな形を築く若手作家の作品など。雑貨屋「SUBARU」の店主・溝口明子さんが出会った、ラトビアの手仕事の現在(いま)を現地の写真と共にお届けします。
Text,photo:Akiko Mizoguchi

大自然の中にあるハーブティー農園

どんな環境でハーブが育っているのかを知りたくて、私の店で取り扱っているハーブティー農家、Ozoliņi(ウアゾアリニ)農園を訪問しました。ウアゾアリニは、近隣の小さな集落まで未舗装の道を車で15分という立地で、鳥のさえずりや虫の声しか聞こえない街の喧騒とは無縁の大自然の中にありました。森を含む広大な敷地には湖もあり、到着した瞬間からすでに解放感でいっぱいになりました。

草原の中に建つウアゾアリニ農園の母屋。
敷地内にある湖。足を浸してくつろぎました。
ドローンからの空撮写真。なんと下半分が敷地! ラトビアの大地の平ら具合もよくわかります。©ZS Ozoliņi

ウアゾアリニ農園は、人々がより健全に暮らせるように、自然と鼓動を合わせてゆったりと過ごせるように、そして都会でも手軽にハーブティーが飲めるようにという想いを込めて、2001年にLauku tēja(ラウク・テーヤ)というブランド名のオーガニックティーの生産を始めました。先祖代々受け継いできたハーブの知識と、農園の敷地で実際に手に入る薬草、さらにはあらゆる資料を研究して茶葉をブレンドしたそうです。
現在農園を経営するのは、Evita Lūkina(エヴィタ・ルーキナ)さんとそのご家族。2013年に先代のブリギッタさんから事業を受け継いだエヴィタさんは、先代が練り上げたブレンドレシピや創業の信念を大切にしながら、さらに事業を進めるべく研鑽を重ねています。イギリスのストーンブリッジ・カレッジで薬草学を学び、ハーバリストのディプロマを取得。今では、ハーブの栽培から製品化にいたるずべての作業のほか、ラトビアのみならず世界中から訪れるゲストに、ハーブの特性や活用法、ラトビア独自のハーブティー文化を紹介しています。こうした農園の取り組みが認められ、カントリーツーリズム協会から「Kultūras zīme “Latviskais mantojums”(文化マーク“ラトビア遺産”)」の称号を得ており、ラトビア有機農業協会からは「Latvijas Ekoprodukts(ラトビアのエコ製品)」として認められています。

リンゴの葉や実、ほかのハーブがブレンドされたこのお茶は、先代が最初に販売したハーブティー。

そんなウアゾアリニ農園の畑では、さまざまな種類のハーブがていねいに育てられていました。また、所有地である森では自生しているハーブを収穫できます。

有機栽培によるハーブ畑。
手つかずの森にもさまざまなハーブが自生している。
ハーブを収穫するエヴィタさん。©ZS Ozoliņi

収穫したハーブで作る自然でシンプルなハーブティー

摘み取ったハーブは、通称“ティー・ハウス”(ハーブの作業場)へ運び込みます。そこでのプロセスは実にシンプル。ハーブを乾燥させ、裁断したら完成です。余計なものは一切入っていません。降り注ぐ太陽の光ときれいなラトビアの土と水だけで作られた、自然の旨味が詰まったハーブティーなのです。

畑のそばに建っているこぢんまりとした“ティー・ハウス”。
乾燥中のハーブ。
裁断されたハーブ。袋に詰めたら完成!

エヴィタさんはTējas mandala(ティー・マンダラ)という一風変わったワークショップも開催していて、私も体験させてもらいました。
まずは心を落ち着かせてゆっくりと瞑想。森や自然の息吹を感じ取ります。気持ちが整ったら、10種類ほどのハーブの中から、見て、触れて、匂って、自分の感覚に従って、5種類のハーブを選びます。私はあえて、見た目ではなく香りでチョイス。その方が身体が必要とする成分を素直に選択できる気がしました。

自分の感性に従って、この中から5種類のハーブを選択。

それから、曼荼羅を描くように、選んだハーブを心が感じるままに自由に並べていきます。できあがった曼荼羅をしばらく愛でたあとに、ハーブの風合いを感じながら自分の手でしっかりブレンドすると、オリジナルティーの完成です。名前も自分で考えるので、まさにこの世に一つのハーブティーが誕生します。

こうして調合した私だけのハーブティーは、旅の疲れが溜まっていた身体にいつも以上に沁みました。日本語に訳すと、農園の名前のウアゾアリニは“樫の木さん”、ブランド名のラウク・テーヤは“田舎のお茶”になります。森や湖をゆっくり散策してからハーブティーの工程見学やワークショップを体験したので、それらの名前からも伝わってくるようなエヴィタさんご一家がモットーとする「自然との繋がり」という感覚を、体と心で感じることができました。

エヴィタさんが来日した際に、私の店で開催したワークショップの様子。参加者それぞれ違う曼荼羅ができました。

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INFORMATION

ZS Ozoliņi

住所:”Annas Ozoliņi”, Amatas novads, Zaubes pagasts

PROFILE

溝口明子 Akiko Mizoguchi

ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。

http://www.subaru-zakka.com/

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