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「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.2 「森の民芸市」レポート(後編)

バルト海に面した緑豊かな国、ラトビアに伝わる手仕事の数々。今も昔も変わらない、素朴でやさしい温もりのある伝統的な技、そしてそれらを残し伝えていくベテラン職人、伝統を受け継ぎ新たな形を築く若手作家の作品など。雑貨屋「SUBARU」の店主・溝口明子さんが出会った、ラトビアの手仕事の現在(いま)を現地の写真と共にお届けします。
Text,photo:Akiko Mizoguchi

vol.2「森の民芸市」レポート(前編)

伝統音楽を聴きながら腹ごしらえ

蜂蜜大国のラトビア、蜜蝋も多く並ぶ。ラトビアでは一般家庭でもキャンドルに火を灯す。

民芸市では食材のブースもその一角を占めています。食材のエリアでは、チーズやビール、ハーブティー、蜂蜜、黒パン、お菓子などを生産者から直接買うことができます。
吟味しながら森の中の会場を歩き回っていると、すぐにお腹はペコペコに。後ろ髪を引かれながらお買い物に一区切りしてランチタイムです。
森のはずれの湖のそばに広いフードコートがあり、郷土料理のお店が並んでいました。私は豚肉の串焼きCūkgaļas šašliks(ツークガリャス・シャシリクス)、赤えんどう豆炒めZirņi(ズィルニ)、きゅうりのピクルスMazsālīts gurķi(マズサーリーツ・グルチ)を注文。陽気な雰囲気のなか、広い空の下で食べるできたてのラトビア料理はことさらおいしく感じました。

指差しで注文できるのでラトビア語がわからなくても大丈夫。

会場はつねに音楽で溢れています。フードコートの手前にはちょっとしたステージがあり、いろいろなグループが伝統的な合奏や合唱などを順番に披露しています。

ステージには有名なグループが登場することも。

今回出会った、注目の作家と作品たち

今回の民芸市で特に気になったアイテムをいくつかご紹介します。
こちらはビーズ織りのアクセサリー。ビーズは19世紀頃からベルトとしてラトビアでも活用されていました。現代風にアレンジされたアクセサリーは普段使いにもぴったりです。

ビーズ織り作家のバイバさん。花をあしらったデザインが特徴的。
バイバさんが愛用するビーズ専用の小さな織り機。

陶製の鳥笛「Svilpaunieks(スヴィルパウニエクス)」もラトビアの伝統工芸品の一つ。素朴で愛らしい小鳥たちを見つけました。

陶芸家のインガさんと楽器職人のアレクサンドルスさんご夫妻による合作。
フォルム、模様、表情は一羽ずつすべて異なる。

鍛冶の技術も古くから伝わってきた手仕事。扉の取っ手や棚の留め金具などの多くはかつては鉄製品でした。コロナ禍でお家時間が増えた鍛冶職人のご夫妻が生み出した新しい製品はなんとかぎ針! 編み物好きの奥さまの細かい指示のもと制作されているそうです。

鍛冶職人のトゥアムスさんと奥様のマリヤさん。全ての作品が格好いい。
かぎ針は一点ずつ全て使用感がテストされている。

会場でひときわ目を引いたビーズの冠。ラトビアでは未婚女性は民族衣装着用時にビーズ刺繍が施された冠を、また、一年で一番大切なお祭りである夏至祭では野の花で編んだ冠をかぶります。乙女の必須アイテムともいえる冠がモダンに生まれ変わったデザインです。

藍色の生地と黄金色の金属パーツという組み合わせは、10世紀代前半に着用されていた衣装。高貴さを感じるスタイルが人気で、復刻して身に着ける人が多い衣装です。そんな中世のデザインがマウチ(リストウォーマー)に取り入れられていました。

たくさんの出会いがあった4年ぶりの民芸市

2日間歩き回った4年ぶりの民芸市は、買い付けの成果はもちろんのこと、職人さんたちとの再会の喜びにあふれた時間になりました。
夏至が近いこの時期のラトビアは太陽がいつまでも高く、気持ちがいい季節。緑いっぱいの木々の中に無数の手仕事作品が並び、民族衣装を身に着けた人々が行き交う民芸市は、やはり私にとって世界で一番楽しいお買い物の場所でした。そして同時に、大国の支配に翻弄され辛酸をなめた時代でも、自分たちの伝統文化を守ってきたラトビア人の誇りを感じる場でもありました。
職人さんにとって民芸市とは、1年間作り続けた作品を一堂に並べお客さんに見てもらう大切な機会であり、職人さん同士で作品をお披露目し互いに切磋琢磨できる1年に1度の晴れの舞台でもあります。職人さんと会話をする中で、民芸市に参加することへの意義がひしひしと伝わってきました。
民芸市は毎年6月の第1週末に開催されます。会場のラトビア野外民族博物館へはリガの中心地からバス一本で行けますので、ラトビアの手仕事やフォークロアを五感で感じたい方はぜひ訪問なさってください。職人さんや手仕事との一期一会の出会いを楽しめます。 そして満足いくお買い物ができたなら「Paldies(パルディエス)」、ラトビア語で「ありがとう」の言葉を添えていただえければと思います。

ラトビア野外民族博物館

PROFILE

溝口明子 Akiko Mizoguchi

ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。

vol.2「森の民芸市」レポート(前編

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