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難民キャンプの女性たちが伝える、パレスチナ刺繍

現在も、激しい攻撃が続くパレスチナ自治区。そこに暮らす女性たちによる美しいパレスチナ刺繍を使い、着物の帯を作る「パレスチナ刺繍帯プロジェクト」を主宰する山本真希さんに、お話を伺いました。
photo:Maki Yamamoto(パレスチナ),Mayumi Akagi / text:Mayumi Akagi

ユニークなモチーフのパレスチナ刺繍

パレスチナ刺繍は、もともとはパレスチナの女性の民族衣装や装飾品に施された刺繍が始まり。パレスチナ各地方に特有の民族衣装があり、女性たちは小さな頃から刺繍を学んで、花嫁衣装を自分で作っていました。身につけた衣装の刺繍を見れば、どこの出身かがわかるのだといいます。
パレスチナ刺繍は、主にシンプルで繊細なクロスステッチ。現地ではFellahi(フェラーヒー/農民のという意味)ステッチと呼ばれ、農民や遊牧民が野良着を補強するために生まれたものでした。頑丈で摩耗に強いですが、とても細かいため、作るのにとても時間がかかります。

ラマラの夏の民族衣装。 photo:サメー・リファット

刺繍のモチーフはとてもユニーク。「鳥の羽」「ラクダの目」「老人の歯」「フライパンの中の4つの卵」「くし」「ソファ」「燭台」など、日々の生活や自然、神話などが刺繍で表現されています。
なかでも、地中海沿岸に自生している「糸杉」は、特徴的なモチーフのひとつ。また「ベツレヘムの星」はクリスマスの夜に、三人の賢者を導いた星を表しているといいます。

真ん中に縦に並んだ模様が「ベツレヘムの星」。

「ベツレヘムの星は、パレスチナでとても人気のある模様のひとつ。昔は絹糸が使われましたが、今はDMCのコットン糸で、2色で刺繍することが多いです。日本人には思いつかないような配色がおもしろいですね。カラフルな赤もたくさん使い、模様の作り方ですぐにパレスチナ刺繍だとわかる世界観が作られているところが、すごいなと思います」と山本さん。

山本さんはパレスチナの刺繍帯を通して、パレスチナ刺繍の魅力を伝え、女性たちの自立をサポートしながら、大学でパレスチナ刺繍が女性の自立にどのような影響を与えるかについても研究しています。

「パレスチナ刺繍帯プロジェクト」山本真希さんと着物帯。

「パレスチナ地方の染色産業の歴史は古く、刺繍で装飾された衣装をエジプトのファラオに献上していたという記録も残っています。農民はかつて、コットンやインディゴ、麻など、さまざまな染色植物を作っていました。 パレスチナ刺繍は鮮やかな赤色が特徴で、サボテンやあかね、ざくろで染めた、さまざまな赤色のほか、ぶどうの黄色、貝やインディゴの青色などで糸を染めて使われていました。パレスチナ各地に織物工場があり、作られたテキスタイルは商人がパレスチナ内、シリア、エジプトで貿易をしました。シリアの絹織物や絹糸は衣装の装飾にもよく使われ、農民の女性は農作物と糸や布を商人と物々交換をしたり、農作物の売り上げで現金を得て、ドレスの材料を調達していたんです」。

刺繍の変化

パレスチナの女性は出身地の模様を刺繍していたため、ドレスが身分証明書のようなものだったと話す山本さん。どのような人間か、どれだけクリエイティブな刺繍の技術を持っているかを表現する手段でもあったのだとか。

パレスチナ各地の民族衣装 ©Palestinian Heritage Center
左から、ベツレヘムの既婚女性の帽子と民族衣装。コインなどの装飾が多く施されている。

そんな刺繍が大きく変化したのが、1948年のイスラエル建国。多くのパレスチナ人が住む場所を追われて難民に。女性たちは生き残るために、貴重な刺繍ドレスを切り売りして食べ物と交換していました。それほど、刺繍には価値があったといいます。
その後、1980年代後半から第一次インティファーダ(※)がスタート。イスラエルからパレスチナの国旗を掲げることを禁止されていたため、女性たちは国旗を自分の着るドレスに刺繍しはじめました。女性ならではの非武装の抵抗が、刺繍で力強く表現され、後に「インティファーダ・ドレス」と呼ばれるようになったそう。
※主にパレスチナ人が行った、イスラエルに抵抗する民衆蜂起

インティファーダドレス。widad-kawar-home-for-arab-dress-©tanya-traboulsi-for-the-Palestinian-museum-2

刺繍は、女性たちが自立する手段

その後も度重なる戦争を経て、刺繍をなんとか守ってきたパレスチナの女性たち。パレスチナ人の文化的アイデンティティの象徴として、また経済的な自立の手段として、1960年代ごろからNGOや国際団体が増え、支援を受けながら刺繍が作られています。ガザ地区の封鎖とヨルダン西岸のイスラエルによる占領によって、支援を受けないと刺繍を作り、販売できないのが現状です。

ガザの民族衣装。
西岸アロウラ村にて、刺繍する女性たち。

また、高価な刺繍のドレスは富裕層のパレスチナ人以外にはなかなか売れないため、外国人に向けてポーチやキーホルダー、ストールといった刺繍のアイテムが作られはじめました。

外国人向けに作り始めた刺繍小物。

NGOは、厳しい状況下にある女性たちに刺繍の仕事を発注し、賃金を払うことで支援をしています。
そのなかのひとつ、ガザ地区にある国連のNGO「UNRWA」傘下の団体は、世界各地から英語で注文を受け、布と糸を準備し、各難民キャンプにあるWomen’s centerに刺繍職人を集めます。刺繍職人たちはそれぞれ家に持ち帰って刺繍し、後日NGOが回収して賃金を払うという仕組みに。仕上げの縫製は、NGOが本部にあるミシンを使って行い、国連の名のもとに発送しています。ガザ地区はものの出入りが厳しく、送金も難しいため、ニューヨークにある国連の口座に送金することで、封鎖下、占領下のなかで工夫をしながら女性たちが刺繍を続けて、収入を得ることができる状態です。

アトファルナ:ガザで刺繍をするろう者の女性たち。 -CCP-Japan

最近では、小規模でより自立性の高い生産をするところもあり、材料の調達から縫製、値付けまで自分たちでしているところもあるのだといいます。

ラマラにある刺繍生産NGO ミシンのトレーニング。
ラマラ中心部には手芸店も。

日本でできる支援の形

美しいパレスチナ刺繍を伝えてきた女性たちが、今無事なのかどうか、残念ながらまだわからないという山本さん。ですが日本にも、パレスチナ刺繍で帯を作る山本さんのようなソーシャルビジネスとして活動する団体のほか、完全支援という形で活動をするNPO、チャリティー活動をする団体など、さまざまな方法でパレスチナ刺繍のアイテムを販売している団体があります。このような団体で販売されている商品を購入することが支援につながります。

ワークショップの様子。

そのほか、山本さんはパレスチナ刺繍についての講演やワークショップを行っています。この日は参加料が寄付できるワークショップで、参加者は着物の半襟に「ベツレヘムの星」を刺繍しました。

ワークショップで刺繍した半襟。抜きキャンバスでクロスステッチする。
文化イベントで、シルクロード地域の民族衣装とそれらを用いた帯を着用して。photo Yuichi Mori

「確かに支援はしていますが、支援しているという言葉はできるだけ使いたくありません。素敵だから、かわいいから購入するのがサステイナブル。戦争がなくても常にパレスチナ刺繍の帯が売れるようにしたいし、しなければならないと思っています。
パレスチナ刺繍は長い間、たくさんの戦争を乗り越えてきましたが、パレスチナの女性たちと世界中の人々がサポートしてきたからこそ今があります。現代化により世界中の手仕事がなくなりつつありますが、戦争による文化の破壊は、決して許してはいけないと思っています。
受け継いできた文化に敬意を表したい。ワークショップでパレスチナ刺繍をすると、とても細かくて、大変さがよくわかるんです。ちゃんと完成させて実際に使うことで、これがパレスチナ刺繍だと周りの人に伝えてほしい。今は厳しい状況にありますが、こんなに素晴らしい伝統文化がパレスチナにあるということを知ってもらいたいです」

PROFILE

パレスチナ刺繍帯プロジェクトby ICEJ・Palestinian Embroidery OBI Project 

パレスチナ自治区の難民キャンプや農村に住む、女性たちによる手刺繍の帯をつくり、パレスチナ女性の経済的な自立支援、パレスチナ文化の継承を目指す。

INFORMATION

日本で購入できるパレスチナ刺繍

パレスチナ子どものキャンペーン「タトリーズ」
https://shop.ccp-ngo.jp

パレスチナ・アマル
https://www.palestine-textiles.jp

架け箸
https://kakehashi-palestine.com

日本国際ボランティアセンター
https://www.ngo-jvc.net/activity/palestine.html

NICCO
https://kyoto-nicco.org/project/palestine.html

国立民族博物館
https://www.minpaku.ac.jp/information/guide/shop

PROFILE

赤木真弓 Mayumi Akagi

フリーランスのライター、編集者。イベントなどで古書を中心に販売する書店「greenpoint books & things」店主。
旅好きライターユニット「auk(オーク)」としても執筆活動を行なっている。
著書に『ラトビア、リトアニア、エストニアに伝わる温かな手仕事』(誠文堂新光社刊)、共著に『ベルギー・ブリュッセル クラシックな街歩き』(産業編集センター刊)、『「好き」を追求する、自分らしい旅の作り方』(誠文堂新光社刊)ほか。

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