「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.6 職人さん探訪記その2 白樺細工職人カスパルス・マダラご夫妻(後半)
>>職人さん探訪記その2 白樺細工職人カスパルス・マダラご夫妻(前半)
民芸市で久しぶりの再会
今年の民芸市ではそんなご夫妻に久しぶりに会うことができ、あらためてお二人のなれそめや白樺細工の事を聞いてみました。
叔父さんが白樺細工職人だったというカスパルスさん、12歳のときにお小遣いをもらうためにその仕事の手伝いを始めたのがきっかけだったそう。最初は材料の下処理しか任せてもらえず、初めてかごを編めたのは3年後のことだったと言います。
その後は建設業で働くかたわらで贈り物や特別なオーダー品だけを手掛けていたそうですが、運命の出会いが訪れました。在籍していた芸大での卒業制作の課題の一つに白樺編みを選んだマダラさん、作品作りの手助けしてほしいとカスパルスさんに連絡したことが二人の出会いのきっかけになりました。
作業を進めていくうちにマダラさん自身も次第に白樺編みに魅せられていき、ついには一人で作品を完成させたそうです。
マダラさんの卒業を機に二人そろってリーガトネに移り住み、白樺細工が生業になりました。現在は、力仕事である樹皮の採取や材料の準備、大きな作品を編むのがカスパルスさん、中サイズ以下の作品を編むのがマダラさんと日々の作業を分担し、二人三脚で工房を切り盛りしています。春から夏にかけてはお祭りやイベントに出店したりワークショップを行い、秋から冬にかけては工房にこもってオーダー品を制作したり、次のシーズンに向けて下処理を行って過ごしているそうです。
「材料の準備はとても大変ですが、テープ状の白樺を交互に編み上げることで作品の形ができあがっていくのを見るのは何よりも楽しいです。編んでいるときは頭が空っぽになるので、それがかご編みに魅了される理由かもしれません」とマダラさんは言います。二人で参考になりそうな資料を集めているので、そこから着想を得て常に新しいデザインの作品作りに取り組んでいるそうです。
「この数十年で熟練した白樺細工職人がかなり減ってしまったので、私たちは自分たちが行っていることに敬意を払い、自身の技術の向上を目指すだけではなく、他の人にも伝えていく努力が必要なのです」と力強く語ってくれました。
PROFILE
溝口明子 Akiko Mizoguchi
ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。