STORE

第7回 ウズベキスタンの木彫り-姉妹が行く! 世界てくてく手仕事の旅

2024年春、姉妹で世界一周の旅に出た手仕事ライターの毛塚美希さんと、酒場文化が大好きな妹の瑛子さんの連載がスタート! 姉妹旅のテーマは①手仕事、②食文化と酒場、そして③囲碁交流…!? 地域に根ざした手仕事と食文化、ときどき囲碁にまつわる旅エッセイをお届けします。第7回は、ユネスコ世界文化遺産にも登録されているブハラ歴史地区を彩る木彫りの世界です。
photo & text: Miki Kezuka & shimaitabi, edit: Hinako Ishioka

ウズベキスタンには連載の第6回で紹介したスザニをはじめ、リシタンの青い陶器やマルギランのアトラスと呼ばれる織物と染め、コウノトリのハサミなどの鍛冶製品、コーヒーペイントなどたくさんの手仕事があります。
今回は、さまざまな有名な手仕事の中でもウズベキスタンを訪ねてから面白い!と興味を持った木彫りについてご紹介します。

ヒヴァにあるDost alam madrasahという木彫り工房の様子。
ブハラの土産屋の店頭で、コウノトリのハサミを作っている様子。

砂漠の広がるウズベキスタンで、木工のイメージはなかったのですが、現地を旅する中で木彫りの装飾がモスクの柱や扉などに使われているのを見つけました。木彫りの職人さんが彼自身も重要な建築の扉の修復も行っていると教えてくれ、興味を持ったのがヒヴァの木彫り工房を訪ねたきっかけです。

ヒヴァにあるパフラヴァン・マフムド廟。木彫りの柱が美しい。

木彫りとの出会い

木彫りや木工細工は世界の至る所で見かけますが、サマルカンドにあるマドラサと呼ばれるイスラム神学校の中庭の土産屋の一角でふと木彫りの作業風景を見た時に、何か目が離せない惹かれるものがありました。

サマルカンドにて見かけた木彫り職人さんの様子。

ただ木彫りでデコレーションされただけでなく、カラクリ箱のようなつくりになっており、構造やアイディアに工夫があり職人の技が光っていて面白いのです。

職人さんの彫っていく様子は滑らかで美しく、ずっと見ていたくなった。

話を聞くと、普段はモスクの柱や扉の修復をしている職人さんだそうで、大きな仕事がない時はこうして観光客向けの土産品も作っているとのこと。手仕事の技術が文化財や歴史ある建築の修復を支えていると知り、自分の中の手仕事の世界が広がったような感覚でした。

壁には彼の修復したモスクなどの写真が並ぶ。

それからヒヴァが木彫りで有名な街と聞き、訪ねてみることにしました。ヒヴァにあるイチャンカラと呼ばれる城壁の内側の街を歩くと、家のドアやモスクの柱や扉にも木彫り細工が施されていることが分かります。街の土産屋でもよく見かけた木彫りや木工細工の品が、地域の伝統や文化、建築と結びつき、もっと知りたいと思うようになりました。

ヒヴァのイチャンカラにあるモスクの扉。
ヒヴァのイチャンカラにある家の扉。
土産屋には木工品も多く並ぶ。りんごのバスケットは折り畳んで一枚の板のようにすることができるなど、ちょっとしたアイデアや技のあるものも多い。

ヒヴァの木彫りの歴史

ヒヴァはウズベキスタンの西側に位置し、首都のタシュケントからは約700kmほど離れています。2500年以上の歴史があり「博物館都市」とも呼ばれ、16世紀からヒヴァ•ハン国の首都として栄えました。ヒヴァにある内城都市という意味の城壁に囲まれた「イチャンカラ」には多くのモスクやマドラサをはじめとする重要な建築物が数多くあり、1990年にユネスコの世界遺産にも登録されています。

ヒヴァのイチャンカラの広場では、毎日伝統的な演劇のショーが行われている。踊り出す人もいて、とても素敵な雰囲気。

ヒヴァにはアムダリア川が流れ、肥沃な地域からクルミなどの丈夫な木材の供給ができます。イスラムでは偶像崇拝が禁止されているので植物をモチーフにしたアラベスク模様の木彫りが発展しました。

美しい王宮の扉。木彫り以外からもアラベスク模様の手仕事がイスラムの建築にとっていかに重要かが伝わってくる。
手描きのアラベスク模様が美しいタイル。
モスク内部もタイルや木彫りをはじめ多くのアラベスク模様で彩られている。

木彫り工房を訪ねて

ヒヴァにはたくさんの木彫りの工房やお店が並びますが、一際目を引いたのが、Dost alam madrasahというこちらの工房でした。

案内してくれたのはミルジャロンさん。こちらの工房はミルジャロンさんのおじいさんが1976年頃に始め、お父さん、ミルジャロンさんと代々受け継がれてきました。ミルジャロンさんは22歳とお若いですが、10年以上の経験があり、生徒さんもいるそうです。
生徒さんも含めて11人が働くこちらの工房は、ヒヴァで最大の規模で最も古く、現在は生徒さんが独立してそれぞれに自分の工房を持っているといいます。

ミルジャロンさんの作業する様子。
手元の様子。
工房は職人さんの雰囲気と子猫が相まって独特な落ち着きがありとても癒される空間。
生徒さんにオイルペイントのコツを教えている様子。
生徒さんが木彫りを施したボードを切り出していく様子。

興味深かったのが、手工芸のマスター制度です。ウズベキスタンでは、スザニや木彫り、陶器をはじめ、職人さんの元に弟子入りをして、生徒としてそこで技術や知識を学び、独立していくというこのマスター制度が強く根付いています。そのため、組織的な会社とも個人の手仕事とも違った手工芸への誇りと情熱のある”職人”の色を濃く感じることができます。

マスターの作ったカッティングボード。細部まで美しい。

前回のスザニで紹介をしたブハラのリナさんの工房も、同じようにマスターである彼女たちの生徒さんの作品を販売していました。
14歳のブンニョッドさんもまた、ここの工房の生徒さんです。木彫りが好きなのと、ゲームやスマホで時間を無駄にしないようにと、日々ここで技術を学んでいるそうです。
ちょうどこれを作ったんだよ、と嬉しそうにわたしたちに見せてくれ、そのあとマスターのミルジャロンさんに見せてアドバイスをもらい、すぐ修正に取り掛かっていました。

ブンニョッドさんが制作する様子。

文化財の木彫り

ドアや柱とさまざまな建築で木彫りを見かけましたが、特に印象的だったのが”ジュマモスク”と呼ばれるモスクです。
10世紀からの建築で、改築や修繕を重ねられて来ましたが、213本の木柱のうちいくつかは10世紀から残るものもあるといい、一つひとつ違った美しい木彫りの模様が施されています。

ジュマモスクの内部。木彫りの柱が並ぶ様子は圧巻。
ベテランの職人さんが柱を制作する様子。
木材には割れ目を補修した跡もあり、木彫りだけでなくより高い技術が必要となる。
工房の奥で黙々と作業される姿がカッコいい。

デザインや木の種類

デザインはイスラム教の影響でアラベスク模様が中心です。木彫りだけでなく陶器の柄としても人気のある綿花が描かれていたり、下の写真のお花には長寿を祈る意味が込められているそうです。

長寿を祈る花模様。

また、木の色を活かして塗装しないのが基本で、ドットのような細かい穴を開けることで濃淡を表現し、遠くからでも立体的でより美しく見えるようにと、工夫が詰まっています。

奥になる部分にドットを施すことでその部分の色が濃く見え、立体感が増す。
7つもの形に変形できるコーラン台。コンパクトになり持ち運びがしやすく、おじいちゃん、お父さん世代はお祈りの際にコーラン台を利用していたそうですが、今はスマホでコーラン見ながらお祈りするのが主流であり、コーラン台は日常使いというより観光客向けになったそう。
コーラン台の制作過程。なんと一つの木材から4板を切り出すように作られており、すべて繋がっているというのは驚き。

後日、木材のことも教えていただきました。すべてウズベキスタンで採れる木材であり、エルムと呼ばれるニレ科の木材は、比較的柔らかいため模様を彫りやすく、それでいて腐りにくく丈夫です。ウォルナットはニレと比べてさらに硬く重いですが、より丈夫な素材であるため、扉や柱、コーラン台やカッティングボードには主にこれら2つの木材が使われているそうです。

国が大切にする職人の手仕事

ウズベキスタンならではと感じたのは、クラフトセンターやモスクやイスラム教の神学校であるマドラサの中庭に職人さんのお店兼工房が並び、トップレベルの技術者たちの技や職人さんたちの空気感を身近に見ることができたことでした。
手仕事が衰退していく中で、文化財を修復するという形で伝統的な技術が継承され、歴史的な建築を支えていると実感できたこともとても心に残っています。

Tash Khovli Palaceという王宮の風景。柱からタイル、天井まで美しい装飾がたくさん施されている。
ヒヴァで出会ったイラン人の建築を学んでいる男性が、ヒヴァは建築の修復技術の高さで有名だと教えてくれた。

また、スザニにも繋がることですが、インテリアや雑貨として手仕事が独立しているのではなく、建築と融合しているのを強く感じた国でした。
マスター制度が主流であったりと、国として伝統的な手仕事を大切にしている雰囲気がとてもよく伝わってきて、手仕事好きとして大好きになった国の一つです。
みなさんもぜひ、ウズベキスタンでシルクロードのロマンと職人さんの手仕事に出会う旅をしてみてはいかがでしょうか?

集中する職人さんの独特の美しい空気感はどこか温かく、子猫も落ち着くのかもしれません。

shimaitabi の食日記 ~ウズベキスタン編~

2024年9月8日 @サマルカンド
ウズベキスタンのメロン

ウズベキスタンと言えば前回紹介したお肉の旨みと油をたっぷり吸った炊き込みご飯‘プロフ’や串焼き肉の‘シャシリク’などの肉料理が有名ですが、実はフルーツがとっても美味しいフルーツ大国なのです。

各都市のメインバザールにもストリートの商店でもスイカやメロン、ザクロ、ブドウ、洋梨、リンゴなど多種多様な季節のフルーツが並んでいました。

特に感動したのはサマルカンドの宿のお母さんがお裾分けしてくれたメロン。甘味が凝縮しているのに瑞々しく爽やかで、今まで食べたメロンの中で1番美味しかったです。いただいたメロンと近くの商店で買った大きなノン、はちみつとカイマックにウズベキスタンの定番の緑茶を淹れて現地の食材の朝ごはん。宿中庭のテラス席の上には葡萄もなっており、果物を身近に感じながら優雅な朝の時間を楽しみました。


次回もお楽しみに!

PROFILE

世界一周 姉妹旅 毛塚美希・瑛子 Miki, Akiko Kezuka

その土地の暮らしと文化に触れるのが好きで、世界一周の旅に出た20代の姉妹。手仕事を中心にライティング、買い付けを行う。姉は元インテリアメーカー勤務、妹は元食品メーカー勤務。手仕事、食と酒場、囲碁をテーマに、自由きままに各地を巡る。

小さな村でホームステイ、工房巡りに、そのまま地元の人達と乾杯! そんな日々の暮らしに溶け込むその土地らしさを感じたままの温度でお届けします。

HP: https://sites.google.com/view/shimaitabi?usp=sharing

限定情報をいち早くお届けメルマガ会員募集中!